作品タイトル不明
社交界の首領・叔母様襲来 ④
「お久しぶりです。姫殿下」
「お、おひさしぶりです」
「お久しぶり―――、と言っても一月振りぐらいですわね。お二人も、お元気そうで安心しましたわ」
「久しぶりね、アレース! アスクレーは、わたしのこと覚えてるかしら?」
「は、はい・・・」
ルナリアも二人と面識が有るんだね。
年長者の方がアレースくん、年少者の方がアスクレーくんか。
よし、覚えた。
お兄ちゃんのアレースくんは年上だと思うけど、それで良いの、ルナリア?
私が二人に挨拶する前にミリア様の声が飛んできた。
「ほら、フィオレちゃん! 早く、早く!」
「・・・あ、はい」
気が付いたら、いつの間にかミリア様は、マーミナさんたちの傍へ行っていた。
ピーシーズはピーシス領の出身だから、当然のことながらミリア様と面識が有ったようで、みんなしてミリア様に挨拶している。
ミリア様が昔からこんな感じの人だったので有ろうことは、みんなの反応を見ていれば分かる。
お母様が「私以上の行動力」と評する人だしね。
「・・・マーミナさん、マーリカさん。このワナ、使わせて貰って良い?」
「「どうぞ、どうぞ」」
適当な小枝を拾った私は、危険の無い位置へミリア様に移動して貰ってからワナを指す。
「・・・これはククリ罠という獣を捕らえる設置ワナで―――、こんな感じで獣の脚を括って動けなくさせるものです」
獲物の脚を模して、トン、トン、と、枝先を跳ねさせてから、トリガーに触れる。
問題無く作動したククリが私の手から小枝を引ったくる。
飛んで行ったククリを拾って戻って来て、ミリア様に見せる。
ククリはしっかりと小枝の先を括っている。
「へぇ・・・」
「・・・足元が掬われて大きく身動きできなくなるので、安全に獣を獲ることができます」
「ふぅん? そんなに難しいものでは無いし、誰にでも覚えられそうね」
感心したミリア様が手渡されたククリを矯めつ眇めつして頷く。
言葉で説明されるよりも現物を見た方が早いし分かりやすいからね。
返されたククリから小枝を抜き取って、ミリア様たちに見えやすいようにして設置し直してみせる。
バネの木を撓らせる力仕事はマーミナさんたちが手伝ってくれたので、楽に設置し直せた。
「・・・猟師を始める町の人たちが増えていて、食生活が良くなっているようです」
「私はウォーレス領から出てしまったけれど、領民が豊かになるのは良いことだわ」
「あ、あの! これ、触ってみても良いですか?」
突然、声を上げたのはアスクレーくんだった。
大人しそうな感じの子だけど、目の輝き具合から見て、興味を抑えきれなくなった感じかな?
その目的や成果よりもワナの構造が気になる様子。
良いね。閃きから新しい技術でも生み出してくれて良いんだよ?
「・・・ミリア様。特に危険は無いですが、構いませんか?」
「ミリア叔母様、でしょ? ミリアお姉様でも良いけれど」
一応、親権者の了解を取ろうかと思ったら、ニッコリと圧力の高い笑みを返された。
「・・・み、ミリア叔母様」
「危険は無いそうだから、良いわよ。まだ他にも見せて貰う物が有るから、あまり時間を掛けないようにしなさいな」
満足そうに頷いたミリアさ―――、ミリア叔母様の許可が下りたのでアスクレーくんに了承を示す。
「・・・どうぞ。分からないことが有れば質問してください」
「ありがとう!」
パァッっと表情を輝かせたアスクレーくんがククリ罠の傍にしゃがみ込み、マーミナさんとマーリカさんが説明に付く。
人に教えることで自分自身の理解も深まるし、アスクレーくんはこのまま二人に任せて良いだろう。
あれこれと質問しているアスクレーくんを微笑ましく見ていたら視線を感じた。
アレースくんだ。
お父様と同種の穏やかな笑みを浮かべているけれど、蒼に近い濃緑色の目は私に向けられている。
ワナじゃなく、私?
何か興味を引くようなことをしたっけ?
無言で笑みを向けられているのが落ち着かない。
「・・・・・」
「・・・どうかされましたか? えっと・・・、アレースお兄様?」
「―――!!」
視線に耐えきれず声を掛けたら、ピシャ――ン! と落雷を受けたような表情でアレースくんは固まってしまった。
「・・・あの?」
「あっ! ああ、いいえ。何でもない、ですよ」
我に返ったアレースくんが挙動不審になっている。
「お兄様」が拙かったかな。
アレースくんの方が年上だろうし、従兄妹のハロルド様を「兄様」と呼ぶミリア叔母様に倣ったのだけど、間違えたかな?
「・・・ええっと。今さらなのですが、お兄様と呼ばせていただいても?」
「構わないとも! ぜひ、そう呼んで欲しい!」
これは・・・、「照れ」か?
確か、アレースお兄様たちは男児ばかりの三兄弟だと聞いた気がする。
食い気味の勢いに仰け反ったけど、本人が了承したのだから構わないだろう。
「・・・そ、そうですか。採掘場へ向かうので、お兄様も馬車へお願いしますね?」
「ええ! 分かりました!」
それぞれに満足そうなファーレンガルド一家の面々を馬車に押し込んで、私たちは採掘場へと向かった。
帰還予定時間に遅れるかもだけど、ミリア叔母様たちが一緒なら遅刻でお婆様に叱られることは無いだろう。
無いよね?