軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猫耳ニンジャ爆誕 ⑤ ※アンサンブルキャスト面

「あらあら。放って行かれてしまいましたわ」

「て、テレサ様?」

頬に手を当ててコロコロと笑うテレサに、情けなく眉尻を下げたアリアナが目を向ける。

ここで王女殿下にまで「行く」と言い出されては、アリアナたちに止める方法は無い。

小さく嘆息したテレサが苦笑する。

フィオレたちが身勝手な行動をしたと感じたのか、騎士団の騎士たちの目が少し厳しくなっている。

「分かっています。道が分からない私まで町をウロウロするわけには行かないでしょう」

「ありがとうございます。急ぎ、領主館へ戻りましょう」

立場が立場だけに、テレサの安全は最優先事項なのだ。

2頭分の手綱を手に安堵の息を吐いたアリアナの傍に、メリーナとネイアが馬を寄せてきた。

「アリアナ。私は一足先に領主館へ戻って領軍に捜索隊の編成を手配します」

「私はマルキオ様に報告を」

「ああ。頼んだ」

頷いて返したメリーナとネイアが馬の腹を蹴る。

連れ立って駆けていく2頭の馬を見送って、テレサも馬の腹を優しく踵で押した。

「アリアナ。さ、私たちも行きましょうか」

「はい・・・」

テレサの馬に付いてアイシアとナンナの馬も歩き始める。

ルナリアとフィオレが消えた路地に心配そうな目を遣ったアリアナも、少し遅れて馬の腹を軽く蹴った。

ぽっくぽっくと長閑な蹄の音を聞きながら馬に揺られても、北門から領主館までは30分間も掛からない。

大通りに面した訓練場の門は大きく開け放たれていて、いつもよりも多くの兵士が門前で歩哨に立っている姿が見えてきた。

ただ、歩哨が向いているのは、大通りではなく訓練場の内側のように見える。

「避難民を乗せた馬車は訓練場に入ったと言っていましたね」

「領内に入った避難民の把握は欠かせませんから」

「検問所でも検査したのでは?」

首を傾げるテレサにアリアナは首を振る。

「いいえ。人数が多い場合は検問所で詳しく調べると時間が掛かり過ぎるので素通りです」

「領民や商人の検査とは別口に分けるのですね。でも、それって、大丈夫なのですか?」

「検問所を素通りさせても、領主館での検査が終わるまでは馬車から降りることは許しませんし、町に放つことも有りませんから」

「領主館の敷地内なら、雑じっている間諜の処理も楽ですしね」

懸念を払拭しようとしたアリアナをアイシアが補足する。

納得を見せたテレサが頷く。

「あの歩哨は、避難民を町に出さないようにするためのものなのですね」

つまり、先ほどフィオレに子供の行方不明を伝えに来た騎士は、検査を受けていない他領の者を城内に入れてしまったことになる。

フレイアから預かった子供で無くても手続き的に拙いのだ。

その後始末にフィオレが駆り出されてルナリアが付いて行った格好になる。

次期領主に据えられることが確定していて、領内の安定に責任を問われる立場にある二人からすれば、公務と言っていい。

テレサは密かに安堵の息を吐く。

テレサ自身に二人を責める意志は無いが、次期領主としての公務で有れば、テレサの傍を離れたことを責められる口実にはならないだろう。

アリアナたち数人も護衛としてテレサの傍に残しているので、二人がテレサの護衛を放棄したとは言えないはずだ。

テレサの周りには、小さな失態を口実に政争を始めようとする者が多くて辟易している。

王宮貴族や王宮官僚たちの戦いとは、そういうもので、足の引っ張り合いで成り上がるのも、一つの戦い方なのだから。

そういうものだと分かっては居ても、気持ちの良いものでは無い。

圧倒的強者で有るウォーレス家の失態と見れば、足を引っ張りたい者たちが飛び付くことだろう。

初めて得た”友人”と言える二人がテレサの傍から遠ざけられるのは、テレサにとって望ましいことでは無い。

接近してくる馬上にテレサの姿を認めた歩哨の一人が姿勢を糺して敬礼し、踵を鳴らした音で気付いた他の歩哨たちも敬礼でテレサたちを迎えた。

営業用の微笑みで敬礼に応えるテレサを乗せた馬は訓練場の門を潜って領主館の敷地に入る。

固く均された広い 通路(アプローチ) は、隊列を組んだ騎馬軍団が楽に通り抜けられるように20メテルもの幅が有って、真っ直ぐに通り抜けると厩舎群、左手は領主館の搦手、そして、右手には、今、輜重部隊の荷馬車と避難民と領軍でごった返している、訓練場がある。

西部地域から窮屈な荷馬車に一週間も揺られてきた避難民の顔には、色濃く疲労が見えて、土地も財産も失って未知の土地へ来た、隠しようのない不安が貼り付いている。

自分の民とも言える王国民の痛々しい姿に心は痛むが、実権の無いテレサに出来ることは何も無く、大人たちが上手く差配してくれることを願うばかりだ。

とはいえ、苦しんでいる王国民から目を逸らすことも出来ずに手綱を握りしめる。

そのとき、避難民の一人と目が合った。

暗く沈んだ顔をしていた避難民が大きく目を見開く。

「王女殿下だ・・・」

「え・・・? 姫殿下だって?」

口々に伝播した避難民たちの呟きと共に、縋るような数え切れない目がテレサへ集まる。

公務を放棄している兄と違って、テレサは年に一度二度は公務で王国民の前へ姿を晒すことが有る。

テレサの顔を知る者が居ても不思議は無い。

息を呑んだテレサは瞬時に覚悟を決めて手綱を引く。

指示に従った乗馬は素直に足を止めた。

王家に連なる者が王国民の前から逃げ出すことは出来ない。

馬を止めたのを認めた避難民たちがジリッとテレサに近付く。