軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

採掘場防衛戦 ⑦

領主館に隣接した午前中の訓練場には多くの人々が詰めかけていた。

検証実験を兼ねてのお披露目みたいなものだけどね。

昨日、レティアに戻って“紅蓮”発動の成功を報告したら、大層喜んだお爺様に「高い高い」され、ルナリアみたいに上空7メートルの空中遊泳を警戒したのだけど、お爺様はハインズ様のように手元を滑らせることもなく、私は無事に帰還した。

どろどろボロボロになった私は、領主館に勤める本職のメイドさんたちに徹底洗浄されて、お焦げをトリミングされた上で、晩餐の場で翌朝の“紅蓮”お披露目を命じられた。

街中で使うのは危険じゃないかと具申したけど、打ち上げ花火みたいに上空へ向けて撃てば問題無いと却下され、一夜明けて、朝ご飯を食べ終わって身支度を終えた私が、何か外が騒がしいなあ、などと首を傾げながら領主館を出ると、どこからか聞きつけた町の人々が訓練場に押し掛けていて、一大イベントみたいな盛り上がりを見せていた。

昨日の夜から領軍の兵士さんたちを通じて町に広まったお披露目開催の情報は、早馬まで出されて領内全域にまで拡散され、早朝からの市場で爆発的に広まった噂で仕事を放っ放り出してまで領民が訓練場に押し掛けて来たらしい。

レティアの町に居た領民だけでなく、領内各地の委託統治領地からもウォーレス家系や傍系の人たちが駆けつけていて、エゼリアさんのお母さんに、アンリカさん姉妹のお母さんや弟さん、老齢やケガで現役を退いて予備役に回っていた人たちまで、100人以上、紹介された。

ちなみに、エゼリアさんの実家は、ピーシス家傍系の男爵家。

アンリカさんアリアナさんの実家は、ピーシス家傍系の騎士爵家らしい。

アリアナさんの下には弟くんが一人いて、数年後には騎士になるつもりで頑張っているそうだ。

両家のお父さんは、お爺様の部下で、ずっとレティアで勤めて居たらしい。

誰か教えてくれても良かったんじゃ?

きっと、私が、誰が誰かを分かっていなかっただけで、見知った顔なんじゃないかな。

いつもお世話になってます、と、挨拶ぐらいしておきたかったよ。

正直、重要そうな何人かの人たち以外、覚えられなかった。

戦傷で片腕や片脚を失った人まで、自分で馬を飛ばして来たと言うのだから驚いた。

脳筋民族とお祭りって親和性が高そうだもんなあ。

「フィオレ様―――!」

「頑張って―――!」

無意識に後退った私の背中をオーリアちゃんが後ろから支え、耳元に顔を寄せてきた。

「手でも振ってあげたら?」

「・・・ええ?」

何それ? と、眉尻を下げつつ小さく手を振ったら、一瞬、シンと鎮まった直後に、地面を揺るがすような歓声と共に人々が拳を空に突き上げる。

「「「「「うおおおおおお―――!」」」」」

何だよコレ!?

どこのアイドル登場だよ!

熱狂としか言い表せない異様な盛り上がりの訓練場に戦きながら足を踏み入れると、見届け人のハインズ様とお爺様を筆頭とした領軍関係者が、群衆と一緒になって雄叫びを上げている。

周囲の盛り上がりと、テーブルセットを屋外に持ち出して優雅にお茶を飲んでいる、セリーナ様・お婆様・ミリア叔母様との対比が、もの凄いミスマッチ感を出している。

一応、お婆様たちも衣服が汚れるのを想定しているのか乗馬服姿だけどね。

テレサとルナリアはお爺様たち側だね。

叔父様と2人の息子たちも、ピーシーズと一緒になって楽しそうに声援を飛ばしてくれている。

許婚と言っても私たちが採掘場に籠もっている間、アスクレーくんを放ったらかしにしていたし、まだ、まともに話してないんだよね。

なんだかなあ・・・。

アスクレーくんの話は横に置いたとして、お披露目を命じられたのが昨日の夕方以降なのに、何で一夜明けただけの今朝、これほどの数の人々が集まってるんだよ。

これ、マークス様の葬儀並みの人出じゃない?

情報伝達の速さにも驚くけど、ミリア叔母様がドヤ顔でお茶を飲んでいるから叔母様の仕業なのだろうね。

電話やメールで情報を拡散できる世界でもないのに、どんな手を使って情報を広めたのかと叔母様の手腕に戦慄する。

社交界の人たちって、こんな情報戦で戦うの?

万単位の視線に晒されて恥ずかしいけど、次代の主戦力のお披露目で領民が安心すると言われてしまっては私に拒否する選択肢は無いわけで、出来ればお母様に見て欲しかったのだけど、お母様とハロルド様が帰ってきたら、また遣る、と言われてしまっては反論の余地も無い。

やるしか無いなら、やるだけだ。

やる以上は失敗できない。

てくてくと訓練場の真ん中まで歩み出て、上空を見上げる。

遙か彼方に薄い雲が掛かっているけど、冬が近い青青とした秋晴れの綺麗な空だ。

ここなら、かなり上空まで見えるから、“恒星”を見失わずに高高度まで運べそう。

大きく深呼吸して心を静め、魔石を握った右手を青空へ掲げる。

私が腕を上げた瞬間、群衆がピタリと静まった。

こういう一体感がウォーレス領らしくて、くすりと笑みが漏れる。

掌握した魔石の魔力を上空へと伸ばす。

瞼を閉じて、闇の中をイメージする。

脳裏に焼き付いた昨日の再現だ。

星々が瞬く宇宙空間に浮いた私の前には煌々と輝く恒星が浮いていて、スケール感を示す小惑星が私の傍を通り過ぎていく。

恒星の巨大さが実感されてイメージが固まる。

この星は大きくて重い。

莫大な質量は重力を持って小惑星を引き寄せる。

重力に捕まって引き寄せられた小惑星は恒星の表面へ落ちて燃え尽きる。

恒星が急速に遠ざかって、小さく小さく縮小されていく。

遙か彼方から俯瞰した恒星は伸ばした魔力の手のひらに中に収まって、魔力の手が恒星を掴んだ。

訓練場を取り囲んだ群衆から大きな 響(どよ) めきが上がるが、魔力制御に神経を集中した私の意識には届いていない。

魔力の手の中に恒星の熱さと重さが伝わってきて、私は恒星を遠くへと遠ざける。

もの凄い勢いで魔石の魔力が消費されていく感触が感じられて私の心に焦りが生じる。

私の脳裏に思い起こされるのは、昨日の衝撃波と爆風だ。

ヤバい。

魔石の魔力切れで、これが町の中で爆発したら大変な被害が出る。

もう良いかな?

十分に離れたよね?

そろそろ目視外で“手”を伸ばせる限界距離に近い感覚が有る。

焦りに耐えきれず瞼を開いたら、町の遙か上空に太陽が二つ有った。

片方は中天に至っていない本物の太陽で、もう一つは私が作り出した恒星だ。

数百メートル―――、いや、1キロメートル以上は上空じゃないかな。

太陽と同じで直視できないほどに眩しいから左手で目元に影を作る。

「・・・あれ? なんか色が違う?」

昨日は落ち着いて見られていなかったけれど、遠景で見ると違いが分かる。

太陽の色は“昼白色”と呼ばれるように、光の波長か何だったかが理由で白色から僅かに黄色というか、暖色に寄った色で、私が作り出した方の恒星は“蛍光色”というか、白色に青色が雑じった薄い水色のように見える。

記憶に有るお母様の“白焔”は、その名の通り真っ白だったから、“白焔”の色とも違う。

ハッ! 呆けて観察している状況じゃ無かった!

魔力の手に伝わってくる“恒星”の重さに戦慄する。

コレ、マジでヤバい。

「すごく重たい物質」の比じゃないぐらいに重いのが直感的に分かって、手を離したら一瞬で落ちてくるのが容易に想像できる。

手を離しては駄目ならどうすれば良い?

迷っていても、昨日のように、魔石の魔力切れで大爆発は起きる。

魔力が切れる前にアレを処理しなければ。