作品タイトル不明
猫耳ニンジャ爆誕 ⑰
ノーアの勉強が進まないと困るので、テレサとルナリアを纏めて撫で回して満足させる。
「・・・んー。じゃあ、ルナリア。西方語で“ルナリア”って言ってみて」
『る、れ? レナリア!』
「・・・惜しい! 残念賞! “レ”じゃないよ。“ル”だよ」
「うああ! 悔しい!」
頭を抱えて悶絶しているルナリアを他所に、五十音表の上のノーアがもぞもぞと動いた。
タシッ。タシッ。と、紙の上に猫パンチを繰り出す。
「る、な、り・・・あ?」
「「「―――!!」」」
予想外の出来事に、私たちは揃って驚いた。
ピシャ―――ン! と、雷が落ちたかのような衝撃だった。
「も! もう一度やって!」
『にゃ?』
『・・・もう一度やってみて欲しい、って』
小首を傾げて見上げているノーアにお願いすると、コクリと頷いて目線を落とす。
「る、な、り、あ?」
五十音表の上で腕を伸ばし、タシッ、タシッ、タシッ、タシッ、と、マス目へと順に手を置く。
「・・・おおっ。すごい」
全部、正解だ。
ガバッと抱き付いたルナリアがノーアに頬ずりする。
「そうよ! ルナリア姉様よ!」
『にゃ?』
ここまでデレデレのルナリアは初めて見たよ。
ハロルド様との血の繋がりを強く感じさせるデレデレぶりだ。
抱き付かれて撫で回されて頬ずりされることに拒絶感を見せないノーアに、テレサも目を輝かせる。
もう、完全にロックオンだ。
ノーアを拘束するルナリアの腕をテレサがガッシリと掴む。
「ずるいわ! ルナリア!」
「ええ~?」
テレサの妨害で緩んだルナリアの腕の隙間から、ノーアがスルリと脱出してくる。
腕を掴み合う攻防の隙にノーアに逃げられたテレサとルナリアの目が追い掛ける。
『にゃ』
戻って来たノーアが私を見上げて口を開けた。
「・・・ん? ああ。ご褒美か」
「私も! ノーア! 私もお願いしますわ!」
『にゃ?』
口に放り込まれた干し肉をもぐもぐやっていたノーアが小首を傾げる。
取っ組み合いで頭の中まで筋肉に侵食されたのか、ある程度の西方語を話せるくせに、テレサは王国語でお願いしてしまっている。
筋肉に冒されてしまっては仕方ない。通訳してあげるか。
『・・・テレサも、やって欲しいんだって』
「て、りさ?」
タシッ。タシッ。タシッ。
『・・・惜しい! 残念賞! “リ”じゃなくて“レ”だよ。テ・レ・サ』
「れ? てれ、さ?」
一文字、一文字、確認させて五十音表の文字を指し示す。
私が指した文字の順番をノーアの目が反芻するように動いている。
ジッと五十音表を見つめるノーアに、今度はテレサが抱き付いて頬ずりする。
「きゃ―――っ! 可愛いですわ! テレサお姉様ですよ!」
「・・・うんうん。カワイイは正義だよねぇ」
頬ずりはウォーレス血統の文化かと思っていたけど、王国血統の文化なのかも知れないな。
しかしまあ、ついに王女殿下であるテレサからも妹認定されたか。
ノーアの将来は安泰かも知れない。
腕組みで頷いていると、好き放題に弄ばれているノーアの目が私へと向いている。
『ねさま』
『・・・ん? どうしたの?』
なんだもう、可愛いなあ。
まだ舌っ足らずなノーアは西方語でも「姉様」とハッキリ言えずに「ねさま」となる。
『おなかすいた』
『・・・えっ? あんなに食べてるのに?』
『にゃ』
『・・・そっかあ。ノーアは大きくなりそうだねえ』
背中からテレサに抱き付かれたまま、ノーアは自分のお腹を見下ろして、さすさすと摩っている。
そう言えば、ノーアがレティアに着いた日も、荷台の下に隠れていたノーアを釣り出すのに私が持ち歩いている分の干し肉を食い尽くされたんだったな。
ヨシヨシ、良い子だ。
しっかりと朝食を食べていたはずなんだけど、まだ昼食まで時間があるから干し肉をあげよう。
一切れずつノーアの手の上に置いてあげると、ノーアが口に運んでモグモグと食べる。
何気によく食べるよなあ。
直ぐに身長を追い抜かされたりするんだろうか?
日本で欠食野生児の幼少期を送った私は成長期になっても大して背が伸びなかったし、今度も背が伸びない可能性は有るんだよね。
例えば、肥満。
聞きかじりの人づて知識では、「乳幼児期の栄養状態で脂肪細胞の数が決まるから、乳幼児期に肥え太っていた子供は大人になっても太りやすい」らしい。
昔、そんなことを言われたことがあるんだよ。
元・欠食児童の私は、大人になっても、いくら食べても太ることが無くて肥満体型と縁が無かったから、一定以上の信憑性は有るように思う。
どこまで本当かは知らないけど、身長にも、脂肪細胞と同じような謎の因果関係が存在するかも知れない。
身長で人間の価値が決まるわけじゃ無いけど、ノーアの前では出来るだけ長くお姉ちゃんの威厳を堅持したいよなあ。
私も、もっと食べれば良いんだろうか?
ご褒美用でお皿に山盛りだったカット干し肉が、どんどん山の高さを低くしていく。
ノーアの小さな手のひらに干し肉を置く作業の止め時をどうしたものかと考え始めていたら、ツンツンとルナリアに脇腹を突っつかれた。
「ねえ、フィオレ? ノーア、お腹すいたの?」
「・・・あれ? 何て言ってるか分かったの?」
凄いじゃん! と私が褒める前に、ルナリアは、ぺったんこの胸を反らした。
「分からなかったわ! けど、何となく!」
「・・・そっかあ。ルナリアも凄いねえ」
脳筋一族の本能の為せる業かな?
海外旅行へ行った関西のオバチャンみたい。
言葉が通じない程度で臆することのない「 伝説の勇者(オバチャン) 」たちは、「 何となく(ニュアンス) 」と「 身振り手振り(ジェスチャー) 」だけで初対面の外国人との会話を成立させるらしいし。
コミュニケーションに難があった私からすると超能力者か宇宙人だよ。
そういう今の私は異世界人なんだけどね。