軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

社交界の首領・叔母様襲来 ⑤ ※ミリア面

政治的な意味と父様の心情を両立するために、私は故郷であるウォーレス領に、夫のアレイオスと息子たちを伴って帰って来た。

姉様が後継と定めた以上、国内外の王侯貴族がフィオレに群がるのは確実だし、初代レティア卿から連なるウォーレス家系の血を絶やさないことを願う父様の気持ちも優先してあげたい。

ならば、最善の手は私の息子をピーシス家へ婿として戻すことだ。

そう考えて急いで帰ってきてみれば、当のフィオレは毎日のように“魔の森”で入り浸っているという。

森で会ったフィオレは、情報に有った通り、僅かに青みがかった見事な銀髪に整った白皙の、等身大の高級人形のようにも見える少女だった。

飾り気の無いシャツと乗馬パンツに長い髪を首の後ろで一つに纏め、姉様のような格好をしていた。

一見、表情が乏しいように見えて、実に表情豊かな娘で、数年後には確実に美しく育つことだろう。

熟慮して言葉を選ぶような特徴的な話し方をするが、5歳児とは思えないほどに理知的な娘だ。

ルナリアにも姫殿下にも懐かれているようで、それでいて、戦闘力で人間を測る嫌いが有るピーシス領の娘たちを、しっかりと従えていることには少し驚いた。

馬車の扉が開くと、先ほどのように私が勝手に降りてしまうと思ったのか、アレイオスが先に降りて手を差し伸べてくれる。

アレイオスの手を取った私は、 踏み台(ステップ) を踏んで地面へ降りる。

愛してるわよ、私の旦那様。

騎馬で馬車を先導していたフィオレたちは既に下馬して手綱を側近に預けており、馬車の前で待っている。

ここが噂の採掘場か。

ぐるりと周囲を取り囲む丸太材の防御壁の高さは20メテルを越えるほどで、よくもまあ、2週間程度で建設できたものだと呆れる規模だった。

防御壁の高さもさることながら、使われている建材が“魔の森”の巨木をそのまま使った物なのだ。

非常に硬く燃えにくい“魔の森”の木材ともなれば、下手な石材製城壁よりも堅固な可能性が有る。

積まれたままの建材が幾つもの山を作っていて、この建材だけでも市場に出回れば一財産だ。

崖に貼り付いて鉱山の入口を囲っている建物や兵舎のようなものまで建てられている。

使われている丸太材の数は数百本は下らないだろう。

これだけの木材を短期間に伐り出したことだけでも驚異的なのだけれど、母・シェリアからの手紙による情報では、戦が終わって落ち着いたら石材製の砦に建て替える計画なのだそうで、勿体ないというか、このままでも十分なのでは無いかと考えてしまう。

まあ、本来、木材の乾燥は年単位の時間を置くものなんだけれどね。

採掘場や建築中の建物から、わらわらと人が集まってくる。

帰ったはずのフィオレたちが領外からの客を連れて戻って来たことに慌てている領軍の兵士たちは、私の顔を覚えていた様子で落ち着きを取り戻す。

フィオレが工作兵たちを手のひらで指す。

「・・・ここが採掘場です。鉱山自体の説明は、私では無く技師から聞いていただければ」

「ありがとう。そうしよう」

ニコリと笑ったアレイオスがフィオレに頷いて返す。

作業部隊を代表して前へ出て来た年かさの工作兵が、アレイオスではなく私に向かって頭を下げる。

「ご無沙汰しております。ミリア様」

「お邪魔するわよ」

「は。しかし、ご領主代行閣下の許可は―――」

「得ているわよ。許可者は領主代行のハインズ様ではなく領主のハロルド兄様だけれど。体裁としては、建白書に基づいての王宮からの視察、ということになっているのだけれど、仕事で来たのは王宮から派遣された文官のファーレンガルド侯爵で、私は単に息子たちを連れての里帰りね。西部戦線の戦略に関わる視察だから協力してあげて頂戴」

「そうでございましたか」

工作兵が頷くと、集まってきていた兵士たちが私に一礼を残して作業へと戻って行く。

作戦立案者のフィオレも採掘場視察の意図を察して小さく頷いている。

塩が逼迫している領地との供給交渉を兄様から押し付けられたアレイオスにとって、供給可能量の把握は必須の仕事なのだ。

陛下から委任を受けたのも本当だから、開示する情報は十分なはず。

正確には、私が工作兵に告げた目的は半分で、残りの半分は彼らには直接の関係が無い目的だから彼らには告げない。

私はウォーレス領を出た身だから、領軍としては、よく見知っている相手だったとしても、しっかりと警戒態勢を取っておくべきで、事実、その通りにしていたらしい。

実にウォーレス領らしい反応で、変わらない故郷の姿に自然と笑みが漏れる。

工作兵の隣りに歩み出たルナリアが胸を張る。

「わたしが案内するわ! 詳しい説明はお願いね!」

「承知しました」

中途半端なルナリアの申し出に、本来ならお説教しなければいけないのだけれど、まだ5歳の子供が言うことなので、微笑ましげに目を細めた工作兵が承諾する。

「私もお付き合いしますわ」

「お願いしましょう。殿下、ルナリア嬢も、よろしく頼むよ」

勝手知りたる採掘場なので、テレサ様も申し出、アレイオスが優しい笑みを零す。

ルナリアたちの先導で移動を始めた一団に続こうとするフィオレの肩を軽く叩く。

足を止めたフィオレが首を傾げる。

「・・・あの。ミリア叔母様は見られないのですか?」

「成果や今後の見通しに興味は有っても、私は技術や鉱山そのものには興味が無いもの。採れた岩塩ならレティアで見ても同じでしょう」

「・・・そうなのですね。―――んん?」

賢い子ね。

違和感に気付いたらしい。

採掘場を案内しろと言ったのは私で、採掘場に着いてみれば、その私は採掘場に興味が無いと言う。

レティアへ向かうよりも採掘場へ来ることを優先した私の目的は、この子なのだから。

控えている女中から受け取った封書を差し出す。