作品タイトル不明
猫耳ニンジャ爆誕 ⑮ ※アンサンブルキャスト面
「気になると言えば、あまりアスクレー様に興味が無さそうなことですかね」
「ああ。許婚がアスクレー様に決まったのでしたか」
「所々にアスクレー様のことも書いてましたから、無関心なわけでは無いのでは?」
「今現在の優先順位が低いだけだろう。あいつなら上手く折り合いを付けるさ」
家と領地を後世に繋いでいくために子を遺すのは貴族家に連なる者の務めだ。
婿を取ることを拒絶しているフレイアの方が特殊で、貴族家の責務をフィオレに押し付けた格好のフレイアは明後日の方向へ視線を逸らす。
「それにしても、もう“紅蓮”を修得したなんて凄い才能ですよね。まだ5歳ですよ」
「まだ5歳と言ったら、ルナリア様は身体強化、テレサ様は治癒術式を取得したと言うのだから、ほんと、頼もしいったら無いわね」
かつてのエレーナの苦労を思い出したアンリカも笑いながら大きく頷く。
「あいつめ。その上、また何かを企んでいる様子でな。奥方殿も食い付いているらしいぞ」
「うへぇ・・・。奥方様が食い付くって、それ、エグいことになりそうじゃないですか」
いよいよディーナが酢を一気飲みしたような顔になる。
岩塩や干し肉の供給と同じで、セリーナを乗り気にさせるほどの提案なら国家規模の策略にも成り得る。
フレイアも常識を蹴り飛ばす人だが、セリーナもまた、世間の常識など平然と蹴り飛ばす人なのだ。
テレサがレティアに居てフィオレと関係している以上、セリーナが王家を巻き込む事態に発展することも容易に想像できる。
フィオレが立案し、セリーナとシェリアが取り纏めた策略を、ミリアとアレイオスが交渉力を発揮して実現すれば、一体、何が起こるのか。
心も浮き立とうと言うものだ。
「レティアへ帰るのが楽しみですね」
未来に向けて目を細めたエゼリアと対照的にエレーナは難しい顔になっている。
「ん~。でもそれ、延々と術式で攻撃するって、人質は見捨てるんですか?」
「攻撃されないよう、城壁の全周に人質を置けると思うか? 人質が邪魔なら、その奥を耕すことも出来る」
現実に引き戻されたフレイアは意識を目の前の戦場へと向け直す。
爆発するものが大好きで火術式の研究に傾倒した時期のあるエレーナだからこその懸念だろう。
爆発を伴う術式は効果範囲が広い分、使って良い場面が限定される。
その懸念はフレイアにも理解できるが考慮の内だ。
幼少の頃からフレイアと同じ思考に至る訓練を受けていたアンリカも頷く。
「西部地域の要衝だったアムシェリー侯爵領の領都は全周10キロメテル。たかが200人を均等に歩廊へ配置してもスッカスカですね。狙って当てないと流れ弾では掠りもしないでしょう。城壁の頭越しに奥を撃つなら人質を城壁に並べた意味も無くなります。戦闘が始まれば街や城が燃えているのに放置できなくなって、見張りを付ける余裕も無くなるでしょうし、見張り無しで人質を並べておいてくれるなら領都内を探す手間が省けますね」
「広く外側から削るのでは無く、狭い範囲を深く崩して行けば良いと?」
「複数方向から市街地の深くまで攻撃が届けば大混乱でしょうね」
崖の上に建っていて攻め寄ることが出来る場所が限定される山城だからこそ、敵が歩廊に人質を配置するのも城門周辺に集中することは目に見えている。
それが「常識」なのだ。
それ以外の場所に人質を置くことも無いだろうし、こちらの攻撃に人質が巻き込まれる可能性は極めて低い。
肉の盾として使おうにも、どこから攻めてくるか分からないのに、城門周辺以外に、前もって人質を置きようが無いのだ。
これまで落としてきた城塞の壕と同じで、多くの強力な魔法術師を有するウォーレス領軍にとって、崖など在って無いようなものだ。
どこからでも突破口を作って城内へ攻め込める。
「敵が混乱に陥れば城壁へ接近できますね。弓の射程まで接近できれば、敵が人質を手に掛けようとしても狙撃で阻止できます」
「そっかあ。じゃあ、本当に、いつも通りなんですね」
遠距離攻撃が得意なイディアが自信を持って言うならエレーナにも疑う余地は無い。
「領軍と騎士団の弓手にも手筈を周知しておきなさいね」
「了解です」
エゼリアの指示に、自分の役目を把握したイディアが不敵な笑みを返す。
認識の統一が出来たのを見届けたフレイアが好戦的に口角を引き上げる。
フレイアの側近たちは各々が「得意分野」を持っているが、それが特に「得意」なだけで他が苦手なわけでは無い。
肉弾戦特化の脳筋に見られがちなディーナでさえも“紅蓮”を修得しているし、フィオレが編み出した魔石使用法も当然のこととして習得している。
フレイアと側近たちは、個々が一騎当千の魔法術師であると同時に、一騎当千の騎士なのだ。
人生の大半を共に過ごし、共に戦場を潜り抜けてきたフレイアたちの間に、言葉は要らない。
目的と手筈の認識が統一できれば、フレイアが居ない場所でも全員が、フレイアと同じ思考で同等の働きをする。
生物の手足は他の手足の動きを見て自分の動きを考えたりはしない。
フレイアを含めた9人で1個の戦闘生物であり、1個の軍団たり得るのだ。
「すぐに降伏勧告は決裂する。皆、魔石を十分に用意しておけ。奴等の手が届かない距離から、音を上げるまで撃ち込み続けるぞ」
「「「「「はっ」」」」」
今日、この地で、この世界の戦争の歴史に革命が起きる。
魔法術式という個人の資質に依存する世界だからこそ「不可能」とされた、異世界の戦争技術が「実用化」されるのだ。
最後通牒とも言える降伏勧告が予定調和で蹴られ、「常識」とされた技術の壁を乗り越えた戦闘生物が牙を剥いたのは、この数時間後、夕刻のことだった。
間断無く飛んで行く術式。
夕闇を裂いて轟炎の華が花弁を開く。
待ち構え、息を潜めていた騎士も兵士も、逃げ惑うだけの生き物になった。
積み重ねた歴史も、過去の栄光も、血族の誇りも、野望に満ちた策謀も、民に信じ込ませていた宣伝も、絞り出していた戦意も、細やかだった日常も、来るはずだった明日も、何もかもが打ち砕かれ、炎に飲み込まれる。
怨嗟と恐怖と嘆きが等しく焔に灼かれて星空へと舞い上げられる。
裏切りと暴虐の末路は、激烈な王国の意志として世界に示された。
落日と共に炎上する城塞は月夜を 赫々(あかあか) と照らし上げ、500年間、一度も落城した歴史が無かった城塞都市を一夜も掛からず瓦礫の山に変えて、国境を越えた向こう側の国々を震撼させた。
圧倒的な火力の前では堅固な要塞も簡単に崩れる砂の山と同じ。
この世界の戦史に先駆者として名を刻み、国境線に「畏怖」という名の堅固な城壁を築き上げて見せたのは、リテルダニア王国・ウォーレス侯爵家だった。
目論み通り王国内全土の耳目はウォーレス家へと集まり、内戦の終結と共にその名は恐怖の象徴となる。
西部と南部の二正面戦線を抱えた上での余りにも一方的な蹂躙劇に、王国内の貴族家もまた、一様に震え上がった。