軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

採掘場防衛戦 ⑯ ※アンサンブルキャスト面

「やっぱり、干し肉だな」

埃を被らないように丁寧に大きな布で包まれているが、布を捲ってみれば、変わった色をしていたり色の付いた粉を吹いていたりの干し肉が、木箱一杯に詰まっていた。

箱の一つには、包んだ布の上に封筒が乗せられていて、「お母様へ」とフィオレの筆致で宛名が書かれている。

目を細めたフレイアが封筒を手に取り、ついでに、布包みの中から干し肉を1枚抜き取って齧り付く。

本来、毒味を経たものを口にするべきなのだが、止める暇も無くフレイアは口にしていた。

「―――、ぅおっ! 何だ、この味!?」

何やら独特の甘味のある複雑な「濃い味」が付いていて、粉っぽい。

眉を顰めたフレイアは囓りかけた干し肉を手に取って、まじまじと見下ろす。

フレイアの反応を見た側近たちも次々に手を出して齧り付く。

「うわっ! 不味っ!」

「うげぇ―――!」

「ぎゃ―――!」

毒物では無いのは明らかだが、フィオレが作ったものにしては不味い。

口々に不平や悲鳴を上げているが、皆、その顔は笑っている。

フィオレからの手紙の封を切ったフレイアは、綴られた文字を目で追いつつ頷いた。

「なるほどな。そのままでも食えるが、湯でふやかすとスープになるらしい」

「えっ? スープですか?」

「言われてみれば、煮詰めて濃くしたスープの味のようにも思えてきますね」

「試してみましょう!」

「私も!」

ディーナとアンリカが首を傾げながら頷き、マキアナとエレーナが天幕を飛び出して行った。

大方、器と 木勺(スプーン) でも取りに行ったのだろう。

「それにしても、フィオレ様らしくない雑な仕事ですね?」

「領民たちが好き勝手に作り始めているらしいぞ。恐らく、面白そうなものを探して買い集めてきたんじゃないか?」

フレイアから手渡され、エゼリアたちも手紙の文字に目を落とす。

「ああ。ワイン味に刺激を受けましたか」

「そのようだな。面白いことになっているらしい」

フィオレという異物が混じったことで、ウォーレス領全体に良い動きが出ているようだ。

文字を目で追うエゼリアたちを見るフレイアの顔に自然な笑みが浮かぶ。

レティアの町から起こった波は領内全体へと波及し、領民が競って新しいものを作り出そうと奮起しているのだそうだ。

領民が新しいものに挑戦するだけの余裕が有るということは、領民の生活が豊かになった証拠だ。

領民が試行錯誤した結果が市場に並び、日々、新しい発想のものが生み出されては、絶賛されたり酷評されたりで飽きないらしい。

好況に沸く町が及ぼす影響は領内だけに留まらず、近領を巻き込んで活発に交易されているという。

「この手紙では、ミリア様のことに触れられていませんね」

「ミリア様は、許嫁の話を詰めにレティアへ帰られるんですよね?」

「さあな。ミリアにも許婚にも触れていないということは、ミリアがウォーレス領へ着く前に送り出された荷なのかも知れんな」

「それにしても、味付けされた干し肉に関しても、細かな説明が一切有りませんね」

「フィオレ様らしくないですね」

あの少女は相手に誤解を与えないよう、しっかりと説明を添えてくるのに、この手紙には、それがない。

フレイアは目を細めて笑う。

「敢えて書いていないのだろうよ。むしろ、フィオレらしいと思わんか?」

「もしかして、“失敗しろ”ということですか?」

戦いに特化したウォーレス領軍は規律に厳しい。

占領地で無体を働く者には特に罰則が厳しくて、領軍に属する者は己を律することを強いられる。

殺伐とした戦場で気分転換になる娯楽など有るわけが無いし、娯楽として「失敗を楽しめ」という意味か。

顔を見合わせたエゼリアたちも腑に落ちた。

「なるほど。それは、フィオレ様らしいですね」

失敗しても誰も傷付かず、失敗こそが楽しい。

今、この天幕に重荷は何も無い。

フレイアたちだけでは食べきれない量を送りつけて来たということは、領軍の皆にも回してやれという意味だろう。

実にフィオレらしい心遣いに気持ちが軽くなる。

手紙から目を上げた側近たちとフレイアの目が合う。

ニヤッと笑ったフレイアが、平素の調子で宣言する。

「色々な味があるらしいから、全部、試してみるぞ」

「「「「「はーい!」」」」」

干し肉に湯を注いだ器を回して悲鳴を上げたりワイワイと騒ぐ天幕の中を目を細めて見ていたエゼリアの脇腹を、隣に立つアンリカが肘で突っつく。

騒ぎに気付いて何事かと現れたハロルドたちも巻き込んで、騒ぎと笑いが野営地全体に広がっていく。

バカ騒ぎやバカ笑いは摩耗した心に効く。

今のフレイアだけで無くエゼリアたちにも必要だったものだ。

どうにも出来ない重苦しい心の 憂(う) さを、フィオレは干し肉ひとつで吹き飛ばしてしまった。

「敵わないわね。フィオレ様には」

「そりゃあ、フレイア様の娘だもの」

チラリと片眉を上げた目配せで意思疎通した二人は騒ぎの中へと飛び込んで行く。

早くしないとフィオレが送ってくれた干し肉が食い尽くされてしまう。

頭の中まで筋肉が詰まった連中の胃袋は、胴体の筋肉が頭の中に移動した分、無限に食べ物を詰め込めるのだ。

全部食い尽くされる前に自分たちの分を確保しなければ。

楽しめるときに楽しむのも、戦い続けるための秘訣だ。