軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

光魔法というもの ①

「ここでね! この辺を、グッとやって、バッとするのよ!」

「・・・うん。分かんない」

「分かりませんわね」

「ええ~?」

地面に体育座りで並んだテレサと私の前で身体強化魔法を実演して、即時否決されたルナリアが眉尻を下げる。

脳筋一族のルナリアの教え下手を私は知っているから驚かない。

テレサも驚いていないのは、懐の深さなのか、教え下手の前例が身近に居たのか。

ピーシーズもウンウンと頷いている。

頷いているピーシーズも脳筋な教え下手なので、テレサと私にしてみれば「お前が言うな」的な心境なのだけれど、平和を愛し相手の心情を 慮(おもんばか) れる お利口さん(クレバー) な私たちは心境を口に出さない。

私は兎も角、自国の王女様であるテレサに「分かんない」とストレートにダメ出しされて、めげないのは、恐らく、ルナリアか私ぐらいだろう。

まあね、頭で理屈は理解していても、自分の筋肉の一つ一つを個別に認識して最適な部分にだけ瞬間的に強化魔法を掛けるなんて職人芸、出来ないのが普通なんだよ。

それを、脳筋な彼女たちは本能的に直感で、やってのける。

考えれば考えるほど、わけが分からなくなるから、これはもう、本能に従って野生に還るしか修得する術は無いのだろうと考えている。

あ、いや、考えちゃダメなんだった。

対・カリーク公王国軍の戦争が終わった私たちは、今日も今日とて「出勤」途中に獲物のトドメを刺して回り、採掘場での「出荷」を終えた後、各々の訓練に勤しんでいる。

一応は実戦使用レベルに到達したと思われる私の“恒星”をルナリアに教え、ルナリアの身体強化魔法を私とテレサが教わり、テレサの治癒魔法を私とルナリアが教わる。

私はテレサにも風ジェットカッター魔法を教えていたので、先日、言っていたように、テレサは“紅蓮”を教わる必要は無いと改めて言い、風ジェットカッター魔法と治癒魔法で相殺してくれることになった。

よって、私はテレサの治癒魔法の上達に協力している。

私たちは少しでも短時間で出来るだけ多くの技術を修得するために、互いに教え合う方向へ切り替えたのだ。

こうなったのには理由がある。

まだ西部国境戦線が終結していないとは言え、対・カリーク公王国戦線が終結した以上、いつ、「国王陛下の名前」でテレサの帰還命令が出てもおかしくない。

王宮を代表して「 “白焔”の後継者(わたし) 」を確認しに来ただけのテレサとしては、対・カリーク公王国戦に参加していることが予定に無かったイレギュラーなんだけど、「たまたま出くわした新領土防衛戦の現場を指揮して勝利に貢献した」と「偶発」を政治利用する以上、戦闘の終結は「大変だったね。じゃあ、帰っておいで」と王宮から王都帰還命令が出る政治利用の根拠にもなり得る。

王妃様が暗殺され掛かったことから分かるように、王宮は安全な場所では無い。

王妃様やテレサが邪魔な連中も居る。そういう連中からすればテレサに手柄を上げられては困るのだ。

ルナリアと私の友人であり同志でもあるテレサが危険な目に遭う可能性が有って、テレサが王位継承権を放棄しない限り、その可能性は付きまとい続ける。

だから、明確な命令として言われたわけでは無いけど、セリーナ様たちはテレサが王都へ戻る際に護衛を付けたいらしい。

それは、「王都までの道中の護衛」ではなく、「テレサの専属護衛部隊が育つまで」の長期任務としてだ。

つまり、「ピーシーズの中からテレサの側近を誰か出せ」という意味だと私は受け取った。

ルナリアは何も聞いていない様子だし、私一人を呼び出して話したということは、「ルナリアの説得は私がやれ」という意味だろう。

現実問題として、当初、ピーシーズは、お母様の例を参考にルナリアの側近として想定されていた人員で、護衛対象が私とルナリアの2人に増えた現状では人数が足りていないのだそうだ。

今のところ私たちはルナリアの部屋で一緒に眠っているから負担が少なくて済んでいるけど、実際、夜間の不寝番を領主館のメイドさんたちに肩代わりして貰っている状態で、この状況が続くのはセキュリティ上もセーフティ上も良くないらしい。

そう言われてしまうと絶対数が足りていないことは理解できる。

日本の感覚だと大袈裟に思えるけど、魔法術式なんてトンデモ技術が有って、高さ5メートルの窓にでもヒョイと上ってくることが容易な世界では、寝ている間も護衛要員や警戒監視要員の配置は必須だし、こっちの世界では人間の命の価値が総じて安いのだ。

今後、想定されるピーシーズの負担を減らす意味でも、ピーシーズの中から誰が抜けるか分からない状況下で、新メンバーを選抜して育てる必要がある。

ウォーレス領内でピーシス領の戦闘力が突出している現実からも、テレサの護衛はピーシス領から出すのが望ましく、ピーシーズの増強とテレサの護衛の選抜は喫緊の課題となる。

しかも、私たちが全員女の子なのだから、選抜されるのも女の子限定。

男性騎士と違って女の子の護衛要員は「結婚するな」とも言えないから勤められる年数に限界がある。

例えば、お母様と同じ歳のエゼリアさんとアリアナさんだ。

2人とも御令嬢の結婚適齢期を大きく超えているから、お母様の側近を務められるのも、いい加減、そろそろ限界で、本人たちが拒否しているだけで、側近の代替わりは、ずっと前から検討されていたらしい。

お母様自身も幼馴染みとも言える側近たちを「安物の貴族の嫁になど出せるか」と結婚相手のハードルを上げ続けていたらしい。

側近を務める者たちにとっても、貴重な乙女時代を捧げるだけの役得は「普通では望めない高レベルの結婚相手の斡旋が受けられること」なのだから、お母様の判断は間違いでは無かったのだろう。

とはいえ、嫁入りして子供を産める時間は有限なのだ。

有能な人材が少なくて人材不足なのは、生きる世界が違っても同じらしい。

私たちの世代でも同じ問題は起こり続けるのだろうから、継続的に人材を育て続ける必要が有るね。

そりゃあ、お婆様が最初に「私をピーシス領へ連れ帰って来ない」と、お母様に愚痴を言ったわけだ。

人材は直ぐには育たない。

私の資質も含めて判断して、新たな人選を行う必要が有ったのだろう。

あの時のお婆様の言葉にも、ちゃんと意味が有ったのだ。

効率的な人材発掘の方法も考えないとなあ。

ピーシーズ増員に併せて下部組織でも作るべきか。

アレだ。“何たらクラブ”とか“KKK”だか何とか言うアルファベット3文字の大人数アイドルグループの予備軍みたいな下部組織だ。

あれ? “ATM”だっけ?

今は遠き日本のアイドルグループの名前なんてどうでも良いや。

訓練機関を兼ねたピーシーズの下部組織は「有り」じゃないかな。

ガチガチの指揮系統じゃなく、先輩・後輩の緩やかな上下関係でも、個々の適性を見極めつつ集団行動に慣らしておく役には立つのではないだろうか。

これも、要・相談案件だね。

ともあれ、ウォーレス領におけるピーシーズが足りていない現状では、テレサのために何人もの護衛を出すことも難しいから、テレサの護衛に選ばれた者の負担を減らす意味でも、私たち全員を強くしておこうと考えたのが今の状況で、先ずは、私たちが使える技術を「ナンチャッテ」でも良いから増やしておくのが先決なのだ。

手札は多ければ多いほうが良い。

お母様の例に倣えば私たち3人が強ければ周囲の負担が減るのだから、私たちが手を抜くことは許されない。

個々に得手不得手は必ず有るし、いきなり全てを人並み以上に修得する必要は無いからね。

目の前に弓と矢が有っても射る方法を知らなければ使えない。

いざという時に抵抗する手段が有るかどうかの方が重要で、実戦レベルへのブラッシュアップは、後からでも研鑽を重ねて行けば良い。

「きゅ、休憩よ!」

「・・・うん。お疲れさま」

頭を抱えて蹲ったルナリアの背中を、ぽんぽんと叩く。

どう教えれば良いのか混乱して煮詰まったルナリアがギブアップし、ほとんど見物していただけで疲れていないテレサと私は顔を見合わせる。

「治癒術式―――、というか、光術式の訓練でもしましょうか」

「・・・そうだね」