作品タイトル不明
社交界の首領・叔母様襲来 ③
「ファーレンガルド夫人。西部方面の動向は掴めていますか?」
「レティアに着いてから領主代行のハインズ様に報告する段取りになって居たのですが、まあ、あちらはアレイオスに任せれば良いでしょう。―――ルナリアちゃん。ハロルド兄様もフレイア姉様も無事ですよ。もちろん、側近たちもね」
ミリア様の口調から事務的な色合いが消えて、身内向けの口調になった。
お母様たちの無事を聞いてルナリアの表情がパァッと輝く。
「フィオレ!」
「・・・うん。良かった」
首っ玉に抱き付いて来たルナリアの体を受け止めていると、ミリア様の視線が私をロックオンしている。
「貴女がフィオレちゃんなのね?」
「・・・あ、はい。お初にお目に掛かります。フィオレと申しま―――、むきゅっ!?」
ルナリアの背中をタップして解放して貰う前に、ルナリアごと抱きしめられた。
「よく出来ました! 私が貴女の叔母様のミリアよ! もおー! 姉様ったら、こんなに可愛らしい子を独り占めするなんて酷いわ!」
「・・・あばばばばばば!」
猛烈な勢いの頬ずりで私の首が左右に振られる。また、これか!
「ルナリアちゃんも! 拐(かどわ) かされたと聞いたときは心臓が止まるかと思ったわよ!」
「うぶぶぶぶぶぶ!」
ルナリアもヤラレてガクガクと首が左右に振られている。
ポイッと私たちを放り出したミリア様が「さあ、来い!」とばかりに両腕を広げる。
「テレサ様も!」
「ご! ご遠慮いたし―――、あわわわわわわ!」
後退って逃亡を試みたテレサも敢えなく取っ捕まって頬ずりされた。
上品そうな所作なのに、動きの素早さは肉食獣の狩りのようだった。
目を回しかけているテレサの救いはミリア様の背後から掛けられた穏やかな男声だった。
「ミリア。殿下が困っておられるぞ。そのぐらいにしておきなさい」
「はぁーい」
あっさりと受け入れたミリア様がテレサを解放する。
男性を見上げたテレサが怪しくなった足元を堪えて微笑む。
リテルダニア王国に多い色合いの髪と理知的な目を持つ男性の年の頃は、ハロルド様と同じぐらいに見える。
ハロルド様から筋肉成分を幾らか引いて文系成分を足した感じの雰囲気の男性だ。
「ふぁ、ファーレンガルド卿も、馬車での長旅はお疲れになったでしょう」
「なんの、なんの。殿下のご無事をこの目で確かめられて安堵いたしておりますよ」
「ありがとうございます」
社交辞令を越えた暖かみが有る男性の笑みに、テレサも微笑む。
男性の視線がルナリアと私へ向く。
「ルナリア嬢、久しぶりだね。フィオレ嬢も、お目に掛かれて光栄だよ」
「アレイオス叔父様、ご機嫌よう」
「・・・こ、このような格好で失礼いたします」
私の首を解放したルナリアと並んで、軽く膝を曲げて頭を下げる。
スカートは穿いていないけどカーテシーだ。
目を細めた男性が首を振る。
「良いよ。私がミリアの夫のアレイオス・ファーレンガルドだ。君のことはハロルドから聞いたし、フレイアに散々自慢話を聞かされたからね。堅苦しい話は無しにしよう」
「細かい話は領主館に着いてからにしましょうか。私も岩塩鉱山を見ておきたいわ。フィオレちゃん、案内をお願いね」
「・・・私ですか?」
突然のご指名に首を傾げる。
ミリア様も首を傾げる。
「あら。貴女が実質的な計画責任者でしょう?」
「・・・領軍の責任者が配置されていますから、私が責任者というわけでは」
「一番詳しいのが貴女なんだから、貴女が良いのよ」
「・・・そ、そうですか」
この押しの強さは間違いなくお母様の影響だろう。
私の困惑を置き去りにして、ミリア様の目はピーシーズの足元に向いている。
「で。あれは何をしていたの?」
「・・・あれ? あ、狩猟用のワナですね」
「あれがそうなのね?」
ミリア様の視線を追ってマーミナさんとマーリカさんが自分たちの足元を見下ろし、二人の足元には完成して隠蔽工作中だったククリ罠が有る。
一つ頷いたミリア様が馬車へと視線の先を変える。
「丁度良いわ。あの子たちにも見せて貰っても良いかしら?」
開けっぱなしの馬車から、小学生ぐらいの男の子が二人、顔を覘かせている。
ミリア様たちのお子様たちかな?
家系上は私の従兄妹になるのだろうか。
ルナリアのように自身の興味に流されて軽率な行動に走らない辺りに育ちの良さが現れている気がする。
あれ? ルナリアも育ちは良いはずなんだけど。
まあ、いっか。ルナリアだし。
「・・・はい。構いません」
「アレース! アスクレー! いらっしゃい!」
上流貴族の奥様的に、それで良いの? と、聞きたくなるような大声で呼ばれた男の子たちが、おっかなびっくりといった足取りで原生林へと入ってくる。
背丈的に年長者と思われる少年がテレサの前で足を止めて、柔和な笑みで頭を下げる。
年少者っぽい少年の方は、少し緊張しているように見える。
よく似た感じの兄弟だけど、髪の色が若干、違う。
お兄さんがお父さん似で弟くんがお母さん似なのかな。