作品タイトル不明
採掘場防衛戦 ⑥
「・・・ぅおっ!」
眩しい!
思わず目を瞑ってしまって、左手で目元に影を作る。
集中していて気付かなかったのか、じりじりと灼かれる放射熱で顔がヒリヒリしている気がする。
真夏みたいに周り全体が暑すぎて分かんないんだよ!
このまま魔力制御を手放したら酷い未来しか訪れないと本能的に感じて、遠くへ―――、いや、コレを森の中に落としたら拙い気がするから、頭上の木漏れ日に向かって思い切り“手”を伸ばす。
“恒星”が掠った枝葉がボッと炎に包まれる。
ヤバい。
山火事になるかも知れない。
“魔の森”の木が燃えにくいのは、この「合宿中」にも実証済みだけど、普通に燃えたじゃん!
あの“恒星”がどのぐらい危険かが未知数だから、魔力制御が出来なくなる距離まで延々と魔力の手を伸ばした。
「・・・あっ―――」
感覚で「魔力制御が途切れた」と認識した瞬間、炎上している枝葉が巨大な手で叩き落とされたかのように降り注ぎ、一瞬遅れて、「ズドオオオオオオオオオオン!!」と、脳が痺れて意識を持って行かれそうな爆音が上空から降ってきた。
2拍遅れたぐらいで猛烈な熱風が降り注ぎ、降ってきた枝葉が地表へと到達する前に暴風となって炎を噴き飛ばす。
反射的に頭を抱えて地面に伏せたのは、我ながらファインプレーだったと思う。
轟々と吹き荒ぶ乱流が収まってくると、舞い上げられていた土やら枯れ葉やらが雨のように降ってくる。
爆弾なんかの超スロー撮影動画を思い出した。
爆弾が炸裂すると、音よりも速い“衝撃波”が最初に観測場所へ到達して、続いて“音”が到達し、最後に“爆風”が到達する。
実体験したら、その通りだったよ。
頭の中で想像を始めてから実際に爆風が押し寄せるまで、一連のイメージが、鮮明に、脳裏に焼き付いている。
たぶん、問題無く、何度でも再現できる。
でも、コレ、500メートル離れただけじゃ、まだ危険じゃない?
「フィオレ様―――っ!!」
爆風に煽られたのか、地面を転がされたのか、枯れ葉と土に塗れたアリアナさんとオーリアちゃんが血相を変えて駆けてきて、さらに離れた場所に散っていたピーシーズが、わらわらと駆けつけてくる。
「大丈夫!? ケガは!?」
顔色を真っ青にしたオーリアちゃんに身体中をバシバシと叩かれ、全身に纏わり付いていた枝葉やら枯れ葉やら土やらがバラバラと落ちる。
酷く日焼けしたように顔や手はヒリヒリするけど、爆風に煽られた衝撃や全身を打った飛散物よりも、オーリアちゃんの打擲の方が痛い。
動転して力加減を忘れてるんだろうなあ。
たぶん、無意識に身体強化まで入ってるんじゃないだろうか。
「・・・だ、大丈夫。大丈夫だから」
「何、その顔色! 真っ赤になってるじゃない!」
「オーリア。落ち着きなさい」
大きなケガは無さそうだと判断したのか、安堵の溜息を吐いたアリアナさんが腰のポーチから小瓶を取り出して、オーリアちゃんの目の前でプラプラと振る。
「貸して!」
「・・・むぐっ」
引ったくるようにしてアリアナさんの手から小瓶を受け取ったオーリアちゃんが小瓶の栓を引き抜いて、私の口へと捻じ込んできた。
強烈な青臭さとエグ味と苦味が混然となって口の中と鼻の奥に広がる。
ああ、コレ、 回復薬(ポーション) だ。
久しぶりだなあ。
初めて会ったときにお母様が私の口に捻じ込んできたやつと同じ味がする。
胃が収縮してこみ上げる吐き気を我慢して嚥下すると、顔や手のヒリヒリがスッと引いていく。
何を原料に作られているのか知らないけど、相変わらず、驚異の即効性だよ。
「何が―――、いや。成功したのですね?」
「・・・成功?」
私も「何が?」と訊きそうになって周りを見回すと、ピーシーズが、あんぐりと口を開けて頭上を見上げている。
釣られて私も見上げると、頭上の枝葉が無くなっていて、ぽっかりと青空が覘いている。
おおよそ数十メートル範囲の巨木の上の方が枝葉を失って丸裸になっていて、黒く焼け焦げて薄く煙を立ち上らせている。
何が原因かと言えば、間違いなく、あの“恒星”だ。
「・・・そっか。山火事になると思って、上へ放り投げたんだった」
私のイメージした“恒星”のミニチュア版は現実世界に顕現して、紛れもなく“魔の森”の巨木を灼いた。
驚愕から現実へと戻って来たピーシーズのみんなが騒がしくなる。
「おめでとうございます!」
「凄いです! フィオレ様!」
「快挙ですよ!」
「・・・やった? ・・・私、やれたんだ?」
「ええ。アンリカ姉様たち世代の側近以来です」
目を細めたアリアナさんが、にっこりと笑う。
半ば、私の脳内で行われた妄想だという認識が有るから現実感が無かったけれど、私は“紅蓮”の修得に成功したらしい。
アンリカさんたち以来ってことは10年ぶりぐらいなのかな。
エゼリアさんたちも私の目標だから、一歩、近付けたことも嬉しい。
じわじわと実感が湧いてきて、みんなの顔がぼやけてくる。
胸が熱くなって、息が詰まる。
両手でギュッと魔石を握りしめる。
もう、何だか、じっとしていられなくて、その場でぴょんぴょんと跳びはねる。
「・・・・・やった・・・! 応えられた・・・!」
目標を達成したことよりも、お母様の期待を裏切らずに済んだことが何よりも嬉しい。
「やったわね! フィオレ!」
「凄いわ! フィオレ!」
「・・・よかったよおおおおおお!」
とんでもない大爆発音が聞こえて地響きが届いたらしいルナリアとテレサも、自分たちの練習場所から大急ぎで駆けつけて来て、涙と鼻水が止まらない私は、みんなに揉みくちゃにされた。
レティアの町へ帰ってから訊いたら、アリアナさんとオーリアちゃんのところまで、爆風というか、炎が押し寄せて、髪の毛先が焦げたらしい。
やっぱり危険だなあ。
私の髪もあちこち焦げていてトリミングされた。
安全な退避距離を検証しなきゃ危なくて使えないかも。
今はお母様が不在だから、お婆様に検証実験に立ち会って貰って実戦で使えるようにしなきゃ。
練習を続けてモノにしないと、使うべきときに使えない技術なんて無いのと同じだ。
お爺様たちや領軍の人たちを信じては居るけど、地球の戦史でも予想しない伏兵や別働隊に戦況をひっくり返された戦争は枚挙に暇がない。
敵の裏をかいて有利に事を進めるのが王道だと私は理解している。
スポーツじゃないんだから、卑怯上等、蹂躙万歳だよ。戦争なんて、一方的に勝つに限る。
でも、そう考えるのは敵も同じで、百戦錬磨のお爺様たちさえも謀る想定外の作戦を思い付く人は、どこにだって居るのだろうし、備えを怠る理由にはならない。
お母様が帰るまで、私たちがレティアの町と採掘場を守り抜くんだ。