作品タイトル不明
採掘場防衛戦 ④
「どこから攻撃を受けたか分かりますか!?」
「・・・いや、アレ。たぶん、私の仕業・・・だと思う」
真面目な二人を慌てさせてしまってバツが悪い。
危険だったり驚かせるのが分かっていれば事前に伝えるようにはしているのだけど、今のは、考えに没頭していて護衛をしてくれているみんなに注意喚起するのを怠った。
何が起こるか分からないのに、もしも、ピーシーズの誰かが巻き込まれたら、大変な事故になったかも知れない。
「え? フィオレ様の?」
「術式の失敗ですか?」
「・・・たぶん、そう。ごめんなさい。新しく思い付いたことを試そうとしたんだけど、先に言うべきだった」
そりゃ、そうだよね。
私は“紅蓮”の修得に取り組んで居たのであって、それが、何で木の根っこが地面を突き破ってコンニチワする結果になるのか、私も意味が分からない。
目を丸くした二人に頭を下げると、表情を緩めて首を振ってくれる。
剣を鞘に収めたアリアナさんが事件現場の確認に向かったので、アリアナさんの背中を追う。
事件現場は、なかなかに酷い有り様だった。
「すごく重たい物質」の直撃を受けた根っこが沈み込んだせいで、根っこに引き込まれた地面が数メートル範囲で50センチメートルほど陥没し、逆に、直撃ヶ所よりも末端側の根っこはテコの原理で持ち上がって地表を突き破っている。
下から根っこにブチ抜かれた地面は被っていた土が撥ね除けられて、数メートルに渡って深い溝が出来ている。見たことの無い光景に、二人が呆れた顔を向けてきた。
「何やったんですか?」
「・・・すごく重たい物質を作ったんだよ。次の段階に移る前に魔石の魔力が切れたから失敗―――、いや。魔力切れを起こさず、そのまま続けていても失敗だったかな」
何で、そんなものを? って顔はしているけど、試行錯誤中の私が、よく分からない行動をするのは、よく有ることなので、二人とも首を傾げただけで「何で?」とは訊いてこなかった。
詳しく訊かれると地球の知識に関わる説明が必要になるかも知れないので、私もそれ以上は説明しない。
地表を覆う腐葉土の下は、数十年、数百年も、その場に在って巨木を支えていた地面が固く締まっていて、さらには、“魔の森”の木々は濃密に満ちた森の魔力のせいか、木そのものが非常に硬い。
樹高30メートルを超える巨木を支える根っこともなれば、私の胴体よりも太いのが普通で、ぶっとい巨木の根っこを一瞬でへし折るぐらいに「すごく重たい物質」の生成には成功していたのは分かる。
生成された物質の体積と質量の異常なアンバランスさを思えば、きっと「何だか分からない暗黒物質」なのだろう。
しかし、これでは足りない。
私が目指したのは「重力を発生させるほど重い物質」の生成で、この程度の「重さ」では足りなかったのは明白だ。
なぜなら、「重力が発生していなかった」のだから。
「これで“失敗”なのですね。攻城兵器として使えそうな破壊力ですが」
「・・・ああ。それはそれで“有り”かも」
脳筋度が高いアリアナさんは思考が軍事に直結しやすいからね。
その使い方は思い付かなかったな。
敵の城壁の上空に生成して落とすだけでも城壁が壊せるかも。
「点」の攻撃だと貫通するだけで終わるかも知れないから、棒状か板状か、「線」か「面」かで形状を工夫すれば、爆風無しの攻城兵器には、なりそうだよね。
もっとも、距離があるだろうから「敵の城壁の上空に生成する」のが難しいんだけれども。
爆風と炎による敵兵掃討が伴わない魔法に価値が有るのか? という根本的な問題も有る。
空になった魔石を捨てて、腰のポーチから新しい魔石を取り出す。
「・・・その辺の検証は、お母様が帰ってきてからにしよう」
「まだ続けるのですね?」
「・・・うん。もうちょっと、やる」
万が一が有っては怖いから、同じ「すごく重たい物質」―――、「核」を今よりも遠くに作る練習に切り替える。
今のままでは重力は発生していないし爆発もしないけれど、魔力制御が出来ない距離に離れた途端、「核」は落下して地面にめり込むのだから、投擲する練習もしておかないと、「核」を“紅蓮”に出来たとしても私の目の前で爆発することになる。
今さらだけど、“紅蓮”にもなっていない炎球の暴発で私のお尻は四つに割れそうになったのだから、「投擲」のプロセスは先に感覚を掴んでおくべきだった。
お母様が“白焔”を投げていた姿を思い出しつつ、伸ばした魔力を手のひらの延長に見立てて投擲してみる。
今、行っているタスクは「核を作る」・「魔力で掴む」の2つだから、魔力制御に余裕が有る。
投石は人類最古の原始的な攻撃方法で、私の狩猟の原点でも有るから投擲には自信が有るよ。
鳩サイズの野鳥なら小石の投擲で獲れるのだから上達もしようと言うものだ。
そんな私が投げるのだから「核」の投擲ぐらい―――。
「ズン!」と地響きを起こして新しい陥没痕が地面に刻まれる。
魔力の手のひらから「核」が離れて魔力制御を手放した直後の場所に。
「・・・・・む」
も、もう一回。
「ズン!」と地響きが足の裏に届く。
「ズン!」、「ズン!」、「ズン!」。
「・・・くっそう」
何度やっても飛距離が伸びない。
これは「投げる」のではなく、「落とした」状態だな。
10メートル先の地面を小さなクレーターだらけにした時点で、とうとう私も諦めた。
直径数十センチメートル程度の小さなクレーターだけど、そのクレーターの底には、爪楊枝で刺したような小さな小さな穴が開いていて、芥子粒ほどの「核」が地面を貫通した結果の弾痕なのだと確認できた。
これは、きっと、砲丸投げで遠くに投げられないのと同じだ。
魔力の手のひらという支えを失った瞬間、「核」は自然の重力に導かれて、当たり前に自由落下する。
小石やボールを投げるならリリースポイント―――、射出角を調整することで、ある程度の弾道軌道を調整することが出来るのだけど、自由落下しようとするベクトルを弾道軌道に乗せようとするならば、質量を大きく上回る射出力が必要になる。
それをテコの原理を利用して実現したのが、投石する腕の動きをそのまま形にした、紀元前から使われていた 投石機(カタパルト) だ。
一抱えほどの石を投げるカタパルトでも一軒家ほどの大きさが必要だったのだから、要求される「質量を大きく上回る射出力」がどれほど大きな力だったかが良く分かる。
航空母艦で使われている、 射出機(カタパルト) でも投射可能な重量は数十トンじゃなかったかな。
しかも、射出機の目的は射出体の距離を飛ばすことでは無く、航空機の離陸速度まで速度を上げるのが目的だ。
航空機は翼に風を受けての流体力学による揚力の発生で、速度に反比例して揚力が増大して自重が軽くなるからね。
自由落下速度よりも揚力が上回った状態が「飛行」だ。
射出機を模しても、お母様の“白焔”のように500メートル先まで、めちゃくちゃ重たい「核」を投射できるとは思えない。
射出機の他に「射出」するものと言えば、何が有るだろう。
ミサイル?
英語直訳そのものの 飛翔体(ミサイル) ではなく、兵器としてのミサイルね。
最大のミサイルと言えば 大陸間弾道ミサイル(I C B M) だけど、宇宙ロケットと同じで20トンぐらいしか運べないと何かの本で読んだ。
発射の度にインターネット中継される宇宙ロケットも巨体の割に運べる重量は意外と少ないものだと、感想を持った記憶がある。
ミサイルも宇宙ロケットも同じ技術を使った「運搬装置」なんだよ。
両者の違いは「目的」だけ。
根本的な部分で方向性が違う気がするなあ。
一度、頭の中をリセットした方が良さそうだ。
腕組みしてトントンと指先でこめかみを叩く。
何か出て来い。
何か良いアイデアは無い?
クレーターで凸凹になった地面へと目を遣る。