軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猫耳ニンジャ爆誕 ⑲

「テレサの訓練を急ぎなさいな」

「・・・テレサの?」

昼食の席でセリーナ様から下された指示に、私たちはチラリと視線を交わす。

それは、つまり、テレサの王都帰還が近いということだ。

セリーナ様のお話に集中するために私がカトラリーをお皿の上に置くと、私の動作をそのまま真似たノーアもカトラリーを置く。

お手本の私の食べ方を真似ることで、ノーアは食事マナーを学んでいるのだ。

ノーアの行儀作法を監督しているお婆様からお許しが出て、この昼食からノーアも私たちと同じ食卓に着いている。

まだまだ、ちゃんと出来ているとは言い難いけど、セリーナ様たちは幼いノーアのテーブルマナーの修得進度よりも、私と食卓を共にしながら情報共有する利点を優先したらしい。

テレサが王都へ帰るなら、ミリア叔母様とアレイオス叔父様も一緒に王都へ帰る可能性が高いな。

叔母様たちやアスクレーくんの姿が見えないと思っていたら、私がノーアに掛かりきりになっている間に、アレイオス叔父様がウォーレス領周辺の他領との交渉に出掛けるのに付いて行って、アレースお兄様とアスクレーくんの見聞を広める社会勉強にミリア叔母様が連れ回していると、食事が始まる前に聞いた。

食事の席にノーアの同席が許されることになったのも、叔母様たちが居なくなる、そのお零れか。

人の数が減ると一気に寂しくなるからね。

状況が変わりそうなのでセリーナ様とのお話に意識を集中する。

「・・・どの程度の猶予が有りそうですか?」

「短ければ数日間。最大でも2週間ほどでしょうね」

何を根拠に残り日数を見積もったのだろうか?

私と同じことを考えたのか、テレサが大叔母であるセリーナ様を見る。

「戦場に動きが有ったのでしょうか?」

「最近、町で作られている“新しい携行食”を送ったでしょう。アレで領軍全体の戦意が回復したそうよ。―――フレイアも含めてね」

「・・・そうですか。良かった」

お母様たちの気分転換になってくれたか。

心の底から安堵する。

ノーアのことで忘れていたけど、贈り物の結果は、ノーアを連れ帰ってくれた輜重部隊の人たちが把握していて当然だよね。

でも、日数の見積もり根拠としては弱い気がする。

テレサたちは意外だったのか目を丸くした。

「あの変わった干し肉でですか?」

「私たちが市場で買い集めたアレね!」

「心が鈍ると判断も鈍る。戦争という非日常で麻痺した心に日常を思い出させることは、人心を正常に戻す。そういう意味で、殿下たちが送った物資は良い効果をもたらした」

「・・・心の慰撫はヤル気に直結するんだよ。頑張って勉強しているときに、おやつを食べたらホッとしてヤル気が出るよね?」

お爺様の難しい言い回しを簡単に翻訳すると、納得顔のテレサとルナリアが大きく頷く。

「それと、フィオレ。お前が提案した“準備砲撃”の効果をピーシス領で検証させた。儂からもフレイアに報せてある。結果、戦闘は早々に終結するものと判断した」

ハインズ様からの新情報に私も納得する。

こっちでも戦術の検証実験をしていたことは知らなかったけど、良い結果が出ていたようだ。

「戦術」と「私」の関連性が意外だったらしいテレサとルナリアが驚いて私を見る。

「フィオレが?」

「・・・思い付きだよ。魔法史の本に書かれている戦術が使えないかって相談したの」

「また夜更かししてましたのね?」

「ちゃんと寝ないと駄目よ!」

テレサとルナリアの視線がジト目に変化する。

四六時中、一緒に居るのに、私が単独で読書をする時間は二人とノーアの就寝後しか無いのはバレバレだからね。

「・・・あはは。少しだけだよ」

「本来は叱るべきなのですけれどね。お陰で見通しが立ったのですから、今回は目を瞑りましょうか」

「・・・申しわけ有りません」

お婆様は笑ってくれているけど頭を下げる。

私の深夜作業はちょくちょく有ることだけど、ここのところは特に、西方語の発音練習をしたり、ノーア用の五十音表を作ったり、お母様への手紙を書いたりと夜更かしが続いている。

領主館のメイドさんたちから報告が上がっているのだから、私の夜更かしはお婆様にも、当然、バレバレだ。

子供の夜更かしをお婆様が快く思わないことは理解しているし、睡眠不足が私の体の成長にとって良くないことは、私自身もよく分かっている。

それでも、帳尻を合わせるには、私の深夜作業が最も効率が良いと判断した。

お婆様の「見通しが立った」という言葉に大きく反応したのはルナリアだ。

「じゃあ、戦争は終わるのね!」

「フレイアなら検証結果の情報を上手く活かすでしょう」

ルナリアの期待に、お婆様が深く頷く。

目を細めてルナリアを見るハインズ様たちの表情にも安堵の色が見える。

みんなの表情が明るいことに「戦争が終わる」実感が湧いてきて、テレサが表情を引き締める。

「そうですか。では、私たちも急ぐとしましょう」

「・・・うん。―――、あっ」

テレサを手伝うと約束している私も表情を引き締めようとして、思い出した。

テレサの練習を森で手伝うということは「ノーアをレティアに置いて行く」ということだ。

絶対にノーアが泣く。

ノーアの泣き顔を思い出しただけで、大きな手で胃の辺りをギュッと掴まれたように錯覚してしまう。

「ノーアのことなら、一緒に連れて行きなさいな」

「私たちが同行してあげますよ」

私の表情の変化にサッと助け船を出してくれたのは、セリーナ様とお婆様だ。

「・・・セリーナ様、お婆様、ありがとうございます」

「定期的に血を飲むと体の調子が良いのよ。気にしなくて良いわ」

私が頭を下げると、澄ました顔でセリーナ様が”素っ気なく見せて”言う。

これは、頑張ろうとしているテレサと、それを手伝う私への後方支援だ。

人の感謝に乗っかって恩着せがましくドヤ顔をするのではなく、こうやって素知らぬ顔で重荷を取り除く気配りが格好良いよね。

お母様も同じように表面上では分かりにくい形での気配りをすることが多いし、デキる大人の女っぽくて私も見習いたい。

よく分かっていない顔で大人しく「待て」しているお利口さんのノーアを撫でる。