作品タイトル不明
猫耳ニンジャ爆誕 ⑬ ※アンサンブルキャスト面
「は・・・、クシュン!」
大きなくしゃみをしたフレイアに、アンリカが目を丸くする。
「あらあら、珍しい。風邪ですか?」
「いや・・・。違うとは思うが」
エゼリアから手渡されたハンカチで鼻を拭うフレイアは首を捻る。
子供の頃から寝込んだことなど記憶に無いぐらいの健康優良児だったフレイアでも、戦場での起居が長くなると体調を崩す可能性が無いとは言えない。
フィオレから届いた手紙と例の味付き干し肉の騒ぎで精神的に随分と安定したとはいえ、まだまだ本調子とは言い難いので、エゼリアたちはフレイアの体調管理に、いつも以上に気を付けている。
お気に入りの槍の柄で自分の肩を叩きながら、ディーナは1キロメテル先に見えるアムシェリー侯爵領領都の城壁を眺める。
「早く終わらせて休みたいところですが・・・、粘りますねぇ」
「腐っても、元・“保守派”ですからね」
捕虜から得た城内の情報を裏付けるために、ちょっかいを掛けて見たのだが、領主に徴発された領民が雑じった防衛体制に大きな穴は見付けられず、届きもしない距離から過剰反応とも言える魔法術式と 射出機(カタパルト) による攻撃が飛んできた。
元はウォーレス家と同じく武に秀でた一族なので、祖先が蓄積した戦争に関する知識の全てが失われたわけではなかったのだろう。
だが、知識だけで戦争に勝てるのなら苦労はしない。
“融和派”に転んで戦争を避けてきたことで、経験の継承が失われたのは明らかだった。
ウォーレス領軍の水準と比較して明らかに練度が低いことが見て取れたことと、叛逆した領主に領民が組みした事実が有る以上、領民に過分な配慮の必要が無くなったのは良いのだが、人質となっている王都騎士団西部駐留部隊の騎士たちの安全には配慮する必要が残る。
事実、城壁上の歩廊に見せしめとして縛られている騎士の姿が数人確認されているせいで、王都騎士団に動揺が見られ、ハロルドから、ピーシス隊にも慎重な立ち回りが求められている。
強引に作戦を牽引してきたフレイアたちも、騎士団と共闘する以上、決断の時間を与えてやるしか無い。
人質の存在が判明した時点で覚悟はしていたのだろうが、囚われている仲間の姿を目の当たりにすれば、躊躇いが生まれるのは人として当然の反応だ。
だからこそ、人質交渉は有効なので有り、古典的手段で在り続ける。
「ハロルド様は、降伏勧告を?」
「一応ね」
「時間の浪費だと思いますけどねぇ」
エゼリアもディーナの意見と同じく「無駄」だと考えているのは明らかで、フレイアも全く同じ意見だ。
ただ、部下たちの心情を慮るのも将の務めだ。
「そう言ってやるな。ハウマンとしては見殺しには出来んだろうさ」
「それは、まあ。でも、どのみちブッ壊すんですよね?」
「二度と王国に逆らおうと考えなくする程度にはな」
「知恵の回らない領主が治めて居なければ、風情のある街なのに、勿体ない」
レティアの町と同じ時代に築かれた高さ15メテルの堅固な城壁は何度も補修と改修を繰り返して原型を留めていないが、王国東端のウォーレス領に暮らす者から見れば異国情緒を感じさせる西方諸国に多い統一王国時代の様式だ。
小さな山地の地形をそのまま利用した、半ば山城のようなもので、壕は備えていないが急峻な崖の上に城壁が聳え立っている。
高い城壁の内側には山肌に貼り付くように建物が密集して建てられていて、遠目に見ると中央に建つ本城と一体になった巨大な人工の山にも見える。
捕虜が吐いた情報によると、あの領都に籠もっているのはアムシェリー領軍3万と領民5万の計8万人だそうだ。
ウォーレス領の人口と較べれば少ないように見えるが、領地の広さはウォーレス領の半分も無いのだから、密度で言えばウォーレス領の2倍の人口があの狭い領都に集中していることになる。
領都の面積で言えば、実際の人口密度はレティアの町の数十倍に上るだろう。
それならば、新しい産業を興すなり、限られた領地を十全に利用する知恵でも磨けば良いものを、100年経っても領地面積に対する耕作可能面積や居住可能面積の比率はウォーレス領と変わらない。
要は、土地は有るのに土地が無い。
人が住める土地の面積に対して「人が多すぎた」とは、そう言う意味だ。
その原因は平地に多く棲息するスライムのせいで耕作面積を広げられないことなのだが、領主一族が有効な対策を打ち出せず、民は限られた土地に身を寄せ合って暮らすしか無かった。
その縮図が、目の前に有るあの城塞都市だ。
「遠回しに言わなくても、“アホ”でも“能無し”でも、好きに言えば良いのよ?」
「あっはっは。ほんと、領民も含めてバカですからね」
「生き残りたければ、普通、袋小路に逃げ込んで籠城なんてしませんよね」
アンリカの茶化しにディーナとマキアナも一緒になって笑う。
援軍が望めない籠城戦など、ただの袋小路なのだが、アムシェリー領軍は徹底抗戦の構えを崩そうとしていない。
包囲を破るための支城や砦は悉く落としたし伏兵も始末したので丸裸になっているが、戦争の常道では、騎馬部隊を主力とする総兵力1万5000騎の王都騎士団・ウォーレス領連合軍では攻め手に欠くのも事実ではある。
追い詰められたアムシェリー領軍が諦めないのは、大方、兵力差の優位と守備側の優位性が根拠なのだろう。