作品タイトル不明
採掘場防衛戦 ⑧
「・・・ええっと、あっ、そうだ!」
上へ向けた魔力の手のひらに乗せて下から支えれば落ちては来ないはず。
そっと手を開いた瞬間、フラッシュランプのように眩い閃光が町を照らした。
日中の日光よりも明るい光が目を灼き、反射的に瞼を閉じる。
巨大な手で上から叩かれたような大気の振動を全身に受けて足元が揺らぎ、訓練場に土埃が舞い上がる。
一瞬遅れて、「ズドオオオオオオオオオオン!!」と、耳に痛みを感じるほどの大音量が降ってきて、ふわりと平行感覚が狂わされる。
最後に降ってきたのは猛烈な熱風だ。
昨日ほどではないけど、炎に炙られたような熱風が吹き下ろしてきて、群衆から悲鳴が上がる。
もうもうと砂埃が舞って息苦しい。
ううう! 防塵マスクと遮光ゴーグルが欲しい!
いや、溶接マスクか!?
アーク放電での溶接作業で使う溶接マスクは日蝕観察でも使えるんだよね!?
サングラスぐらいは作れる工房は有るんじゃ無いの!?
「・・・うう! ぺっぺっ!」
上を向いていたせいで僅かに開いていた口の中にまで土埃が入ってジャリジャリだよ。
衝撃波と大音量で三半規管が狂って足元はフラフラするし、閃光に網膜が灼かれて視界が緑色にチカチカするし、耳の奥はキーンと鳴っている。
かなり上空まで運んだつもりだったけど、まだ距離が足りなかったか。
威力が強すぎて、塹壕戦みたいに物陰に隠れながら使わないと駄目だな。
もう少し遠くまで運べなくもない感覚は有るけど、“恒星”を目視できる距離でないと魔力制御が怪しいのと、魔石の魔力が切れた地点で大爆発だから、使える場所と場面が、かなり限定されそう。
威力の調整が出来れば汎用性も生まれる気がするから、練習かなあ。
ていうか、自分の“恒星”魔法を初めてちゃんと観察したけど、“紅蓮”や“白焔”とは、別物の気がする。
これって“紅蓮”の修得って言えるの?
そこまで考えたところでギュッと抱きしめられた感触が有って、フワッと体が宙に浮いた。
「すごいぞ! フィオレ!」
まだ視界が緑色一色のままだから、よく見えていないけど、このガッシリとした腕の安定感とお腹に響く低い男声は、お爺様だ。耳鳴りが続いている耳でも聞き取れる。
「・・・あ、あの。“紅蓮”とは少し違うように思うので、まだ修行が必要だと―――」
「何を言う! 素晴らしい術式だったぞ!」
興奮気味のお爺様の声に合わせて、両脇に力強い腕の感触が有って上下に加速度を感じるってことは、また「高い高い」されてるのではないだろうか。
耳鳴りが治まってきた私の耳に、ワーワーと騒ぐ歓声が聞こえてくる。
緑色の視界が薄れて景色が見え始める。
「見よ! 皆がお前を次期ピーシス家当主だと認めておる!」
まだ視界はチカチカしているけど、お爺様が腕で大きく示した先に、笑顔で両手を振って大騒ぎしている群衆の姿が見えてきた。
「フィオレよ。我らピーシス家に連なる者に必要なものは理解していよう?」
「・・・強さ、ですよね?」
力強い目差しでお爺様が頷く。
「そうだ。我らピーシスはウォーレスの剣。ウォーレス領に暮らす民にとって、ピーシス家の強さこそが安心なのだよ」
「・・・多少の誤差は許容される、と?」
全く色が違ったアレが“紅蓮”かと言えば、私は、まるで自信を持って言えない。
眉尻が下がった私に、お爺様は首を振る。
「お前は勘違いしておるようだが、魔法術式に全く同じ物など存在せんのだ」
「・・・えっ?」
「それぞれの人の、頭の中が、全く同じなどということが有ると思うか?」
感性もイメージも、人それぞれ。
同じ物を見ても、それぞれの脳内で同じ認識を持つかどうかも定かでは無い。
そういうことか。
魔法技術は数学のように定型の数式で導き出されるものでは無い。
それは、術式の構築でイメージを喚起するための呪文さえも定型文では無く、呪文を用いない無詠唱行使が実現してしまうことでも明らかだ。
「・・・そっか。個性が有るんだ」
「その通りだ。お前は飲み込みが早いな」
「・・・お爺様。私、お母様に報告のお手紙を書いても大丈夫でしょうか?」
「そうしてやると良い」
お爺様の大きな手で、わしわしと頭を撫でられる。
お爺様の左腕に腰掛ける格好で抱き上げられたまま、お婆様たちのテーブルへと連れられていく。
近付いてくる私を待ち構えている群衆に軽く手を振ると大歓声で迎えられた。
領主館勤めのメイドさんたちがガードしていて群衆の最前列にポッカリと開いた空間で、土煙で汚れたお婆様たちの衣服をメイドさんたちがパタパタと払い落としていて、茶器一式も、別のメイドさんが綺麗なものを出し直している。
ポットに注ぐお湯は魔法で出したもの。
熱湯を魔法で出すなんて、さすが、ウォーレス家のメイドさん。
何気に高難易度じゃないかな。
メイドさんの一人が新たな椅子を持ち出してきて、抱き上げられていた私はお爺様の手で椅子の上へ設置される。
隣の席でニッコリと笑うミリア叔母様に迎えられた。