作品タイトル不明
猫耳ニンジャ爆誕 ③
「・・・建物と建物の隙間や隠れられそうな物が置いてある場所を探して! 大通りから2街区目までで良い! あと、言葉が通じないらしいから、大きな声は逆効果だよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「・・・あっ」
イイ返事を返したピーシーズが、グンと速度を上げて、一瞬で置いて行かれる。
ルナリアにまで置いて行かれてカッとなった。
くっそ、何やってんの!
身体強化魔法が使えないばかりに、一番先に飛び出したくせにビリなんて!
自分の足の遅さが本気で悔しくて体の使い方を意識したのなんて初めてだよ!
意識したところで分からないものだから、余計に腹が立って魔力を流す場所が頭から素っ飛ぶ。
「・・・おっ!? おおっ!?」
何も考えずに魔力が流れた状態で蹴り足が伸びると、グンと速度が上がった気がする。
走っている最中に一歩一歩を意識なんて出来ないから、ヤケクソで全身に魔力を回したら、筋肉が勝手に魔力を消費した?
消費されて魔力が減った部分を埋めるように魔力が流れて、再び体内の魔力が平均化する。
これか? こういうことか?
魔力の供給先を意識しなくて良いのか。
さすが脳筋魔法! もっと速く! 速く走れ!
グッと魔力を回すと、体内魔力を消費した必要な箇所の筋肉が、バッと力を解放する。
ルナリア、ゴメン。
「グッとして、バッとするのよ!」と説明していたルナリアの表現は正しかったよ。
今、理解できた。
走る速度を上げかけた私は、通り過ぎかけた荷馬車の傍で急ブレーキを掛けた。
目に付いた1頭曳き用の小さな荷馬車の荷台は、覆い布が捲れているからピーシーズの誰かが検めた後みたいだけど、何かの気配を感じた気がする。
野良猫かな? 何かが居る?
探しているのも猫系の獣人族の子だっけ。
猫って狭くて暗い場所を好むよね。
覆い布の端を捲って荷台を覗き込んだけど空っぽだ。
でも―――、何か居る。
地面に這いつくばって低い荷馬車の下を覗き込んだら、金色に光る目と、目が合った。
くりくりとした目。
日が傾いて来た時間だから暗いけど、髪の色は茶色っぽい、のかもしれない。
怯えているのか、ペタリと伏せた両耳の裏には、片耳ごとに一つずつの白い斑点が見える。
耳に斑点が有るのって虎だっけ?
豹もだっけ。
輜重部隊の騎士様は「豹人族」と言っていたはず。
この子かも。
「・・・出ておいで。怖くないよ」
『・・・にゃ』
うん? 何て言ったのか分からないな。
「王国語が通じない」っていうのはこのことか。
「・・・怖くないよ。出ておいで」
『・・・・・にゃ』
外国人の子供とコミュニケーションを取るのって、どうすれば良いんだろう?
同じ日本人同士でも上手くコミュニケーションが取れなかった私には、言葉が通じない外国人とのコミュニケーションなんてハードルが高すぎる。
日本に居た頃は同じ言語を使う相手でも、常識が違いすぎて会話にならなかったことの方が多かった。
どうするかなあ、と悩んでいたら、猫耳幼女の方から「くるる~」と小さな音が聞こえてきた。
逃げられては困るので、幼女と見つめ合ったまま、手探りでゴソゴソと腰のポーチを探って干し肉を取り出す。
馬車の下へ腕を突っ込んで、幼女の目の前でヒラヒラと振る。
「・・・食べる? 美味しいよ?」
『・・・にゃ』
すんすんと匂いを嗅ぐ仕草をした幼女は、もぞもぞと少し前進して手を伸ばしてきた。
恐る恐る伸ばされた手が干し肉を掴んだのを確認して手を離す。
干し肉に齧り付いた幼女がバリッと噛みきってモグモグと咀嚼する。
ペタリと寝ていた両耳をパタパタと動かして、奥の方に見える細長い尻尾の先をゆらゆらと揺らしている。
まあまあ、食べるのが早いね。
私が数分間かけて食べる干し肉を、あっという間に食べきってしまった。
手探りでポーチから次の干し肉を取りだして荷馬車の下へと腕を伸ばす。
今度は、少しだけ手前までにしか腕を突っ込まない。
腕を伸ばしかけて届かないと気付いたらしい幼女は、もぞもぞと前進してきた。
干し肉を受け取っては齧り付く。
私のポーチに入っていた最後の干し肉に幼女が齧り付いたときには、幼女の顔は私の手が届く距離にまで近付いていた。
干し肉を囓っている幼女の頭に手を伸ばして、ふわふわの柔らかい髪を撫でる。
『ふぃおれのあじ』
「・・・ん? フィオレって言った?」
『にゃ?』
うわ、可愛い!
私の言葉が分からないのだろう幼女が、こてりと首を傾げる。
何だコレ!? 何だ、この可愛い生き物は!
ルナリアも大概かわいいけど、この子も可愛い!
おおっ! そうだ、今は、それどころじゃ無かった!
私は自分自身を指さす。
「・・・私がフィオレ。分かる?」
『ふぃおれ?』
ぱちくりと瞬いた幼女は、もぞもぞと自分の首の後ろへ両手を回して何かの紐を引っ張りだした。
皮製の紐は輪っか状になっているようだ。
小さな手で紐を掴んだ幼女は私の方へ差し出して来る。
受け取れ、と、いうことだろうか?
「・・・小袋?」
『ふぃおれ、わたす』
「・・・ちょっと見せてもらうね」
幼女の衣服の首元から引っ張り出された皮製の小袋を手に取ると、カサリと紙の感触がある。
しっかりと閉じられている皮紐を解いて小袋の中を覘くと、小さく折り畳まれた便箋が入っていた。
カサカサと便箋を開くと見慣れた文字が目に入る。
意外と几帳面に大きさが整った流麗な筆致は、お母様の字だ。
1枚の便箋に収めるためか小さな文字で書かれているけど、この程度の小さな文字なら、ぜんぜん読める。
「・・・ふむふむ。・・・やっぱり奴隷だったか」
胸くその悪い経緯に、ムカムカと怒りが湧き起こる。
ポルロッカ伯爵領とかいうクソ“融和派”の領地を堕とした後に、奴隷商人の店で発見された”商品”が、この子らしい。
お母様とディーナさんの脳筋パワーで”例の魔法道具”を壊した下りで、少しだけ溜飲を下げる。
この子の名前は「ノーア」。
本人が幼すぎて身元が全く分からず王都騎士団が持て余し、見かねたお母様が引き取ったようだ。
この子が話すのは西方諸国の公用言語で、お婆様とセリーナ様なら西方語が話せるから習え、この子の面倒と処分は私に任せる、と。
お爺様たちに受け入れて貰うための交渉は、私がやれってことだな。
ヨシ、大体の事情は把握した。
任せて、お母様。
この子のためにも全力でやるよ。
この小袋は、この子の生命線だから、万が一にも不安を与えないように、手紙を戻した小袋を、この子にも見えるように私の首に掛ける。
もう一度、幼女―――、ノーアの髪を撫でた後、ノーアの手を握る。
「・・・出ておいで。大丈夫だから」
『にゃ』
驚かさないように、ゆっくりと手前へ手を引くと、行為の意味を理解してくれたようだ。
もぞもぞと這い出してきたノーアを立たせて、衣服に付いた土をパタパタと叩き落とす。