軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

社交界の首領・叔母様襲来 ⑱ ※アンサンブルキャスト面

「奴隷だと?」

不機嫌を絵に描いたような声色でも、昨日までのような心が死んだ声よりはマシで、エゼリアは胸を撫で下ろす。

ハロルドが慰めた甲斐有ってか昨晩はまともに眠れたようで、フレイアの目の下の隈は薄くなっている。

砂埃に塗れすぎたせいで艶を失った髪はガサガサだが、念入りに梳かしたお陰で少しはマシに纏まってくれた。

男性のように髪油で撫で付ける手も有るのだが、フレイアは―――、と言うより、ウォーレス領の女性は髪油を好まない。

植物性の髪油も輸入品の中には有るのだが、ウォーレス領で一般的な髪油は獣脂を原料に作られているので、単純に獣臭いのだ。獣と言えば―――。

「 猫人族(びょうじんぞく) ―――、いや、 豹人族(ひょうじんぞく) か。珍しいな」

知らない大人たちに囲まれて怯えた目でペタリと濃茶色の耳を伏せているのは、フィオレやルナリアよりも幼い少女だ。

頭頂部に伏せた耳の裏の毛の斑点を見て、猫系の耳の特徴から、フレイアが少女の種族に 中(あた) りを付ける。

特務魔法術師という職務の性質から、違法な奴隷が発見された場合には必ずフレイアへ報告が上がる。

しかし、口頭あるいは書類で上がった報告に対してフレイアの指示が有れば奴隷本人との面接を行うのが通常で、報告の場に奴隷本人を連れてくることは無い。

フレイアの傍に仕えて長いエゼリアたちが、そんな手順を間違うことなど無く、精神に疲れを感じているフレイアへの気遣いであろうことは、フレイアにもすぐに分かった。

フレイアの元へ少女が連れてこられた経緯を目線で問うと、少女を連れて来た騎士がエゼリアに促されて緊張した面持ちで口を開く。

騎士団による掃討戦後の敵本拠地捜索で、今朝早くに見つかった商家の地下室に、奴隷環を嵌められた数人の少女たちが押し込められているのを発見したそうだ。

値打ちが有る家財だけを馬車に押し込んで逃げ出そうとしていた商家の主人を捕らえて尋問したところ、ほぼ全員が領内や近領で攫われた娘たちだったが、ただ一人、この少女だけが、他領―――、それも、遠く、西方諸国から売られてきた“商品”だと吐いたらしい。

眉尻を下げて恐縮している騎士の話では、他の少女たちは出身の村や町の名前を覚えており、出身地の所在を把握している駐留部隊が家へ送り届けることが出来るのだが、最も幼いこの少女だけは、自分の出身地はおろか親の名前すらも覚えて居らず、扱いに困り果てて連れて来たのだと言う。

国外事情にも詳しい特務魔法術師の下へ連れて来た判断は間違っていない。

「西方諸国と言えば神教会の影響範囲です。獣人族に対する迫害は騎士団でも把握しておりますし、友好国を通じて送り返しても、この子の安全が保障されるとは考え辛く・・・」

「ふむ・・・」

特務魔法術師に任せたいとする騎士団の言い分は理解できる。

そして、まだ独身であろう若い騎士たちに幼子の世話は荷が重いのだろう。

少女の前へ片膝を突いたフレイアが、少女の顎先に指で触れて、クイッと顎を上げさせる。

顕わになった少女の細い首に嵌められているのは使い込まれた質感の魔法道具だ。

ゴツい金属製の環を忌々しげに睨み付けたフレイアが、騎士へと視線を移す。

姿勢の良い騎士の背筋が、さらにピシリと伸びる。

「なぜ、外してやらない?」

「それが・・・、仕入れた時点で、すでに嵌められていた物らしく、所有者変更の術式は説明書きが添えられていたものの外し方は分からないと供述しておりまして・・・。さらには、この娘は西方の公用語しか分からない様子で、騎士団では対応できかねるのです」

「なるほどな」

騎士の報告を聞いたフレイアは納得を見せて頷いた。

大陸全土で使われている「記述」は統一されて万国共通文字だが、「口述」は統一前の地域言語を「記述」に当て嵌めたもので、大陸西部と大陸東部では大きく異なる。

人類生息圏の東端に有るリテルダニア王国においては大陸西部の言語を話せる者が少ない。

ここまで幼い子供だと筆談も出来まい。

『おい。このまま動くなよ? 動くと痛いぞ』

『・・・にゃ』

少女へと目を戻したフレイアは、顎を上げて喉を晒したままの少女に西方諸国の公用語で話しかける。

知っている言葉で話し掛けられた少女が小さな声で返事をする。

立ち上がったフレイアは、すらりと腰の剣を抜いた。

力無く垂れた尻尾が怯えて丸まり、少女はギュッと目を瞑る。