軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

光魔法というもの ⑪

「ど、どうしたんです?」

「・・・触角ヘビ!」

荷台を指さしたら、事情を知らない御者さんは首を捻りながらも頷いた。

「え、ええ。獲物の回収中に落ちてきたヤツだそうで、ルナリア様から加工場で解体して毒腺を領主館へ納入するようにご指示を頂いたんです」

「・・・でかした、ルナリア!」

鞍から飛び降りた私が荷台によじ登り始めたら、アリアナさんが御者さんに顔を向ける。

「毒腺は、この場で回収する。少し待て」

「わ、分かりました」

上に乗っかっているシカを退けると、額から1本の触角が生えた爬虫類のデッカい頭が出てきた。

腰のナイフを抜いて、グイグイと刃を押し込む。

首の周りにナイフを一周させて肉や血管を断ち切ったら、頭を脇に抱えて捻る。

ゴキリと固い音がして、ポロリと首が外れた。

荷台の上から路面へとポイと首を落として私も荷台から飛び降りる。

路面に座り込んで足元に首を立て、口の隙間にナイフの切っ先を差し込んで開かせると、上顎から生えた2本の長い牙が顕わになった。

獲物に毒を注入するためのストロー状になった毒牙だ。

ヘビの毒牙は口を閉じると内側へと寝る構造になっていて、口を開くと勝手に立ち上がる構造になっている。

口を閉じたときに喉の奥へ向かって牙が倒れることで、手脚の無い体でも器用に獲物を丸呑みすることが出来るのだ。

この毒牙の後ろの天井部分を眼窩の後ろまで下がった辺りに毒袋―――、毒腺が埋まっている。

毒牙と対になる下顎の牙が邪魔になるので、口角部分に深くナイフを入れてから足で下顎を踏んで顎関節を外した。

180度近くまで口は開いたけど、作業中に閉まったら危ないので、さらにナイフを入れて下顎自体を切り離した。

さあ、次の工程は、と、ナイフを握り直したところで、私の手の上にアリアナさんの手が乗せられた。

「フィオレ様。そこまでで止めておいてください」

「・・・ん? なんで?」

「バジリスクの毒が非常に危険なことは重々お分かりでしょう? 素人仕事では不用意に毒腺を傷付けて毒が漏れ出す恐れが有ります」

「・・・そっか。それも、そうだよね」

今まで私は頭ごと埋めるか誰かに渡すかで、毒袋の解体処理なんて、やったことが無かった。

アリアナさんの言う通り、素人仕事で揮発性の毒を漏らしては持ち運ぶことさえ出来なくなりそうだ。

御者さんにお礼を言って荷馬車を行かせた私は、鞍の後ろに掛けられている荷物から革袋を取り出してヘビの頭を突っ込み、万が一にも毒牙が馬の背を傷付けないように、荷物の上に牙を上向けにヘビの頭を括り付けた。

再び鞍の上へとよじ登る。

「・・・じゃあ、行こう」

怪しい治癒師からの聞き取りをしていたりと今日は「出勤」が遅かったのに、これ以上、道草を食っていたら実験の時間が無くなってしまう。

折角の獲れたてピチピチの毒が手に入ったのだから、毒が新鮮な内に実験を進めたい。

採掘場に着いたら、どうやって20メートル下のシカに毒を嗅がせるか、安全な方法を考える必要が有るしね。

「で。頭だけが帰ってきたと」

「・・・うん。必要なのは頭だけだし」

「ふぅん? 使うのは嗅がせる方法だけなのですよね?」

「・・・うん。アレに、どうやって嗅がせようかと」

「ここから、アレにですか・・・」

意気揚々とヘビの頭を採掘場へ差し戻してきた私が抱えている革袋をルナリアが覗き込んで呆れた顔をして、事情を聞いたテレサは手にした実験データに目を落としている。

ピーシーズは私が指している20メートルの眼下で、のんびり毛繕いしているシカをキャットーウォークから覗き込んでいる。

「顔の近くに弓で撃ち込みますか?」

「目の前に矢が刺さったら逃げるでしょ。普通」

「じゃあ、バイコーンに弓で撃ち込んで」

「殺しちゃダメでしょ。麻痺させるのだけが目的なんだから」

「吊り上げてから鼻先に押し付けてみますか?」

「ムリだって。吊り上げたら暴れるもの」

「だったら、どうするの?」

「それを考えてるんでしょうが」

「「「「「う~ん・・・」」」」」

みんな、難しい顔になってしまった。

そこで、ポンと一つ手を打ったのはナンナちゃん。

「 牡(オス) だけでも良いんですか?」

「・・・ぜんぜん構わないよ。何か案が有る?」

「毒を染ませた布を角に引っ掛けては?」

「・・・角? 吊るときの縄みたいに?」

牡ジカを指したナンナちゃんは、コクリと頷く。

「角なら鼻先の近くですよね?」

「・・・それ、採用!」

ビシッとナンナちゃんを指す。

確かに、その通りだ。

遠距離攻撃が得意なナンナちゃんらしい視点で、誰も危険な目に遭わずに済む妙案だ。

「やってみましょうか」

ナンナちゃんの申し出に、みんなが頷く。

ルナリアの護衛に抜擢されるぐらいに、同年代の中では頭ひとつ以上、飛び抜けて優秀なピーシーズの中でも、ナンナちゃんの遠距離攻撃技能の高さは、誰もが認めるところだ。

方法が決まったなら、毒の準備に取り掛かる。