軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

光魔法というもの ⑨ ※アスクレー面

初めてフィオレに会ったのは、アスクレーたちがウォーレス領に着いて“魔の森”に降り立ったときだ。

速度を落としつつある馬車の窓から見える木々の間に白い人影が幾つも有って、殆どは甲冑を着た王女殿下の護衛騎士とウォーレス領軍の女性騎士だったが、その中でも一際白く、異質さを放っていたのがフィオレだ。

王国では珍しい銀髪で、肌の色も白い。

乗馬服の白いシャツと相まって、アスクレーが抱いたフィオレの印象は「白」だった。

普段から「娘が欲しい」と言い続けている母上の羽目の外し方は目を剥くばかりだった。

馬車から出て来いと呼ばれてみれば、フィオレたちは魔獣を捕獲する罠を仕掛けていたようで、原始的で有りながら芸術的とさえ言える機能を備えた罠に、不覚にもアスクレーは夢中になってしまった。

続いて連れて行かれた岩塩鉱山も興味深かったが、食肉用として飼育しているバイコーンに度肝を抜かれて案内された鉱山のことなど記憶から飛んでしまったほどだ。

フィオレは今も「飼っていない。閉じ込めているだけ」と言い張っているが、あれは飼育だと思う。

鉱山開発も魔獣の飼育も罠猟も、更には防衛拠点の建設までフィオレ主導で進められたものだと聞かされて信じられない思いだったが、社交界の覇者として名を馳せている、あの母上と、対等に議論して母上を驚かせているのだから、フィオレは「本物」だと認めるしかない。

それ以前に、大陸屈指の魔法術師として有名な叔母上が認めるほどの知啓と武勇を誇る少女が「本物」で無いわけがない。

先日、行われたフィオレの“紅蓮”お披露目も圧巻だっだ。

一人の魔法術師が、あれほど巨大で強力な術式を放つことが可能なのが信じられないほどの力量を、衆人環視の中、フィオレは示して見せた。

詰め掛けたウォーレス領民の歓喜と熱狂と来たら、王都の最大の祭り「建国祭」など足元にも及ばないほどの熱気だった。

そのフィオレが私の許婚に選ばれる―――、いや、一族会議の満場一致で選ばれたのはアスクレーの方か。

「(あのフィオレと私が許婚になるなんて・・・)」

心の中で独りごちる。

「・・・あ。アレース兄様、アスクレー兄様。鍛錬は終わられたのですか?」

廊下の角から現れて横切りかけた問題の「白い少女」が、アスクレーたちの姿を見付けて足を止める。

平坦なわけでもなく、抑揚がないわけでもなく、感情が籠もっていないわけでもなく、ただ、聞きようによっては素っ気なく聞こえて「分かりにくい」だけの、特徴的な話し方をするフィオレに、兄が諸手を挙げて足を速める。

兄が歩み寄るのを待っているフィオレは、表情が無いように見えて、よく見ると、ほんのりと笑みを浮かべていて、兄やアスクレーに、好意的に接していることが、アスクレーにも段々、何となく分かるようになってきた。

「兄様」と呼ばれた兄の方は、今日もデレデレに顔が緩んでいる。

「フィオレ! 帰っていたのかい?」

「・・・領主執務室へ報告に行ってきたところです」

「君一人でかい?」

首を傾げた兄は、フィオレの傍に護衛騎士見習いの少女が一人しか居ないことを不思議に感じたようだ。

フィオレの傍には、大抵、王女殿下とルナリアと護衛騎士と騎士見習たちが居るのだ。

領主館の中とはいえ、フィオレの周りに人が少ないのは珍しい。

「・・・はい。テレサとルナリアは、馬の世話をすると厩舎へ行きました」

「あの殿下が馬の世話を・・・。変わったね」

「・・・そうですか? テレサは最初から、わりと、あんな調子でしたが」

「そうなのかい? 王宮でお会いしたときの殿下は、いつも、お顔は笑っていても、つまらなさそうにしていらしたから、意外だよ」

「・・・そうなのですか? 私には、そんなテレサは、ちょっと想像できません」

フィオレが言うように、今のアスクレーは王女殿下の印象が変わりつつ有る。

フィオレは不思議そうに首を傾げるが、アスクレーの記憶に有る王女殿下も、兄が言う通り、微笑んでは居ても、常に、つまらなさそうにしておられた。

だからこそ、王宮では、「気難しい」、あるいは「扱いが難しい」などと言われて、その聡明さと相まって、腫れ物を扱うようにされている方だったのだ。

その王女殿下が、ウォーレス領へ来て再会してみれば、表情も豊かに話し、笑い、騎士たちを引き連れて駆け回っておられた。

何より、ルナリアとフィオレの二人には、対等に話すことをご自身から求められたとか。

「フィオレも、これから厩舎に?」

「・・・はい。兄様方は、どうされるのですか?」

「汗だくになったからね。湯を使わせて貰うつもりだよ」

「・・・それはいけません。早くしないと体が冷えて風邪をひいてしまいます」

「この程度で風邪をひくほど、 柔(やわ) じゃないよ?」

「・・・ダメです。油断が命に関わることも有るのです。早く暖まりに行ってください」

「あっはっは。分かった、分かったよ」

くるりと兄の後ろに回ったフィオレが、ぐいぐいと兄の背中を押し、兄が笑い声を上げる。

ほんの数日前に会ったばかりなのに、本当の兄妹のような距離感だ。

子爵家とはいえ、貴族令嬢の距離感として、これで良いのだろうか?

アスクレーたちには姉も妹も居ないので普通がどうなのか分からないが、兄とフィオレの距離感の近さに何だか胸の奥がモヤモヤする。

そんな益体も無いことを考えていたら、キッとフィオレに睨まれた。

「・・・アスクレー兄様も! 風邪をひいたら、どうするのですか!」

「えっ? あっ」

がっしりと意外に強い力で手を握られたと思ったら、フィオレに引っ張られる。

「・・・浴室へ行きますよ!」

「フィオレ様。そっちじゃ有りません」

片手で兄の背中を押し、もう片手でアスクレーの手を握って、勢い込んで廊下を歩き出そうとしたフィオレの足が、一歩目で止まる。

「・・・・・」

フィオレが行こうとした方向とは逆方向を護衛の騎士見習いが指さしていて、急速に首から上を赤くしたフィオレが反対側へ方向転換する。

「・・・い、行きますよ!」

「―――、ブッ・・・! くっくっく」

堪えられずに噴き出してしまった。

フィオレが抗議するように睨んでくるが、真っ赤になった涙目の上目遣いでは、ぜんぜん迫力が無い。

こうして見ると普通の女の子なのだと気付かされて、「よく分からない」などと距離を取ってしまっていた自分が馬鹿らしくなる。

「・・・むー」

「いや、ゴメン。悪かったよ」

フィオレの失敗を、ではなく、フィオレの様子のおかしさに笑ってしまったことで機嫌を損ねたのか、赤面したまま膨れてはいるが、それでも手を握って先導してくれるフィオレを、アスクレーも身近に感じ始めていた。