作品タイトル不明
採掘場防衛戦 ⑤
「・・・“手”から離れた瞬間に落ちるんだよね。じゃあ、“手”を伸ばす?」
ビヨーン、と。
「投げる」と「伸ばす」の違いでプロセスは一つ。
攻撃目標が視認できる距離で有れば、「運搬」のタスクに集中力を割くリソース次第で距離は伸ばせる気がする。
「・・・おおっ、イケる?」
試しに、しゅるしゅると「核」を遠くへ運んでみれば、森の中の暗さに景色が溶けて見えなくなる辺りで「運搬」に使っていた魔力消費が止まって、「ズン!」という着弾音が聞こえてきた。
意外に魔力消費量も少なかったね。
よくよく考えてみれば、「核」を作るプロセスが終わった後に落下してクレーターを作るのだから、魔法で生み出した「核」が存在し続けて居るのは確実だ。
だとすれば、私が行っているタスクは「核」の完成と同時に「運搬」だけになっているわけだ。
何度も何度も「核」を生成していた慣れで、「核」の生成で消費している魔力量も減っている感覚が有る。
これは私のリソースに余裕が生まれている証拠なのでは?
どこまで遠くへ運べるものか、森から出て遠くを見渡せる広い場所で検証する必要が有るな。
―――、うん? 遠く?
「・・・遠くを見渡す。・・・俯瞰する?」
天球儀を思い出す。
天球儀とは、夜空の星座を「この辺に、こんな配置の星が有るよ~」と視覚的に示すためのもので、第三者視点で遠くから俯瞰的に見ている姿を疑似再現するものだ。
実際に内側から天球儀を見れば、星座は反転してるけどね。
実物大の宇宙空間から見れば三次元的な「奥行き」の要素を排除しては居るが、縮小表現しているとも言える。
「・・・そうだ。縮小」
コピー機で縮小するように、恒星を縮小するイメージだと、どうだろう?
質量をそのままに、3Dプリンターのように縮小モデルを擬似的に生み出すことは出来ないだろうか。
魔法は想像力だから完全に物理法則に囚われるわけではない。
生み出した「モノ」が本物で有る必要も無い。
擬似的な「モノ」が本物に届くとも思わないし、本物の核融合を起こされても困る。
「重力」を模しているだけで生み出した水素が圧力で加熱し発火すれば事足りる。
本物の核反応に至っていない状態でも圧縮されて燃焼している水素が「重力の消失」で開放されれば一気に膨張―――、爆発が起こるのでは無いだろうか。
疑似再現された重力を消失させるのは簡単だ。
魔力の供給を止めるだけで重力は消失する。
論理(ロジック) は間違っていないはずだし、私自身の深層心理が納得していればファンタジーパワーが齟齬を埋めてくれるはず。
試されるのは、壮大な宇宙スケールの質量を具体的にイメージ出来るかどうかの、私の想像力だ。
大きく深呼吸を繰り返して心を落ち着ける。
目を閉じて、スッと魔石を握った右手を掲げる。
「・・・イメージしろ」
日本に溢れていた特撮SF映画やアニメの映像を見慣れている私には、宇宙空間のイメージは簡単にできる。
なんたって、“SF”とは“スペースファンタジー”の略語で、宇宙そのものをイメージさせるための創作物だからね。
アメリカ人が作った往年の特撮SF映画の冒頭シーンを出来るだけ鮮明に思い浮かべるだけで良い。
開拓精神(フロンティアスピリット) が大好きなアメリカ人の 未開拓領域(うちゅう) を描き出そうとする執念は見事なもので、宇宙に全く興味が無かった門外漢の私でも脳裏に思い描けるほどリアルさを感じさせる疑似映像を、あらゆる技術を駆使して創り出していた。
あのリアルさの 要点(キモ) は「立体感」なのだろう。
二次元の平面では無く三次元の「空間」で認識させていた。
だから、私も「空間」でイメージする。
数え切れない全方位の星空―――、宇宙空間に私は浮いている。
私の視線の先には、煌々と輝き燃える、恒星がある。
私の意識が恒星を認識した瞬間、魔力の消費が始まった。
私の傍を巨大な隕石―――、小惑星が音も無く通り過ぎていく。
恒星の「重力」に捕まった小惑星は軌道を変え、恒星の表面へと吸い寄せられていく。
山よりも大きな小惑星が恒星に近付くと、そのスケールの違いは明らかだ。
恒星の大きさに較べて小惑星の大きさは、パソコンの画面上に1点だけ置かれた“ドット”のようなものだ。
ああ、あの恒星は間違いなく「重い」。
恒星が発するプラズマガスに灼かれた小惑星が赤熱して 朱(あか) い炎の尾を引き、恒星の表面に落下してポッと末期の炎を上げる。
恒星の姿を脳裏に焼き付けてイメージの中の私も瞼を閉じる。
他の星が無い真っ暗な「空間」に、たった一つだけ白く輝く巨大な恒星を、俯瞰するように、小さく、小さく縮小する。
燃えているのは水素だ。
手の中に掌握している魔石の魔力がどんどん吸い取られている感覚がある。
しばらくして魔力の消費量が緩やかになったのは「核」の生成が終わったからか。
生成が終わっても魔力消費が止まらないのは、「水素を生成」し続けているせいだろう。
魔力を吸われるに任せて、魔力の手で「恒星を掴む」。
“手”の中に膨大な質量を知覚する。
“魔力の手”は感覚的なものだから、“手”そのものは見えなくて良い。
右へ、左へ、上へ、下へ、恒星を動かしてみたら、マウスの動きに同期してカーソルが動くように、スルスルと動く。
コイツ、動くぞ!?
イケたかな?
閉じた瞼の下からでも明るい光を感じて、イメージの中の私と現実世界の私は同時に瞼を開く。