作品タイトル不明
社交界の首領・叔母様襲来 ⑰ ※アンサンブルキャスト面
「それなら、多少は負担を軽減できるか・・・」
新たな伝令が天幕の外から掛けてきた声に、ハウマンと話しているハロルドに代わって護衛の騎士が天幕から出て行った。
天幕の下に他の者が居なくなったのを確認したハウマンが、表情を緩めてハロルドの肩を叩く。
「最後まで、おんぶに抱っこでは、騎士団の面目も立たぬのでな」
「ありがとうございます。ピーシス隊は城壁突破に注力させましょう」
ハウマンの気遣いに気付いたハロルドが頭を下げる。
ハロルドは領地貴族の現・領主で、ハウマンは王都騎士団の幹部とはいえ、立場はハロルドの方が上位だ。
軽々しく頭を下げるわけには行かないし、戦場で領主が弱気を見せれば領軍全体の士気に関わる。
相手によって口調から気を付ける必要が有るのだから、本当に疲れる。
「兵の目まで気にせねばならんとは、領主というのも不自由なものだな。ハロルド」
「代わってくれますか? 隊長」
「勘弁してくれ。御免被るよ」
部下に呼ばれて天幕を後にしたハウマンに続いて、ハロルドも本陣の天幕を出た。
気を使って天幕の外で警戒に当たっていた護衛騎士に声を掛ける。
「ピーシス隊は、どこに居る?」
「ご案内します」
幾らか表情が解れたハロルドに、護衛騎士はニコリと口元を緩めた。
本陣の周りに駐屯しているウォーレス領軍の端に、戦闘を終えて休息中のピーシス領軍が 屯(たむろ) している。
ハロルドの姿に気付いたマキアナが無言のまま立ち上がって先導する。
疲れが見えるマキアナの背中に付いて少し歩くと、人気が無い草原を見渡せる一角に露出した岩の上で、座り込んだフレイアが、黙々と剣の手入れをしていた。
血に塗れた衣服は着替えているが、髪の一部に返り血の色が残っている。
サクサクと草を踏んで岩に近付くとマキアナが足を止め、ハロルドはマキアナを追い抜く。
少し離れた場所で弓を携えたイディアが警戒に当たっていて、フレイアを刺激しないためか余人を近付けないようにしていたようだ。
「フレイア」
「何だ?」
ハロルドの声に普段通りの口調で返しては来るが、ハロルドを見ず、視線を合わせようとしないフレイアの声に、抑揚は無い。
「アムシェリー領の本拠地攻略だが、ピーシス隊は城壁突破だけで良い」
「何だと?」
小さく嘆息したハロルドが作戦の方向性を告げ、フレイアが感情の乏しい目で睨んでくる。
怒りの発露すら希薄とは、相当に重症だ。
まともに眠れていないのか、整った白皙に疲弊を示す隈まで貼り付いている。
フレイアに、こんな顔をさせなくてはいけないとは、戦場など本当に糞食らえだ。
ハロルドは出来る限り穏やかな声を心掛ける。
「騎士団からの要請だ。最後の華ぐらいは持たせてくれと」
「嘘を吐け。私たちの負担軽減だろう」
「分かっているなら、これ以上、無理をするな。君一人で戦っているのでは無いのだぞ」
「分かっている。・・・分かっているさ」
一瞬、視線を泳がせたフレイアは俯いて、剣を握っていない方の手のひらで目元を覆う。
「君は十分に戦った。後は私たちに任せてくれ」
「駄目だ。お前が死んだら、私はルナリアに顔向け出来ん」
「君が死んだら、私がフィオレに顔向けできないのだが?」
「―――!」
ビクリと肩を震わせたフレイアが動きを止めた。
のろのろと目元から離した手が細かく震えている。
堪らなくなったハロルドは、岩の上に上がってフレイアの傍へと膝を突く。
自分の手のひらを見つめたまま動かないフレイアの髪を撫で、そっと頭を胸に抱き寄せる。
「前へ出るなとは言わない。城壁の破壊は我々では出来ないからな。だが、突入は私たちに任せてくれ」
「ハロルド・・・・・。ルナリアに会いたい・・・。フィオレの顔が見たい・・・」
「次で最後だ。次が終わったら、レティアへ帰ろう。だから、君が死ぬことだけは、絶対に駄目だ」
鼻声のフレイアを抱く腕に、少しだけ力を入れる。
「・・・・・分かった」
「頼むから、無事で居てくれ」
暫くして了承を返したフレイアの髪にハロルドは軽いキスを落とした。