軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猫耳ニンジャ爆誕 ④

「フィオレ!」

「フィオレ様! 居ましたか!?」

「・・・見付けたよ~」

路地に響いたルナリアの甲高い声に驚いたのか、ササッと動いたノーアは私の背中に隠れている。

バタバタと足音が集まってきて、息を荒くしたルナリアとピーシーズ5人に囲まれる。

汗だくになっているけど、みんな、安堵が表情に表れている。

「・・・大きな声を出さないであげて。言葉が分からないから怯えてるんだよ」

「(そうなの?)」

「・・・いや。ヒソヒソ話までしなくて良いから、普通に喋って大丈夫だよ」

「そうなのね!」

ルナリアの声に、ノーアがビクリと震える。

ルナリアは地声が大きくて高いからなあ。

最大と最小しかボリューム調整が出来ないとか、どうなの。

慣れれば普通なんだけどね。

ノーアもそのうち慣れるだろう。

私の脇の下から恐る恐る覘いている頭を撫でる。

私よりも頭1つ分は背が低いのだから、ノーアの幼さも分かろうというものだ。

お母様の手紙によると、ノーアが発見されたとき、“奴隷環”を嵌められていたらしい。

こんなに小さな女の子を奴隷にするなんて、西方諸国の連中め。

いつか、痛い目に遭わせてやる。

ふつふつと湧いてくる怒りを抑えて、穏やかな声を心掛ける。

「・・・この子はノーア。お母様が引き取って、後は私に任せる、だって」

「どうするの?」

「・・・お爺様とお婆様に相談するよ。日が暮れてきたし、みんなが心配してるだろうから領主館に帰ろう」

「そうね! 一杯走ったから、わたしもお腹が空いてきたわ!」

ニッと邪気の無い笑顔を浮かべたルナリアが、なかなかの早業でノーアの手を掴み、私の背中から引っ張り出す。

戸惑いがあるノーアの目を見下ろして、私も空いているノーアの手を握る。

領主館まで1キロメートルは有るか。

ノーアを歩かせて疲れるようなら、おぶってあげるとしよう。

ルナリアとノーアと私。

真ん中に幼いノーアを挟んで、3人で手を繋いで歩く。

まだ3歳ぐらいらしいけど、幼くても足腰がしっかりしているのは獣人族の特色なのだろうか。

ルナリアと私はレティアでは有名人だから、道行く人たちが私たちの顔を見るとお辞儀をしたり手を振ったり声を掛けてきたりする。

最初のうちは、おっかなびっくりだった様子のノーアも、周りから向けられる目が温かくて笑顔ばかりなことに安心したのか、興味津々な様子でキョロキョロと周りを見回し始めた。

子供の足とは言え、たかが1キロメートルを歩ききるのに30分間も掛からない。

前方右手に領主館が見えてきたな、と、思ったら、何だか領主館の方向が騒がしい。

「何かしら?」

「・・・うーん? 何だろうね」

領主館が近付くにつれ、大勢の人の声が大きくなる。

どうやら騒ぎの現場は領主館に隣接した訓練場のようだ。

訓練場と言えば、西部地域から避難してきた避難民を乗せた馬車が向かった先のはず。

大勢の人が集まれば騒がしくなるのが普通だろうけど、そういうのとは何だか違う感じがする。

ピーシーズの面々を見ても、みんな首を傾げていて騒ぎの原因は分からないみたいだ。

いや、原因が避難民なのは分かるんだけど、騒ぎになる原因に心当たりが無い。

顔を見合わせた私たちは、ノーアを連れたまま訓練場へと足を向けた。

訓練場に入ると西部地域から戻って来た荷馬車が人々の向こう側に整然と並んで停められていて、日が落ちた時間なので、幾つもの光魔法の明かりが宙に浮いている。

ノーアと一緒に荷馬車で運ばれてきたので有ろう、疲れが見える顔の人々が同じ方向を向いていた。

人々の視線の先には、一段高い訓示用の演壇の上で難しい顔をしたハインズ様と、目が据わっているお爺様が人々を見下ろしていて、お二人の間で、一際小さなテレサが「困ったときの微笑み」を浮かべて立っている。

「・・・何これ。どういう状況?」

「確認してきます」

言い残したオーリアちゃんが領軍の兵士さんのところへと駆けていく。

演壇の周りにはアリアナさんたちも付いているが見えるので、テレサの身に危険は無いだろうけど、良くない雰囲気だ。

剣の柄に手を乗せたマーミナさんとマーリカさんが、スッと私たちの斜め前へと立ち位置を変え、油断なく周囲に目を遣るクラリカさんとメイリスさんが私たちの斜め後ろに付いて、四方を警戒する態勢になった。

不安そうな表情で騒いでいる人たちの人数は、1000人も居ないぐらいだろうか。

テレサに向かって口々に大声で訴えているけど、暴徒化していないのは、屈強なウォーレス領軍の騎士や兵士がテレサたちの周りを固めて守っているからだろうね。

でも、王家を大切にしているハインズ様やお爺様が傍に付いていて、この状況を許しているのは何故だろう?

イマイチ状況が読めないな。

「姫様! 儂らは西部へ帰れるのでしょうか!」

「南部は魔獣の巣に近いと聞きます! そんな場所で私たちは生きて行けるのですか!」

「お願いします! 助けてくださいまし!」

おかしいね。

すでに避難してきたはずの人たちが、なんでテレサに絡んで助けを求めているんだろう?

王家に反抗的な者や生きる覚悟も無い人たちを、お母様が送ってくるとも思えない。

死にたくない、生きていきたいから、数百キロメートルも離れた南部国境地域まで来たはずだ。

疲労や不安から気が立って暴徒化しやすいのは、まだ分かる。

だとしても、テレサは王族だ。

たかが地方の一領地で領主の横暴にも逆らえず避難民になるしか無かった人たちが、君主制の頂点に立つ王家の一員に直訴なんて危険極まりない行為だと理解できないはずが無い。

現に、ハインズ様やお爺様の表情は、爆発寸前なぐらいにまで不機嫌そうに見える。

いくら王族とは言え、実権の無い、わずか5歳の女の子に不安や不満をぶつけて、自分たちの何かが改善するとでも思っているのだろうか?

生きる覚悟が無い人は、どこに住んでも生きて行けない。

この世界は、そういう風に出来ている。

泥水を啜ってでも生き抜いてきた私だからこそ、そう思う。

小さなテレサなら、圧迫すれば何か脅し取れるとでも舐めて掛かったのだろうか?

そんな悪知恵が働く人なら、あのお爺様の表情を見てヤバそうな雰囲気に気付かないなんてことは無いだろう。

私が首を傾げたとき、声が飛んだ。

「王家は助けてくれないのか!」

「貴様ァ! 無礼は許さんぞ!」

前面に立っている騎士様の一人が青筋を立てて、手にした槍の石突をドンと地面を突き立てた。

一人が動いたことで他の騎士様たちも殺気立つ。

それでも、興奮した避難民は口を閉じない。

双方に反感が高まり、訓練場に緊張が満ちる。

これは拙いね。

たかが1000人の非戦闘員を武力で黙らせることなどウォーレス領軍にとっては、文字通り、赤子の手を捻るよりも容易い。

避難民の暴発に、領軍が力で対抗するのは悪手だ。

血で解決しては、その理由に拘わらず汚名を着ることを免れない。

「・・・ああ、そうか。それでか」

テレサの名前に傷が付くことを懸念してハインズ様たちは強硬に出ず、力尽くで抑え込まれないことで、先行きの不安に囚われた避難人たちは周囲の騒ぎによって更に不安になって、自分たちが虎の尾の上で陽気にダンスしていることに気付かずにいる。

冷静になって考えれば、寝ている猛獣の檻に入って騒ぎ立てる真似はしないだろうに、不安のスパイラルに陥って周りが見えなくなっているのだろう。

ハインズ様たちがキレて実力行使に出る前に介入して、沈静化してやる必要が有るね。

不安なのは分かる。

分かるけど、“融和派”が引っ掻き回した王国内を収めるために、どれだけの人たちが苦しんだと思っているのか。

私の脳裏に、お母様が「精神的に参っている」という叔母様の声が思い起こされる。

「・・・ルナリア。ノーアのこと、お願い」

「えっ? うん。任せておきなさい?」

「・・・ノーアも。ルナリアと一緒に待っててね」

『にゃ?』

よく分かっていないのに返事をするノーアとルナリアに、ほっこりする。

ノーアの頭を撫でてから二人に背中を向ける。

ちょっと、カチンと来たよ。

いい大人が寄って集ってギャアギャアと、あんなに小さなノーアでも不安に耐えているのに、みっともなく騒ぎやがって。

ノーアが怖がったら、どうしてくれる。

聞き分けが無いようなら焼け野原の西部へ叩き返してやる。

要はコイツらの頭を冷してやれば良いんだよね。

頭に血が上った私の手は、腰のポーチに伸びていた。