作品タイトル不明
社交界の首領・叔母様襲来 ⑲ ※アンサンブルキャスト面
2歩下がったフレイアが右手の緩く湾曲した剣の切っ先を真上まで上げ、柄尻に左手を添える。
籠められた魔力で刀身に彫り込まれた古代文字に光が走り、魔法道具に神経を集中したフレイアが両腕を振り下ろす。
ヒュッと風切り音を響かせた切っ先は空振りしたように見えたが、一瞬の間を置いて、ピシリと魔法道具に 罅(ヒビ) が入る。
ほう、と感嘆の息を吐いた騎士を一顧だにせず、剣を鞘に収めたフレイアは再び片膝を突いて少女の首元に手を伸ばす。
環の内側に両手の指先を入れて、グッと力を入れるが、罅の隙間が僅かに広がっただけで、それ以上は動かない。
ピクリと片眉を上げたフレイアは立ち上がって場所を譲った。
「ディアナ。頼む」
「はーい」
フレイアと入れ替わったディアナが少女の前に片膝を突いて、フレイアと同じように輪の内側に指先を入れた。
“奴隷環”という魔法道具は、嵌められた被使用者を従わせるために、“所有者”が道具に刻まれた魔力回路を発動させると、被使用者に激痛を与える機能が有る。
また、被使用者の魔力を吸い上げて作動し続けて魔力枯渇状態を与え続け、設定された手順で停止させない限り、無理に外そうとすると、被使用者本人から吸い上げた魔力を使用して被使用者が命を落としかねないほどの苦痛を与える。
だが、フレイアの一閃でこの魔法道具の回路は破壊されていて、無理に外しても魔法道具が発動することは無い。
ここで有用性を発揮するのはディアナの筋肉だ。
「ふんっ!」
両腕から背筋への筋肉に身体強化術式を発動したディアナが気合いの鼻息を落とした瞬間、パカンと間の抜けた音を立てて魔法道具が真っ二つになった。
「筋肉は全てを解決する」とでも言いたいのだろう。
得意げに手の中の壊れた魔法道具を誇示するディアナの肩を、フレイアが軽く叩いて賞賛を表す。
『もう良いぞ。もう大丈夫だ』
『・・・にゃ』
再び片膝を突いたフレイアが少女の頭を撫で、ペタペタと自分の首元を触って魔法道具が無くなっていることに気付いた少女は、パタパタと耳を動かした。
くりくりとした金色の目でフレイアの顔を見上げると、少女のおなかがクーッと鳴った。
フッと口元を緩めたフレイアは腰のポーチから一切れの肉片を取り出して少女の目の前に翳す。
『食うか?』
『・・・にゃ』
フレイアの手から干し肉を受け取った少女は、フレイアの顔色を窺いながら、おずおずと干し肉に齧り付く。
ゆっくりと噛みしめて食べているように見えて、なかなかに食べ終わるのが早い。
目を細めて見ていたフレイアが少女の頭をぐりぐりと撫でる。
『美味いか?』
『にゃ』
『この干し肉はフィオレが作ったものだ。私の娘でな。干し肉を作るのが上手い』
『ふぃお、れ?』
『そうだ。お前の名前は?』
『のーあ』
『ノーアか。―――じゃあ、ノーア。洗って貰って来い。終わったら、また食わせてやる』
『にゃ?』
どの部分の意味が分からなかったのか、キョトンとしたノーアが首を傾げる。
そわそわとフレイアたちを取り囲んで見ていたディーナたちへ、フレイアが顔を振り向ける。
「良いぞ」
「「「「はっ!」」」」
戦闘中でも滅多に見せない気合いが入った良い返事を返して、ディーナたちがノーアに襲い掛かる。
たまたま立っていた立ち位置的に、ガッシリとノーアの手足を掴んだのは、ディアナ・トリア・エレーナ・ノイエラの4人だ。
『ふにゃああああああああ!』
両手両足を掴まれて大の字で宙に持ち上げられたノーアは、尾を引く悲鳴を上げながら側近たちが使っている天幕へと運ばれて行った。
戦場での鬱憤を晴らすために、入れ替わり立ち替わり、隅々まで洗浄されることだろう。
側近たちの気が済むまで洗浄されるまでノーアが解放されることは無い。
フレイアの側近たちは弟妹を持つ者が殆どで、総じて世話好きだ。
かわいい幼女の世話など大好物である。
幸いにも、昨日、戦闘を終えたばかりなので、今日は出撃予定時間が遅めに設定されていて、時間はたっぷりと有る。
うきうきとした足取りで他の側近たちも天幕へと向かう。
戦場に娯楽となる 玩具(もの) は少ないのだ。