軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

西部国境地域討伐軍 ⑧ ※アンサンブルキャスト面

「“勝手に増えた”とは、どういうことだ? それ以前に、魔獣の繁殖など可能なのか?」

「知るか。何が、どうなって、そうなったのか、は分からんが、“魔獣は魔力から自然発生する”という学説が有るのは事実だ。誰も試したことが無かっただけで、成功しているのなら可能だったのだろうよ。結果として成功しているなら、それで構わん」

不敵な笑みを浮かべているフレイアに、目を通し終えた手紙を手にしたハロルドは大体の状況を察した。

ハインズの手紙には明確な思惑が書かれて居らず、フィオレの手紙には「人手を寄越せ」と明確に要求が書かれている。

そこへ至った状況はよく理解できないが、兵站の生産は想定を超えた活況を呈していて、西部地域からの「労働力の調達」で王宮との軋轢を生む恐れが有る。

有効策では有っても、どこまでやって良いものかハインズには判断が付かなかった、と。

つまり、実行に移すかどうかの判断をハロルドに預けたのだ。

さもありなん。

王都や前線の状況が把握できない中での窮余の策でもあろうが、賢明な判断でも有るだろう。

逆の立場だったら、きっとハロルドもハインズと同じ判断をしたはずだ。

ハロルドはハインズからの手紙を挙げてフレイアに示す。

「父上からは、“余剰の兵站は逼迫している領地に分けてやって恩を売れ”だそうだが?」

「塩の調達阻害による西部から南部に掛けての逼迫が起こらなければ、商人の売り渋りや抱え込みも無意味になって、北部経由での輸入量で事足りる。王国内の塩の物価が正常化すれば、無意味な調達阻害を続けても敵国内で在庫を抱えている商人の反発しか生まん。フィオレは、“兵站を売って得た資金で逃亡民を雇って住居建設や開拓事業に従事させる”と言ってきているだろう? 畑を焼かれた領民が南部で住居と仕事を得れば、二度と西部へ帰ることなど無かろうよ」

楽しそうに目を細めるフレイアに、ハロルドは天を仰ぐ。

「敵の策略を逆手にとって西部の労働力を丸ごと南部へ奪う気か。西部と繋がりが有った王宮貴族も軒並み苦境に陥るな。だとしたら、“逼迫している領地に恩を売れ”という父上の指示は王宮対策だろう」

ハロルドは近くに控えている騎士の一人を手招く。

「王都への西部方面隊の伝令に同行して、王宮のファーレンガルド侯爵に書面を届けさせてくれ。書面は後で私が書く」

戦場を転戦するハロルドが逼迫している領地と塩の提供を直接交渉するのは効率が悪い。

分配や提供条件も交渉範囲は多岐にわたるだろうし、こういった仕事はアレイオスの得意分野だ。

王宮でのアレイオスの発言力を強くする一助にもなるだろうし任せた方が良い。

フレイアが次の干し肉を噛み千切る。

「ちょっかいを出してみたら、王国は揺るがないどころか、王国西部地域への取っ掛かりまで失われる。“融和派”を踊らせていた連中は何が起こったかも分からんだろう。これで、陛下の心配事が一つ減ったじゃないか」

「そうだな」

地域の労働力が減って領地貴族の力が弱まれば、王家は西部の離反や抵抗の心配をしなくて済む。

領地貴族がリターンを渡す余裕すら無くせば、王宮貴族は便宜を図って利益の一部をリターンとして得ることが出来なくなる。

ハウマンが難しい顔をする。

「待て、待て。領民をごっそり引き抜いては、西部地域の復興が難しくなるのではないか? そこまでしては、粛清後の新しい領主を引き受ける貴族が居るまい」

「領主を置く必要が有るのか?」

ハウマンの懸念にフレイアは首を傾げる。

ハウマンも首を傾げる。

「どういうことだ?」

「そもそも、領主とは、報奨として領地を与えられている場合が殆どだ。“信頼の証として預けている”だけで、王宮としては税収が減るのに、いくらかの仕事が減る程度の利点しか無い。領地を発展させて税収を増やす能力も無くコントロール出来ない領主など、王宮にとっては邪魔でしか無いのさ。折角、土地にしがみついた古い血族を取り除けるのだから、王宮から派遣する代官で十分だろう」

「王家直轄領に戻して代官を置く程度に留めておけば騎士団も駐留させやすい。それほど多くの食い扶持は必要あるまいよ。何せ、食わせなきゃならん領民が減るのだからな」

「代官なら首の挿げ替えも楽に出来るしな」

ハウマンの疑問にフレイアが答え、ハロルドが補足する。

ハウマンは唸る。

「そういう考え方も有るのか。路頭に迷う下級貴族が増えそうだな」

「犯罪に手を染めて王家を裏切った寄親を諫めなかったんだ。寄子も自業自得だ」

「どうしても統治の手が足りなくなったら、新たに爵位を与えて有能な奴に任せてやれば良い。どのみち、王家にとって余計な 柵(しがらみ) は減るだろう」

「お、おう」

辛辣なハロルドとフレイアの反論にハウマンが怯み、眉尻を下げているハウマンにハロルドが苦笑する。

「耕作地が空いて土地が余るんだ。駐留する騎士団で使う馬の繁殖でもさせてはどうだ? 軍馬の調達が楽になるぞ」

「軍馬生産か。復興後の産業にもなるな」

「大陸統一国家時代の歴史的背景が原因で、西部地域はロクな産業も無いくせに人の数が多すぎたんだ。間引くには丁度良い機会だろう」

「間引く」と言っても領民を皆殺しにしようというわけでは無い。

王国西部は、かつての大国時代の中心地である西方諸国に近い地域だ。

仕事が得やすい政治・経済の中心地に近いほど人口が多くなるのは必然だが、生産能力と生産量は比例しない。

人口とは労働力だ。

労働力だけが有っても働ける場所や環境が無ければ持っている生産能力を活かすことが出来ない。

生産能力と環境が合致しても需要が無い物をいくら作ったところで民の生活は成り立たない。

労働力と環境と需要が合致してこそ民の暮らしは楽になる。

西部地域で言えば、統一国家が分裂して中心地が変わったのに、特別な産業も生み出さないまま過剰な人口を据え置いたのが間違いだったのだ。

なるほど、と、ハウマンは頷く。

単に労働力が多ければ多いほど良いというものでは無いのか。

武辺一辺倒で生きてきたハウマンでも、こうして考え方の指南を受ければ、そのぐらいの理屈は理解できる。

領主貴族の当主と接触する機会が多い騎士団幹部でも、これほどの見識と明確な方法論を持つ相手から話を聞ける機会など滅多に無い。

尊敬するハインズの経験と知啓をも受け継いだ後輩が頼もしくも有る。

年がら年中、領地の経営に汲々としている、ハウマンの実家の親兄弟にも聞かせてやりたいものだ。

「人は土地に居着いて生きるものだ。こんな機会で無ければ土地を棄ててはくれんからな」

「馬なら有事に他領へ逃がせば財産が無駄になることが無い。馬場や放牧地は緩衝地帯や戦場としても使えるぞ」

言い草は辛辣だが、ハロルドとフレイアは前へ進むための方策を提示している。

環境の変遷に対応できなければ淘汰されるのは自然の摂理だ。

改革・開放を口にする“融和派”こそが過去に固執し、“保守派”の筆頭と呼ばれているウォーレス家こそが環境に対応している現実がよく分かる。

「それが、ウォーレス家の知恵か」

「500年の研鑽の結果だ。秘密にしておけよ?」

悪戯っぽく立てた指を口に当てるフレイアに、ハウマンも笑みが零れる。

「それにしても、この策を考えたのは、本当にピーシス卿の息女なのか?」

「自慢の娘だと言っただろう」

「にわかには信じ難いが、楽に勝てるなら遠慮無く乗らせて貰うとしよう」

一角の武人で在り大陸屈指の魔法術師でも在るフレイアが惚れ込むほどの娘だ。

戦略として有効なら乗らない手は無い。

“融和派”領地に侵攻してからの手筈の変更を配下に通達すべく、指揮官たちは動き出した。