軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

光魔法というもの ⑭

「次、わたしも、やるわ!」

「頑張ってください、ルナリア。応援していますよ」

やり遂げた感を出しているテレサがルナリアに笑い掛ける。

短期間で身体強化魔法を修得した辺りから私も気付いたのだけど、最近、覚え方のコツを掴んだのか、ルナリアの集中力が向上しているように見える。

元々、好奇心が強くて、素直で物覚えも良いものだから、分かりやすく噛み砕いて教えれば、細かな理屈を素っ飛ばして、すぐに何でも覚えるんだけどね。

テレサと場所を入れ替わったルナリアが牡ジカの傍にしゃがみ込む。

私も、ちょっとお手伝いしておくか。

「・・・待って、ルナリア。こないだテレサの前で、私が小枝で地面を引っ掻いて見せたのを覚えてる?」

「ん-・・・。あ! 逆回しってやつ?」

首を傾げて記憶を探ったルナリアは、ちゃんと覚えていてくれたようだ。

「・・・そう。恐らくだけど、光魔法は“時間”を変化させる魔法なんだよ」

「時間? 鐘とか時計とかの時間のこと?」

キョトンとして、ぱちくりと瞬く。

ルナリアだけじゃなく、テレサと私以外の全員が、よく分かっていなさそうな顔で瞬きしている。

そうだよね。

光魔法と時間の関係性を口先で言われてもイメージが結びつきにくいのは分かる。

言葉で理解できないなら目に見える形で見せた方が早い。

「・・・時計の針を逆回しに戻すように、傷口が出来る前に逆戻りする感じでやってみて。―――そういうことだよね? テレサ」

「そうです。“治れ”と念じるよりも、“戻れ”と念じた方が上手く出来ますよ」

「分かったわ!」

テレサの補足が分かりやすかったのか、パッと表情を明るくしたルナリアが大きく頷く。

私はシカを囲んで見守っているピーシーズや騎士様たちの顔を見回した。

前へ出て戦う役目だからこそ、ルナリアだけで無く、ピーシーズ全員が治癒魔法を修得してくれることが望ましい。

回復薬も各々が携行しては居るが、治癒魔法の有無は、彼女ら、彼ら自身の生存率に直結する。

「・・・そのためには、傷口が出来上がる過程を、しっかりと記憶しておいた方が良い。みんなで生き残るためだよ」

「「「「「はい!」」」」」

良い返事で応えたピーシーズだけで無く、テレサの護衛の騎士様たちも熱心な目で覗き込み始めた。

騎士様たちも戦うのが仕事だから、生存率が上がるなら、その方が良い。

シカ周りの人口密度が高いから、私自身の練習は後で良いかな。

治癒師さんからの聞き取りでは、毒を嗅がせた人間の意識喪失から意識回復まで6時間と言っていたので、シカと人間の体格差から考えれば半分―――、いや、3分の1ぐらいの2時間でシカの意識が回復すると想定しておこう。

まだ、1時間ちょっとは時間が残っているかな。

人垣から一歩引いて見守っていると、テレサも人垣の中から脱出してきた。

「それにしても、“時間を変化させる”ですか。上手く表現しますね」

「・・・報告に行ったときに、セリーナ様に聞かれたんだよ。私は光魔法を“時間を遡るもの”と考えているのか、って。そう聞かれて、“それだ!”って思った」

「どうして、あの時、地面を引っ掻いて見せたのか、どうして、そこに至ったのか、不思議だったのですが、フィオレにも確信は無かったのですね」

「・・・ただの思い付きだよ。あの時は“なんで傷が治るんだろう?”って考えてただけ」

「凄いですね。普通、そんな風に思い付きませんよ?」

「・・・そうなのかな? でも、“逆回し”って思い付きの言葉だけで実際にやって見せたのはテレサだし、凄いのはテレサだよ」

「そういうことに、しておきましょう」

ウフフ、と、ニッコリと笑ってるけど、怖いから止めて。

テレサって頭の回転が速いし、一言ひと言の意味までしっかりと捉えてくるから、どこまで察しているのか分からないんだよ。

うっかり発言で私の記憶問題まで辿り着きそうなんだよね。

いや、すでに感づいている可能性も有るかな。

その上で聞いてこないところが、さらに怖い。

言いふらしたり、他国へ売り飛ばしたりする子じゃないけど、いつか根掘り葉掘り聞かれて白状させられる日が来る気がする。

相対性理論を説明しろとか言われても、私には無理だよ。

私とテレサのレクチャーによって、ピーシーズ10人の内、治癒魔法の発動に成功したのは7人。

身体強化特化のマーミナさんとマーリカさんとアイシアちゃんの3人は諦めモードだけど、私は諦めるつもりは無いし、諦めることを許すつもりも無い。

私の傍に居てくれる人たちを誰も死なせてなるものか。

テレサの護衛騎士たちも、3人が治癒魔法の発動に成功したらしい。

テレサという優れたお手本の魔法を間近で見ることが出来たのが大きかったのだろうね。

そうして回って来た私の順番。

もう、シカが意識を回復する想定時間まで、余り猶予が無い。

シカの傍にしゃがんだ私はナイフを抜いてシカの太腿に突き立てる。

改めて、ナイフの刃が肉を割いていく様子を目に焼き付ける。

20回以上も傷付けられたシカの後ろ脚は血塗れになっていて、キャットウォーク上にも血溜まりが出来ている。

毒で死ななくても出血多量で死にそうな量なので、今後は複数の被験体に分散して実験した方が良いね。

全身麻酔の精度を上げるためにも、牡ジカに死なれてはデータが取れなくなる。

傷口の上に手のひらを翳して瞼を閉じる。

しっかりと感触を掴みたいから魔石の魔力は使わない。

手のひらの先に魔力を伸ばして私の魔力とは大きく質が違うシカの魔力を感じ取る。

魔力の質の違いで目を瞑っていても傷口の形状が明確に判別出来る。

瞼の裏に焼き付いた傷口を脳裏で逆再生して閉じていくイメージだ。

「・・・む? むむむ」

実際にやってみて、思ったよりも抵抗が有って、なかなかイメージ通りに傷口が閉じてくれないことに気付く。

イメージの中ではスゥッと閉じるのに、魔力で感じ取れる傷口の閉じるスピードに大きな差違が有るのだ。