作品タイトル不明
西部国境地域討伐軍 ⑪ ※アンサンブルキャスト面
「やっと帰って来たか」
警戒中の騎士から報告を受けたハロルドは、安堵に深い溜息を吐いた。
しばらくして、進軍中の本隊側面の斜め後方から土煙を上げて馬群が接近してくる。
先頭の馬上で鮮やかな金髪を棚引かせているのは、紛れもなくフレイアだ。
馬を寄せてきたフレイアが片手を挙げ、ハロルドも頷いて返す。
街道の上を進む本隊にフレイアたちが馬の足並みを揃える。
フレイアたちの馬は街道から外れた原野を歩く格好になるが、街道と原野の境界も曖昧な平原のことだから、馬が足を痛める心配もない。
「何事も無かったか?」
「 此方(こちら) はな。 其方(そちら) はどうだった?」
フレイアに付いていったエゼリアたちにもケガを負った様子は無い。
渋い顔をしたフレイアが首を振る。
「拠点を6つ落としたが、駐留任務中の騎士が囚われている様子は無かった」
「詳しくは調べなかったのだな」
「人質交渉をして来なかったのだから居なかったのだろう。無いとは思うが、万が一にも敵方に与している者が居たのなら、それはもう、救うべき同胞ではなく、倒すべき敵だ」
フレイアの言い草にハウマンも渋い顔する。
「我ら王都騎士団が王家に弓引くことなど無いぞ」
「分かっている。無いとは思うが、と言っただろう」
部下たちを心配してか、ハウマンは、かなり神経質になっているようだ。
言い過ぎたかとフレイアは苦笑する。
本人は自分を脳筋だと卑下しているようだが、理知的で大らかな気質を持つハウマンという男の評価は、フレイアの中で決して低くはない。
「どこに居ると考えている?」
「領都、だろうな」
ハロルドの問いにフレイアは顎先で前方を示す。
ハウマンも頷く。
「西部国境地帯の“融和派”領地で駐留任務中の騎士は、おおよそ500騎だ。各領地の領軍に助言し、各領地の動きを把握して王都との連絡役を務めるのが主な任務だから、領都に囚われている可能性が最も高かろう」
「最後に連絡が付いたのは?」
「12日前の定期連絡が最後だ。その時点の文面では異変を察知している様子は無かった」
「私たちが王都を発つ直前だな。逆算すると、定期報告の伝令が西部国境地帯を出たのは一週間ほど前か」
「一週間なら、飲まず食わずでも生きていよう」
「殺されていなければ、だな」
フレイアが入れた横槍に、ハロルドは懐疑的な目を向ける。
「殺すと思うか?」
「伝令が出た時点では、駐留部隊は南部や王都の情報を得ていなかったはずだ。最初から何の情報も持っていないなら、人質として以外の価値は無かろう」
「拷問に掛けて情報を絞るだけ無駄なら、さっさと殺すか人質にするかの二択だな」
ハウマンの意見にハロルドが頷く。
「どっちを取ると思う?」
「人質だろうな。王命を得たウォーレス家が出て来た以上、領地で討たれるか国外へ逃亡するかの二択しか無い」
「亡命先を見付けるまでの時間稼ぎか?」
ハロルドとハウマンの遣り取りに、はたと気付いたフレイアが指を立てる。
「いや、他にも一つ選択肢が有るな。兵站が干上がったウォーレス領軍との戦が膠着状態になった間に、“有利な条件で王家と交渉”じゃないか?」
「狙いは、“自治権の容認”辺りか?」
「そんなもの、王家が飲むわけが無かろう」
ハロルドとハウマンは首を振るが、フレイアは立てた指をそのままにハロルドを指す。
「普通はな。だが、こういうときのために飼っていた王宮貴族だろう。お前がアレイオスを交渉に使うようにな」
ハロルドの目に理解の光が雑じる。
「塩が逼迫した上に逃亡民が溢れて国内が麻痺状態になれば、王宮が日和って交渉の余地が生まれると?」
「王国各地の領地貴族が弱れば打開策を持つ王宮貴族の力が強くなる。“融和派”への風当たりも弱くならざるを得ない。そうなる前に状況が改善されて私たちが敵地を焼き払うんだが。フィオレのお陰で敵の筋書きが破綻したな」
流通阻害と過剰徴発の意図が繋がった。
そして、敵は両方の謀が5歳の少女によって破綻させられていることを、まだ知らない。
「だとすれば、駐留部隊は人質で確定か」
「私たちが人質を奪還すれば完勝だ」
安堵の色が見えるハウマンにフレイアは頷く。
「ならば、正面から戦うのは愚策だな?」
「そうとも。真っ直ぐ、ぶつかるだけが戦の遣り方じゃあない」
意図を察してニヤリと口角を引き上げたハロルドに、フレイアも同種の笑みを向ける。
共に戦火を潜り抜け続けてきた猛将たちは、言葉で説明しなくとも以心伝心で相互の意図を理解する。
「ウォーレス流の戦い方を見せてやろうじゃないか」
この数時間後、ウォーレス領と王都騎士団西部方面隊の連合軍は、最初の敵本拠地である領都の城門を全て封鎖し、包囲を完了した。