軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猫耳ニンジャ爆誕 ⑱

ノーアを抱きしめたまま私たちの遣り取りを聞いていたテレサが、私を見て、こてりと首を傾げる。

「フィオレの方が凄いのではないかしら」

「・・・私?」

「そうよね! 本当に2日で西方語を覚えるなんて、普通できないわよ!」

摘まみ食い中のルナリアが、カット干し肉を持っていない方の手でビシッと私を指してきた。

うーん。平仮名で振り仮名を振った秘蔵の五十音表で発音を丸覚えしたお陰なんだけど、テレサにあの五十音表の存在を知られるわけには行かないからなあ。

ここで動揺を見せてはいけない気がする。

「・・・発音の違いだけだからね。単語に当て嵌めて覚えれば簡単だよ」

「そんなに簡単なものでは無いと思うのだけれど」

「・・・だって、ノーアと話したかったし。頑張ったよ」

テレサのジト目に苦笑で返す。

本当に、テレサたちが眠った後も数時間、一人で頑張ってたしね。

絶賛成長中な子供の記憶力に助けられているせいでも有るかも知れないな。

自分でも驚くほどに何でも覚えられる。

夜更かしは領主館のメイドさんたちも良い顔はしないけど、ノーアとの距離を縮めるには、先ずは私が西方語を覚えるしか無かったのだから勘弁して欲しい。

『ノーア?』

お。王国語でも自分の名前は聞き取れるようになったか。

テレサに捕まったままのノーアが首を傾げている。

聞き取って発音を真似られるなら、「それが何か」を指し示して認識させれば直ぐに話せるようになるはず。

ふわふわと柔らかいノーアの髪に手を伸ばして撫でる。

優しく撫でられると心地よさそうにしている。ノーアは本当に大人しい。

目立たず大人しく無抵抗にしているのが、ノーアが生きていくために身に付けた処世術だったのだろう。

この辺も矯正して行かないとな。

実際、ノーアがレティアに来て数日が経つけど、ずっと一緒に居る私でさえ、まだノーアが笑うのを見たことが無い。

少しずつ口数は増えてきているから、たくさん教えて、たくさん話して、たくさんの楽しい思い出を作ってあげよう。

自分が、どうしたいか、何をしたいか、自己主張できるようになって、私がルナリアとお母様に救われたように、いつかノーアも、たくさん笑えるようになると良い。

『・・・そうだよ。みんなと話せるようになったら、一緒に森へ行こうね』

『もり?』

これ、凄く重要な案件なんだよ。

自分だけが置いて行かれると分かったら、ノーアは耳をぺたんと伏せて、ベッドの下や机に下に隠れて小さくなって泣き出してしまう。

わんわんと泣き叫んでゴネるのでは無く、さめざめと、静かに涙を零し始めるのだ。

ノーアがレティアへ来た初日から、この状況は変わっていない。

少なくとも、ノーアの涙に私は勝てない。

だから、こうやって最優先でノーアの語学勉強を行っていて、テレサやルナリアは自分たちの訓練に制限が掛かる状況を受け入れてくれてまで、私の都合に付き合ってくれている。

私たちは採掘場で、まだまだ治癒魔法の実験をしなきゃいけないし、本当なら、直ぐにでも連れて行ってあげたいけど、“魔の森”に入るなら、少なくとも危険なときの警告や指示が聞き取れないと命に関わるから、せめて、王国語で最低限の会話ができるようになって貰わないと、ノーアを連れて行くことが出来ない。

テレサのタイムリミットを思えば、じりじりとした焦りが私の胸の中に湧き上がる。

でも、最低ラインをクリアしないとお婆様たちの許可が下りないし、スパルタ方式の押し付けで早く覚えられるなら苦労はしないから、ノーアのヤル気と集中力を引き出すのに好物で釣る。

『・・・みんなで、お肉を獲るんだよ。ノーアもお肉、好きだよね?』

『おにく』

『・・・そうだよ~。お肉をお腹いっぱい食べられるんだよ~』

『おなかいっぱい』

室内に居ても警戒心が抜けなくて、ぴこぴこと、あちらこちらへ向いていたネコ耳がピッと私の方へ向いた。

珍しくテンションが上がったね。

くりくりの目がきらきらしている。

お肉で釣る作戦は正解か。

「なに、なに? お肉がどうかしたの?」

ルナリアも、なぜか「お肉」だけは聞き取れたらしい。

お肉、大好きだもんね。ルナリアもテレサも。

お肉は偉大だなあ。

「・・・ノーアが話せるようになったら、一緒にお肉を獲りに行こうって話してたんだよ」

「あっ! アレがしたいわ! 焚き火で焼くお肉!」

「・・・ああ。焼き肉? 良いね」

「わきにく?」

日本で「脇肉」とか 敏感(センシティブ) な言葉を迂闊に口に出すと心に傷を受ける人が居るけど、こっちの世界だと町から出ずに暮らしている人でも運動量が多いのか、贅肉が付いていない人の方が多いから平気か。

『・・・惜しい! 残念賞! “わ”じゃなくて“や”だよ。“やきにく”。すごく美味しいから、みんなと一緒に食べようね』

『にゃ。たべる』

与えられたご褒美用の干し肉をモグモグと咀嚼しながらノーアはコクリと頷く。

相変わらず、あまり表情は変わらないけど、よく見ると長い尻尾の先っぽが猫の挨拶のように、くにくにと動いている。

日本に居た頃は猫なんてものは「食べられる肉があんまり無さそう」としか見たことが無かったけど、可愛がる対象になると反則的に可愛いんだなあ。

動物の猫と違って意思疎通が出来るから余計に可愛い。

どんなときでも食べ物で困らないように、お姉ちゃんがお肉の捕り方を、しっかりと教えてあげるからね。

そういや、こっちの世界で一度も動物の猫を見た記憶が無いんだけど、居るんだろうか?

ルナリアが「猟犬は居る」って言ってたから犬は居るのだろうけど、犬も見た記憶が無いな。

牛とか豚とかニワトリとか見た記憶は無いけど、調理済みの食材としては見るから居るのだろう。

優先順位は低いけど、気になることは気になるから、そのうち、暇になったら探してみるか。

焦燥感からの逃避気味に思考を逸らしていた私を助けるように状況が動いたのは、数日後のことだった。