軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

西部国境地域討伐軍 ⑦ ※アンサンブルキャスト面

「伝令―――!」

「―――!」

朝靄が残る野営地に響いた声に、出撃準備を進めていたフレイアはエゼリアたちに後を任せてハロルドの元へと急ぐ。

ちょうど作業の切りが良かったノイエラだけが護衛として慌ててフレイアの後を追い掛ける。

ハロルドの姿を見付けたフレイアが足早に近付くと、疲労の色が濃い騎士がハロルドの前で右拳を胸に当てて敬礼を取っているところだった。

伝令が夜通し駆けてきたのであろうことは察せられるが、甲冑に大した汚れが見当たらないので不慮の戦闘が絡むものでは無いように見える。

ハロルドの傍には、フレイアと同様に駆けつけたのであろうハウマンの姿も有る。

「何が有った?」

「ウォーレス領からの輜重部隊だ」

「輜重? こんな早朝にか」

チラリと視線を向けたハロルドの答えにフレイアは首を傾げる。

火急の状況でも無いのに輜重部隊が無理押しして、夜間行軍で前線部隊を追ってきたということか。

敵の欺瞞作戦かと疑いかけたが、伝令を務めた若い騎士の顔はフレイアもレティアで見た覚えが有る。

「ハインズ様の命により、兵站をお届けに参りました」

「ご苦労。予定よりも随分と早いが、どうした?」

「我々は輸送計画繰り上げの命令を受けただけで、詳細は・・・。それと、ハインズ様とフィオレ様より、お手紙を預かっております」

「おう。ご苦労だった」

騎士から手渡された複数の封書をハロルドが受け取り、署名を確認して差し出された封書の一つをフレイアは受け取った。

差出人の署名はフィオレ。

義娘の筆跡に間違いない。

「疲れているところ悪いが、少し待て」

「は」

待機を命じたハロルドに伝令が頷き、ハロルドがハインズからの手紙に目を通し始める。

フレイアも封を切って綺麗に畳まれた手紙を広げ、紙面に綴られた文字を目で追う。

複数枚にわたって書かれた丁寧な筆致に、小さな手でペンを握り真剣な顔で書き綴る義娘の姿が脳裏に浮かぶ。

ほんの2週間、顔を見ていないだけなのに、懐かしさが胸中に満ちる。

だが、文面の中身は望郷の念でしんみりとさせるような物では無かった。

左から右へと視線が動く度にフレイアの口角が引き上がる。

「・・・ブッ―――。くっはっはっは!」

「何だ?」

噴き出したフレイアにハロルドが怪訝な目を向ける。

フレイアから手紙を回されたノイエラも手紙に目を落としながらニヨニヨと口元を緩めている。

ノイエラの手からハロルドの手へとフィオレからの手紙が渡る。

ひとしきり笑ったフレイアがハロルドに顔を向けた。

「“逃亡民を受け入れる許可を取ったからどんどん送れ”だと。フィオレは西部国境地帯が二度と立ち上がれないように丸ごと潰す気らしい」

西部国境地帯が立ち上がれなくなる理由は分からなくとも、分かったことがある。

「父上の手紙には、“建白書の奉上と同時に塩と干し肉をどんどん送る”と書いてあるが、そういうことか。父上にしては迂遠な書き方だと思ったら、これはフィオレの策なのだな」

「西部地域を血の海に沈める腹を括っていたんだが、私の覚悟は無駄になりそうだ」

「やめてくれ。君にそこまでさせるつもりは無いんだ」

昨日の輜重の話以降、どこか思い詰めたフレイアの目が気になり続けていたハロルドは、いつも通りのフレイアに戻ったことに安堵を覚えながら首を振った。

「ハインズ様―――、いや、ピーシス卿のご息女は、“融和派”の徴発状況まで読み切って居られたのか」

「どうだろうな? どこから、この結論に思い至ったのかは分からんが、“当たり策”にはなるだろう」

機嫌が良くなったフレイアが、腰のポーチから干し肉を取り出して囓る。

愛娘が作ったフレイアのお気に入りのヤツだ。

「父上が陛下に建白書を上げたということは、採掘場の防衛拠点が完成したのだろう。計画通り領有宣言に向けての開拓は進んでいるようだ」

「輜重部隊の派遣計画を繰り上げられるということは、採掘状況も予定以上に順調なのだろうさ。ウォーレス領へ帰る輜重部隊に逃亡民を運ばせるのも理に適っている」

「計画以上の兵站を先に送りつけた上で、逃亡民の発生を見越して受け入れの段取りまで済ませて居るとは恐れ入る」

感嘆するハウマンに、フレイアはにんまりとした笑みを向ける。

「ともあれ、これで調達阻害も逃亡民の押し付けも意味を成さなくなるぞ」

「ああ。フィオレが作り出してくれた好機だ。活かさずにおくものか」

ハロルドの頭脳はハインズとフィオレの手紙を見比べて整合性を取り始める。

フレイアは伝令の騎士に顔を振り向けた。

前線部隊の兵士から手渡された革袋の水を飲んでいた伝令が慌てて姿勢を糺す。

「おい。“どんどん送る”とは、どの程度の頻度だ?」

「私たちがレティアを発ったのが1週間前ですから、今日あたり、次の部隊がレティアを発つものと思われます」

フレイアは頭の中で王国の地図を思い浮かべ、納得する。

中央部の王都経由で来るよりも、南部から直接向かえば西部までの移動距離は、3割は短縮できる。

「南から西へ横断するルートなら1週間で着くか。―――規模は?」

「今回、2頭曳きの荷馬車20台に兵站を満載してきて居ります。次も同程度かと」

「予定量よりも、かなり多いな。どれだけ魔獣を狩っているんだ・・・」

こちらで調達した小麦と併せれば、従軍している兵員の食事だけでなく数万人の逃亡民に炊き出しをしても使い切れる量では無いように思える。

手紙を読み進めながらハロルドがこめかみを揉む。

手紙を何度も読み返している様子を見ると、ハインズからの手紙は、よほど複雑なのか、難解なのか。

「今、レティアの町は狩猟と食肉加工で大忙しです。領内中から人手を集めていますが、まるで足りていないと」

「まだ農繁期でもあるからな。罠猟なのだろうが、それほど獲れるものか?」

「それが、・・・その、フィオレ様が」

言葉を濁してチラリとフレイアを見た伝令に、フレイアが目を鋭くする。

「フィオレが何だ? ハッキリ言え」

「ふぃ、フィオレ様が“魔の森”でバイコーンの飼育を始められたそうでして、毎日、100頭以上も持ち帰られるので、加工場が悲鳴を上げていると噂になっています」

「バイコーン? 魔獣を飼育だと?」

手紙の中身を咀嚼している場合では無くなったハロルドが目を上げる。

「拠点に入り込んだバイコーンを囲っておいたら“勝手に増えた”とか・・・。拠点建設に携わっていた部隊の者からも聞いたのですが、私には、よく分かりません」

「あいつめ・・・。面白いことになっているな」

その辺りの些細がフィオレの手紙に書かれていないということは、フィオレ自身も、なぜそうなったのかが、よく理解できておらず、フレイアには報告しにくかったのだろう。

結果として大量の肉を手に入れられているのでフレイアは叱らないと考えている可能性もある。

事実、フレイアは怒らないし、一大産業になりそうなほどの食肉を得ている状況は、ウォーレス領の利益になっても不利益を生むことは無い。

フレイアは笑っているが、全く理解が及ばないハロルドは眉根を寄せる。