作品タイトル不明
採掘場防衛戦 ①
目の高さの少し上に掲げた魔石の先、10メートルほどの空中に、朱に輝く炎球が浮いている。
そう、「炎の球」だ。
魔力を多く注ぎ込むことで温度を上げることには成功しているように見えるが、指定した球状の範囲内に炎が纏まりきらず、漏れ出した炎が生き物のように畝って細く噴き出しては球体に吸い寄せられて戻り、小さな太陽からプラズマガスが噴き上げているようにも見える。
熱源体から立ち上る陽炎は光の屈折の物理法則からすれば当然なのだが、魔力制御の「穴」から炎が漏れている時点で満足が行くような結果では無い。
その場の中空に浮かせいているだけなのだが、風ジェットカッター魔法と違って手元から距離が離れているので魔力が繋がっているのかどうかも感覚を掴むのが難しく、細かな制御が出来ていない。
ピッチャーのオーバースローを模して試しに炎球を投げてみようと考えたら、最初は作り出した場所から炎球が動いてくれず、投げる動きに合わせて炎球が動くようにイメージしたら、今度は、空間指定の制御を手放した瞬間に炎球が崩壊して爆発する。
爆風に煽られた枯れ葉や土砂が頭の上から降り注ぎ、土塗れ枯れ葉塗れになった回数は、3桁に乗った時点で、もう数えるのを止めた。
お母様から「“紅蓮”修得命令」が届いて今日で5日目。
魔石の魔力を利用していても体内の魔力を消耗しているのが自覚できるぐらいなのだから、魔石を使えて居なければ試行錯誤の余裕すら無かっただろう。
「・・・むむ・・・む。―――ぅわっ!」
「ドオオオオーン!」と、土混じりの熱風が押し寄せて、目を瞑るのには成功したものの、避けたり伏せたりする余裕も無く、顔面の真っ正面からバチバチと受け止める。
爆風に煽られて体勢を崩し、思いっきり尻餅をついた。
訓練場の踏み固められた地面よりは柔らかいけど、閉じた瞼の内側に星が飛ぶ程度には強烈な衝撃が体の芯を駆け抜けて、魔石を放り出した両手でお尻を抱えて悶絶する。
「・・・あっ・・・うううう・・・!」
「大丈夫ですか!? フィオレ様!」
「・・・だ、だい・・・、じょ、ううう・・・」
背骨から脳天まで突き抜けるような痛みが引かないお尻を左手で押さえつつ、腐葉土の地面におでこを擦り付けて立てないまま、駆け寄ってきたアリアナさんとオーリアちゃんを右手で制止する。
ここ数日、私が朝から晩まで黙々と“紅蓮”を物にしようと試行錯誤―――、四苦八苦しているのを、最初は興味深そうに、続いて心配そうに、最後には呆れた目差しで見守りつつ、ピーシーズが交代で護衛してくれている。
今日の私に付いてくれているピーシーズは、アリアナさんとオーリアちゃんとマーミナさんとマーリカさんの4人。
テレサとルナリアも採掘場へ一緒に泊まり込んでいるけど、何日間も爆発系の魔法を練習している私の傍で集まっていると危険だという理由で、お婆様の指示でテレサとルナリアと私の3人を中心とした3グループに分かれて採掘場周辺の森に分散し、それぞれが目標とする魔法や武術の修得に取り組んでいる。
昔のお母様たちも、こうしていたらしい。
とはいえ、採掘場からも少し離れたこんな森の奥では私たちの誰かに用がある領軍関係者か狩猟関係者しか来ないし、敵が来るとしても、お爺様たちの予測ではまだ数日は先になるだろうということで、魔獣の出没に警戒しながら、護衛役のピーシーズも、彼女たちは彼女たちの訓練に勤しんでいる。
そんなわけで、悶絶する私の傍へ直ぐに駆けつけて来たのはアリアナさんとオーリアちゃんの2人だ。
離れた場所に居たらしいマーミナさんとマーリカさんが駆けてくる姿も視界に入ったけど、強烈な痛みに苛まれている私に、しっかりと確認する余裕なんて無い。
言葉にならない痛みで転げ回るなんて、施設へ収容された後の中学生時代にタンスの角に足の小指を思い切りぶつけて爪がぺろりと剥がれたとき以来ではないだろうか。
あの時は狩猟が出来なくても一応は食べることだけは出来ていたし、野生児だった小学生時代にケガしていたら命に関わったと感謝したものだ。
あの頃に較べれば今の私は恵まれた環境を与えて貰っているのだから、お尻の痛みなんかに負けていられない。
魔法の修行はお母様たちへの恩返しのためであり、私自身の生存競争なのだ。
「・・・くっそぉおおお・・・」
まだジンジンするけど、痛みが引いてきたので身を起こす。
地面に転がっている魔石を握って立ち上がる。
また制御しきれなかった。
今のは、どうなった?
くらくらする頭で記憶を掘り起こす。
空中にイメージした球形の空間に「熱」を押し込めていくと赤熱して魔力は「炎」の形を取る。
“火球”の魔法を使えるみんなから聞き取ったら「炎を集めて固める」イメージらしい。
「炎」とは「燃焼」の一形態で、可燃性ガスが化学反応を起こして熱や光を発する。
空気中の酸素と可燃性ガスが結合し化学反応を起こすことから「燃焼」を「酸化」と言い換えることもある。
正しくは「酸化還元反応」だったかな。
この酸化反応は主に空気中の酸素を使用するが、酸素に代わる酸化物と可燃性ガスを結合させることで、空気が無い空間―――、例えば宇宙空間でもロケットエンジンのように「燃焼」させることができる。
私の「空中にイメージした球形の閉鎖空間」でも、魔力を可燃性ガスと酸化物の両方に見立ててイメージすれば、「閉鎖空間」内で燃焼させ続けることは可能なのだ。
なぜ「閉鎖空間」なのか?
「閉鎖空間」で無ければ「圧縮」が出来ないからだよ。
「圧縮」しないと、“紅蓮”や“白焔”の破壊力も根源たる爆発が起きないしね。
魔法が万能なら「“爆発する炎”が有れば、それを集めて固めるだけで済むから簡単じゃない?」と考えたのだけど、炎は単なる炎のままで、炎自体が都合よく爆発してくれることは無かった。
腕組みして考える。
考え事を始めると周りの声も耳に入らない私の様子にはピーシーズも馴れたもので、危険が及ばない距離へと離れていく。
私の想像力が足りないのか、それとも、そういうところは物理法則に準拠するのかは分からないけど、 狡(ずる) が出来ないなら物理法則に則って考えるしか無い。
爆発とは「圧力」の開放だ。「圧力」を上げるために閉鎖空間に魔力を詰め込んで「圧縮」する。
逆に「閉鎖空間」だと燃焼に必要な酸素を供給できないから「物理的に燃えてくれない」。
私のイメージの中では、閉鎖空間に「可燃性ガスと酸化物の両方に見立てた魔力」をギュウギュウと詰め込んで燃焼させる、というものだったのだけど、こうも何度も制御に失敗するとなると、根底から考え方を変えた方が良いのかも。