軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猫耳ニンジャ爆誕 ⑳

「・・・ノーアも森に行って良い、って」

「もり! おにく!」

私の王国語から「森」という単語を聞き取ったノーアが目をキラキラさせる。

「あら。もう王国語が分かるようになったのね」

「・・・まだまだですが、今しばらくで話せるようになるかと」

「統一文字も半分以上は覚えていましたよ」

「そう。子供は柔軟だと言え、貴女もノーアも大したものだわ」

どうやら、3歳で文字を覚えるのは早いことらしい。

新しい孫の成長に目を細めるお婆様にセリーナ様も目を細める。

日本だと、どうだったかな?

小学校へ上がる6歳になる前には平仮名ぐらいは読めるのが普通だった気がするけど、それでも3歳で文字を読めるようになるのは早い方なのだろうか。

よく分からないけど、もう一押ししておこう。

『・・・ノーア。お姉ちゃんが言った通りに真似してみて』

『にゃ』

「・・・ありがとうございます」

「ありがとうございはす?」

セリーナ様たちに頭を下げる私を真似てノーアも頭を下げる。

セリーナ様もお婆様も西方語話者だから西方語での私たちの会話も聞こえているし、ノーアの教育の一環であることはセリーナ様たちの目にも明らかだ。

『・・・惜しい! 残念賞! “は”じゃなくて“ま”だよ』

「“ま”? “ま”」

「ほんと。惜しかったわね」

素直に言い直したノーアに、セリーナ様がクスリと笑う。

「語学の進度は分かったわ。引き続き頑張りなさいな」

「・・・はい」

話の終わりを示して、お婆様がパチンと手を打ち合わせる。

「ほら、早く食べてしまいなさい。昼食が終わったら直ぐに出発しますから、そのつもりで行動しなさい」

「・・・承知しました」

「ええ。承知しましたわ」

指針が示されてテレサも了承を返す。

昼から出掛けても2時間程度は練習の時間が取れる。

食事を再開したテレサと私は標準的に量が多いウォーレス領の昼食を頑張ってお腹に詰め込んだけど、ルナリアもノーアも同じ量を食べてケロリとしていた。

『にゃ・・・』

ポックリポックリと長閑な蹄の音に併せてノーアの尻尾がゆらゆらと揺れる。

私の鞍の、私の前に座らせたノーアは、初めて見る森の景色に臆することなく、きょろきょろと興味を引く物へ耳を向け、目を向け、顔を向け、忙しくしている。

ほんの数ヶ月前、私もお母様の馬に乗せて貰っていたことを思い出して、めまぐるしく変化する数ヶ月間だったと感慨深い気分になる。

松の大木の洞で暮らしていた頃は毎日を生き抜くだけで必死だったし、まさか、私に家族ができて、妹が出来るなんて考えもしなかった。

右へ左へと動き回っていたノーアの頭がピタリと一方向へ固定された。

ん? ―――、斜め上?

『・・・どうしたの? ノーア』

『ねさま。あれ、なあに?』

「・・・―――、! 触角ヘビ!」

ノーアが指した樹上を認めて私は警告を発する。

「馬を止めろ!」

「警戒態勢!」

「どこですか!?」

馬上では小回りが利かないから迎撃に当たる皆が一斉に下馬する。

逃げるだけなら騎馬の方が有利だけど往来の安全を守る立場の私たちが逃げるわけには行かない。

今、最初に守るべきはテレサだけど、今日はセリーナ様たちが同行しているためテレサは馬列の後方に居るので、あの位置まで触角ヘビが辿り着くことは無いだろう。

次に守るべきはルナリアだけど、身体強化魔法を修得して自信を付けたルナリアは既に下馬して前へと出て来ているし、下がれと言っても聞かないだろう。

私が一番前へ出ている以上、私の隣に立ち続けようとするルナリアを止める言葉を私は持っていない。

むしろ、私と対等で在り続けようと努力を惜しまないルナリアの存在が心強い。

最近は特に、夜更かししている私よりも早い時間に起き出して剣術の訓練をしているらしく、近接戦ではルナリアの方が私よりもずっと強いしね。

ノーアを背中に庇う私も魔石を取り出して、いつでも迎え撃てるように風ジェットカッター魔法を発動して構える。

ノーアが傍に居ると私が自由に動けないと判断したのか、オーリアちゃんがノーアを後方へ連れて下がってくれた。

「・・・ありがと、オーリアちゃん!」

安全上の懸念が減った私たちは、樹上からこちらへ首を向けている触角ヘビを睨む。

大人数を相手に飛び込んで来れば討ち取られて食肉になるんだけど、魔獣は戦力差を考えないのか飛び込んで来る。

野生動物と魔獣の違いは、生存本能に従うかどうかの差だと私は感じている。

採掘場で勝手に増殖しているシカを見れば、魔獣は本当に生物なのかどうかも怪しいんだけどね。

10メートルほど頭上の太い枝の上で、触角ヘビの体がグッと縮んだように見えた。

「―――、来るよ!」

「「「「「はっ!」」」」」

私の警告にピーシーズが各々の武器を構え直した瞬間、触角ヘビの長い体が宙へ飛んだ。

予想を裏切って、前面で構えている私たちの遙か頭上を大きく飛び越えてゆく。

「えっ!?」

「どこへ!?」

ホームランボールを目で追い掛ける野球選手のように、宙を飛ぶ触角ヘビを視界に捕らえたまま身を翻した先に居るのは―――

「・・・ノーア! オーリアちゃん!」

驚いた表情で尻尾の毛を逆立てているノーアに向かって触角ヘビが落下して行く。

ノーアを後ろへ押し退けて、剣を構えたオーリアちゃんが前へ出た。