作品タイトル不明
猫耳ニンジャ爆誕 ⑧
さて、ピーシス家の家族会議である。
聞こえは悪いが魔法での脅迫と、いくらかの誇張を織り交ぜた“説得”で混乱を抑え込んだ後、数時間も経てば、みんな気持ちが落ち着いて冷静に話し合える。
メインの参加者は、私、お爺様、お婆様の3人。
ウォーレス家系代表者のハインズ様とセリーナ様はオブザーバー参加。
ピーシス家を出た身とはいえ、ピーシス家出身のミリア叔母様もオブザーバー参加。
アレイオス叔父様と、アレース、アスクレー兄弟は、避難民を黙らせた私の 煽動(アジテート) に思うところが有ったらしく、お勉強タイムらしい。
煽動のお勉強って・・・、何を、どう、お勉強したのか気になるから、後で訊いてみよう。
ウォーレス家の動向が他人事では無い王家代表のテレサもオブザーバー参加している。
直接の当事者に成り得るピーシーズ代表者としてアリアナさん、メリーナさん、ネイアさんの3人が見守っているので、家族会議の結果は3人からピーシーズ全員に周知される予定。
ルナリア? 不動のシード枠だよ。
お風呂に入って夕食を食べた私たちは、食堂からティールームへ移動してソファーセットに腰を下ろしている。
一番大きな3人掛けのソファーには、テレサ、私、ルナリアが並んで座っていて、長旅で疲れた上に満腹になったノーアは、ルナリアと私の隙間で丸くなって眠っている。
そして、ノーアの小さな手は、しっかりと私のシャツを握りしめている。
「随分と懐かれたようだな」
「・・・どうやら、ご飯をくれる私と、“紅蓮”が爆発したときに抱きしめて守ってくれたルナリアは、ノーアにとって特別みたいです」
お母様と私の判断で孫娘が増えることになってしまったお爺様とお婆様は諦め顔だ。
受け入れは良いとして、ノーアの「扱い」が話し合いの焦点となる。
可愛いノーアを早くも気に入ったらしいお婆様は兎も角、お爺様の説得はこれからなんだけどね。
ルナリアと二人でノーアの寝顔を見下ろして苦笑する。
「眠そうだからベッドで寝かせようとしたら、嫌がって泣かれちゃったのよね」
「・・・ルナリアと私の傍が一番安心できるようで」
「まあ、良い」
幼児のすることなので育児経験豊富な大人たちは寛容だ。移民の受け入れが丸く収まったことで機嫌が良いのも有るだろうけど、ハインズ様って怖い見た目と正反対で、結構、子供好きだよね?
セリーナ様も厳しくて怖いけど子供好きだし。
ウォーレス家系は自分の子供を乳母に預けたりしないのが通例らしくて、育児と縁が無さそうなハインズ様も目を細めてノーアを見ている。
娘が欲しいと公言しているミリア叔母様は構い倒そうとしてノーアに警戒されてしまったけど、ハインズ様と同じように優しい目でノーアを見ている。
「こうして見ていると、ほんと、懐いた愛玩動物みたいよね」
「幼子は、皆、そんなものだ」
「ミリアも幼い頃はフレイアにベッタリと懐いて居たでしょうに」
「あら。私は今でも姉様が大好きよ?」
忙しい両親に代わって、お母様に構い倒されて叔母様が育ったことは私も聞いている。
当然ながら、ウォーレス家系出身のミリア叔母様も乳母を置かず、男児3人を自らの手で育てている。
そうは言っても、テーブルマナーに厳しい上流階級の方々の前で無作法を見せられないので、ノーアを同じ食卓に着けるわけには行かず、私の傍を離れたがらないノーアには、西方語マスターであるお婆様の立ち会いの下、私が介助して別室でご飯を食べさせた。私たちの食事中は、幼児の世話に慣れているオーリアちゃんがノーアの相手をしてくれていた。
夕食の最中は、移民の受け入れ騒ぎで出来なかった実験結果の報告が主体でノーアの話が出来なかったので、今、こうやって家族会議の開催となった。
オブザーバーという名目でも絶大な影響力を持つセリーナ様の目が、ノーアから私へと移る。
「それで? “家族にする”と宣言したは良いけど、言葉も通じないのにどうする気?」
「・・・お婆様から西方語の緊急特別訓練を受けさせていただく約束は取り付けてありますから、直ぐに覚えてみせます。ノーアにも、直ぐに王国語を覚えさせます」
「緊急特別訓練ねえ?」
面白そうに細められたセリーナ様の目が、お婆様に向く。
チラリと私を見たお婆様は涼しい顔だ。
「発音だけなら覚えるのも早いでしょう」
「貴女は3日ほどで統一文字を覚えたのだったわね」
優位に話を進めようと風呂敷を広げたら、お婆様に追認されてしまって、セリーナ様にも納得されてしまった。
「・・・そう、でしたか?」
自分でハードルを上げてしまったか。
これは絶対に、直ぐに覚えなくてはいけなくなったぞ。
でも、私には秘蔵の五十音表がある。
日本での記憶の件を知っているのは、ルナリアと、お母様と、ハロルド様と、ワールターさんの4人だけだから「秘蔵」なんだけど、私が王国の文字を覚えたときに使った、大陸統一文字の五十音表に平仮名で発音とアクセント記号まで書き足してあるヤツだ。
平仮名とは文字が似ても似つかないけど大陸統一文字は日本語の平仮名を基礎として定められていて、 フィオレ(わたし) が王国語を話せて私が日本語の平仮名を記憶しているから、大陸統一文字に平仮名の 振り仮名(ルビ) を振って成立した 促成栽培(ズル) だった。
今の私は大陸統一文字も完璧に記憶しているのだから何とかなるはず。
テレサとルナリアが寝た後に特訓だな。
メイドさんに発音練習に使える部屋を手配して貰おう。
私たちが暮らすリテルダニア王国が使用している言語は東方諸国公用語と分類されるもので、王国と全く同じ言語を使う国は、元々ひとつの国だった王国の仇敵・カリーク公王国だけだ。
その王国や公王国の中でも若干の方言の違いが有って、王国や公王国の西側に隣接する諸国へ国境を越えると、さらに少しずつ言語が変わり、西方諸国まで行くと全く言葉が通じなくなる。
私がラッキーだったのは、 フィオレ(わたし) の出身国であるらしいエクラーダ王国という国の言語は東方の公用語に近い発音で、ルナリアやお母様との意思疎通に大きな問題を生じなかったことだ。
対して、ノーアの出身国は発音が完全に別物となる。
言語の発音が全く違っても使っている文字や単語や文法は同一の物なので、筆談であれば問題無く会話が成立する。
成立はするのだが、問題は、「幼いノーアはまだ文字を教わっていなかった」ことだ。
ノーアに王国語を覚えさせるには、私が西方語をマスターして、ノーアに大陸統一文字を覚えさせるのが早いかなあ。
いや、ノーアが覚えている西方語の単語を私が王国語に翻訳して一つひとつ教える方が早いのか。
ノーアが王国語を解するようになれば普通の五十音表で学ばせられる。
文字を書くところにまでは至らなくても、先ずは読むことが出来れば良いのだから、そこまでハードルは高くないと信じたい。
おっと、いけない。
今はノーアの話だ。
お爺様たちにノーアを一族の一員として引き取ることを認めて貰わなければ。