軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

光魔法というもの ⑩

布に染ませたバジリスクの毒を至近距離で嗅がせた場合、1分間で身体に軽度の麻痺症状が現れ、2分間で強度の麻痺症状および意識混濁が見られ、3分間で重度の麻痺症状および意識喪失に陥った。

そのまま嗅がせ続けると30分間で死に至るが、嗅がせるのを止めると24時間で回復した。

肌に原液を塗布した場合、1滴で軽度の麻痺症状が見られたが1日を経過しても死には至らなかった。

2滴で中度の中毒症状、3滴で強度の中毒症状が現れておおよそ12時間で死亡。

4滴で重度の中毒症状と6時間で死亡。

5滴で死亡まで3時間、6滴で1時間、7滴で10分間、8滴で8分間、9滴で7分間、10滴で6分間、11滴以上は5分間で死に至った。

なお、水で薄めた毒を塗布した場合、2倍量に薄めると原液と同様の症状が現れるまで、おおよそ2倍の時間に延びる。

3倍量に薄めた場合は時間も3倍。

「・・・意識喪失して“24時間で回復”っていうのは、どの程度の回復?」

「“ほぼ完全に”ですねぇ。毒は残っていなかったですよぉ」

「・・・意識を取り戻すまでの時間は、どのぐらい?」

「鐘が二つ分は待たされましたからぁ、6時間ぐらいですかねぇ」

「・・・そうなんだ・・・。ふむ? 原液を塗布して直ぐに拭った場合の検証が無いな」

「すぐに拭うんですかぁ?」

「・・・殺すのが目的じゃ無いから。調べて欲しいのは麻痺するまでの量と時間と程度の関係性。特に、毒が残らない形で痛みを感じなくなるまでの、だよ」

「毒が残らない・・・ですかぁ」

「・・・なんで残念そうなの。治療に使いたいのに患者さんが毒を受けたらダメでしょ」

「ああ、確かにぃ」

「・・・例えば、虫歯で歯を抜くときに、サッと塗って歯ぐきだけを麻痺させられれば痛くないよね? 大きなケガで傷を縫い合わせたいのに回復薬が手元に無かったら?」

「そうでしたぁ。そういう話でしたねぇ」

童話に出てくる悪い魔法使いみたいな黒いローブを羽織った女性は、フードの下でヘラヘラと笑う。

まだ若いお姉さんだけど、大丈夫かな、この人。

お爺様たちと話した2日後に、毒の研究を依頼された治癒師との面談が実現したのだけど、話が噛み合うようで噛み合わない。

“治癒師”という職業は、薬物・魔法を問わず治療する、治療の何でも屋さん、という感じらしい。

聞けば、この人の本業は治癒師ではなく薬物の研究者とのこと。

いわば学者さん。

それなりに時間を掛けて検証はしてくれていたけど、微妙に欲しいデータが無い。

死刑囚を使った致死性の実験で十数人を手に掛けているはずなのだけど、平然としているのだから、マッドサイエンティスト的な人かな?

実験を続けて貰うにしても、具体的な実験条件を指定しないとダメそうだ。

まあ、治癒魔法の練習で魔獣に毒を使う分の実験は、大雑把なデータが得られているみたいだから、早速、試してみることにしよう。

直接塗布の追加実験のほか、いくつかの条件を紙に書き出して女性に手渡す。

「・・・じゃあ、お願いしますね」

「はぁい。分かりましたぁ」

フワフワとした、半分、宙に浮いたような足取りで、治癒師が帰っていく。

地球だったら薬物中毒患者と疑うような足取りだ。

患者さんじゃないよね?

女性が退室して扉が閉まった途端、深く溜息を吐いた。

なんか、ドッと疲れた気がする。

被験者も含めて実験に掛かる“材料”は領主持ちで、実験成果のデータを報告書で提出するだけで、治癒師自身の仕事に新たな技術を使って活かすのは自由。

これが検証実験依頼の提示条件だったらしく、依頼に応じたのが、さっきの女性だけだったそうだ。

時給か日給かを出せば、実験を請け負ってくれる人を雇えるかなあ。

死刑になるような凶悪犯罪者が被験者だとしても、十数人もの人間を毒殺する実験を私自身の手でしなくて済んだことは、お母様に感謝だ。

護衛に付いていてくれたアリアナさんとオーリアちゃんが部屋の片付けに取り掛かる。

受け取ったデータは私のカバンに仕舞う。

実験結果と併せて見やすく整理して報告書で上げなきゃね。

「採掘場へ向かいますか?」

「・・・うん。触角ヘビも捕りたいんだけどなあ」

「バジリスクは見付けるのが難しいですからね」

「・・・だよねえ」

木から木へ、高い枝の上を移動する触角ヘビは、葉っぱに似た深緑色と濃い茶色の、まだら色をしていて、地上から見付けるのが本当に難しい。

直ぐ頭上で枝の上を這っていても、下から見上げたら枝に隠れてヘビの細長い体が見えにくい。

採掘場の伐採作業中にも3匹ほど落ちてきたのを獲ったけど、向こうから襲ってきてくれるのを待っていても、あのヘビ、こちらの不意を突いてくるのが上手いというか、こちらが警戒しているときには襲ってこないんだよ。

採掘場に着いたら、みんなに手伝って貰って探さないとなあ。

3人で馬を連ねてポックリポックリと採掘場への街道を進む。

ヘビが居ないか、ずっと上を見ながら馬に揺られていたら首が痛くなってきた。

コキコキと首を鳴らす。

「フィオレ様、落馬しますよ。ちゃんと前を向いてください」

「・・・は~い」

くっそぉ・・・。居て欲しいときに居ないんだよなあ。

頭上の枝葉から視線を落として進行方向へと目を向けると、採掘場からレティアへと戻る荷馬車が向かってくる。

手綱の左手だけを少し引いて、街道の真ん中を歩かせていた馬を左側へと寄せる。

道を譲って貰ったことに気付いていた荷馬車の御者さんが、擦れ違うときに頭を下げてきた。

加工前の“お肉”を満載した荷馬車を曳く2頭立ての馬が、重そうな足取りで、えっちらおっちらと足を前に進め、行き過ぎる。

採掘場の「出荷」分かと思っていたら、荷台に山積みされたシカの間から猪の鼻先と鱗が生えた尻尾が突き出していて、ワナ猟の獲物だと分かる。

「・・・―――、んん!? 尻尾!」

手綱を引いて見過ごしそうになった尻尾を二度見した。

「・・・その馬車! ちょっと待った!」

慌てて馬首を巡らせたら、私の制止で荷馬車の御者さんも慌てて手綱を引いている。

停車した馬車の傍へと馬を進ませて荷台を覗き込む。

驚いた顔の御者さんが御者席から身を乗り出して振り返っている。