作品タイトル不明
猫耳ニンジャ爆誕 ㉑
「くっ!」
『ふみゃ!?』
迫ってくる巨大なヘビが相当に怖かったのか、びょん! と、ノーアが飛び上がったところへ、ドスンと巨体が落ちる。
「うおりゃ―――!!」
私の目は高く飛び上がったノーアの姿を追っていたけど、ズシンと地響きと砂埃を舞い上げて触角ヘビが着地する直前、オーリアちゃんが頭上へ横薙ぎに剣を振ってパッと血が散ったのと、ヘビを追って小さな人影が飛び込んで行った姿は視界の端に捉えていた。
私の目線がノーアから地上へと引き戻される。
「どうだ!」
「ルナリア!?」
のたうっているヘビの頭部に乗っかって逆手に握った短剣で地面に縫い付けているのは、私のすぐ後ろ辺りに居たはずのルナリアだった。
慌てて駆けつけると、オーリアちゃんが大きく切り裂いた喉の傷からドクドクと鮮血が流れ出ていて、上から脳天を貫いたルナリアの剣と、横薙ぎに斬ったオーリアちゃんの剣の、どちらもが触角ヘビに致命傷を与えていたことが分かる。
オーリアちゃんは空中の触角ヘビに一撃を入れると同時に後方へ飛び退いていて、油断なく剣を構えたままだ。
頭を足で踏ん付けているルナリアの剣は見事に中枢神経を捉えていたようで、直ぐに触角ヘビの巨体は僅かに痙攣するだけとなり、ぐったりと横たわった。
「・・・二人とも、無事!?」
「大丈夫よ!」
「私も無事です!」
やり切った感を出しているルナリアと、ようやく警戒を解いたオーリアちゃんから即座に返事が返って、ホッと胸を撫で下ろす。
「・・・良かった! ノーアは!?」
「あそこです」
ノーアの行方を確認していてくれていたらしいアリアナさんが指す方向を見ても、ノーアの姿は無い。
もう脅威は無いと判断して剣を鞘に収めるアリアナさんが複雑そうな表情で首を振る。
「上です」
「・・・え?」
街道脇に立っている若木を見上げると、5メートル以上もの高さがある枝にしがみついて、毛が逆立った尻尾をピンと立てたノーアが、私たちの足元で力無く伸びている触角ヘビを、じっと見下ろしている。
頭の上のネコ耳がヘビの方へピタリと向けられたままということは、もの凄くヘビを警戒しているのだろう。
「・・・なんで、あんなところに?」
「飛んできたバジリスクを避けたときに、あの枝まで一気に飛び上がりました」
「・・・あそこまで?」
どう見ても、ノーアが居る枝は、2階建ての木造家屋の屋根ぐらいの高さがある。
忍者モノ映画のワイヤーアクション並みの跳躍力だよ。
「身体強化術式でしょう」
「・・・えっ! まだ3歳だよ?」
「才能が有るのは良いことなのですが、自信を失ってしまいそうです」
「・・・才能? 私もまだちゃんと使いこなせていないんだけど、そういうものなんだ?」
「たまに居るのですよ。誰にも教わらなくても身に付ける子が」
獣人族は 身体能力(フィジカル) に特化した人が多いと耳にするけど、アリアナさんの口ぶりからすると、これが獣人族の標準というわけでは無いようだ。
「・・・ほえー。天賦の才ってヤツ? スッゴいなあ」
「貴女がそれを言いますか」
「・・・ん? 私がどうかした?」
アリアナさんが首を振る。
「ああ、いいえ。とにかく、降ろしましょう」
「・・・あっ。そうだね」
枝の下へ向かってノーアに声を掛ける。
『・・・ノーア。もう大丈夫だから、降りておいで』
『ねさま・・・』
私が呼ぶ声で我に返ったノーアの目が、ほぼ真下に居る私へと移って、ピンと立っていた耳と尻尾がへにょりと力を失う。
『こわい』
『・・・もう怖くないよ。さあ、降りておいで』
『こわい』
もぞもぞと身を捩ったノーアは枝に抱き付いたまま、涙目で、ふるふると首を振る。
「・・・これは、触角ヘビが怖いのではなく、高さが怖くて降りられないってことかな?」
「鞍の上に立っても、さすがに、あの高さには届きませんね」
何かに驚いて木の枝に登った小猫が降りられなくなるのは、定番と言えば定番だなあ。
ルナリアたちの方を見ると、トドメを刺し終わったヘビの長い体を水道ホースのようにクルクルと巻いて片付けに掛かっている。
結構な大物だけど、アレ、1頭の馬に積めるのだろうか?
無理っぽいなあ、と、思ったら、やっぱり無理そうで、巻きかけた触角ヘビを再び解いて伸ばし、ブツ切りにする方針に変更したようだ。
腰のナイフを抜いたピーシーズが伸ばした触角ヘビに取り付き始めた。
あっちは、みんなに任せて、私はノーア救出に集中しよう。
みんな、獲物の処理に手を取られているから、手伝って欲しいとは言い辛いな。
私とノーアの傍に付いてくれているのはアリアナさん一人だ。
あの枝の高さなら風ジェットカッターが届くし、ロープを出して誰かに登って貰うまでも無いか。
「・・・仕方ないな。ただでさえ今日は時間が無いし」
「私が下で受け止めます」
「・・・ありがと。お願い」
私の意図を察してくれたアリアナさんと立ち位置を代わる。
『・・・ノーア。そのまま目を瞑ってジッとしててね』
『にゃ』
素直にノーアが目を瞑ったのを確かめて、私は風ジェットカッター魔法を発動した。
『ふにゃっ!?』
アリアナさんとノーアに当たらないように私が腕を振るうと、シュカン、と、軽い擦過音と振動を残して円盤状の風の刃が枝の幹側を通り過ぎ、自重すら支えられなくなった枝がノーアごと落ちてくる―――、はずだったのだけど、予想外の事態が起こった。
不意に始まった自由落下の浮遊感に驚いたノーアが枝から手を離し、空中で枝を蹴ったのだ。