作品タイトル不明
西部国境地域討伐軍 ⑥ ※アンサンブルキャスト面
「流通は誰が止めている? 流通阻止に重ねて飢餓を起こせば調達阻害の効果が極大化する上に、統治者から民心が離れる」
「それにしても拙速だろう。“中立派”まで容赦無く叩いたことで、“後ろの連中”も相当に慌てたか」
「大方、王国と直接の戦端を開けるほどには戦の準備が整っていないのだろうさ」
フレイアが肩を竦め、ハウマンとハロルドが首を振る。
「間接侵略が丸ごと失敗するぐらいなら、王国に打撃を与えて置こうと?」
「ここまで“融和派”の連中が馬鹿だったとは」
戦後の食料支援で穴埋めすると甘言を囁いたとしても、過酷な徴発で民心を失った領主に領地は治められない。
当然、王国は無能な領主の首を挿げ替える。
折角、飼い慣らした内通者を切り捨てたのと同じだ。
フレイアたちが“中立派”領地を苛烈に踏み潰したぐらいで慌てるほど覚悟が決まっていない状態で、直接的に兵力を送り込んで侵略の意志を顕わにするとまでは考えにくい。
眉間を険しくして腕を組んだフレイアが目を伏せる。
「“後ろの連中”は、そうだとして、“融和派”どもが狙っている着地点が見えんな」
「ああ。王国民を虐殺してまで奴等が勝ち取れる物とは何だ?」
「亡命? いや、領土の割譲・・・か?」
確信が持てないハウマンの推察にフレイアが首を振る。
「無いな。特務魔法術師とウォーレス家が出て来た時点で割譲など無理だ。そんな程度で領土を掠め取れるならカリークのアホどもは苦労していない」
「そうだな。我らウォーレス家はカリークのときの二の舞など決して許容しない」
フレイアに同調するハロルドをハウマンが見る。
「なら、血族を含めた亡命か?」
「はっ。せっかくの密輸ルートを潰した無能を受け入れる国が有れば良いな」
「だろうな。私でも受け入れを拒否するぞ」
鼻で笑うフレイアの指摘に、疑問を投げたハウマンも納得した。ハロルドが肩を竦める。
「情報が足りん。駐留部隊が何か情報を掴んでいれば良いのだが」
「情報を掴んでいたら、もう生きていないのではないか?」
「そうなるか・・・」
フレイアが首を振り、ハウマンは肩を落とす。
ハウマンにとって、駐留部隊の騎士たちは大切に鍛えた部下で有り、老いを自覚し始めた自分の引退後の未来を託す希望なのだ。
大先輩で有るハウマンの心情を汲み取ったハロルドが肩を叩く。
「何にせよ、奴等の企みは徹底して潰しておかねばならん」
「うむ。部分的にでも成功したと思わせては、非常に拙いことになるな」
業腹だが、“融和派”という“生け贄の羊”を使うなら、後先を考えない滅茶苦茶な徴発は王国内を乱す目的には有効な戦術になる。
兵站の不足は兵の士気を下げる。
士気が下がれば攻め手を欠いて想定以上に戦が長引く恐れがある。
経験上、戦が長引けば敵も味方も被害が大きくなる。
これは良くない傾向だ。
内戦の鎮圧に手間取れば、「もう一押しで落とせるかも」などと、王国を狙う勢力の領土的野心に更なる火を付ける恐れが有る。
特に神教会に隙を見せるのは拙い。
間接侵略は神教会が最も得意とする手だ。
間接侵略が有効だと思わせてはならない。
“融和派”のアホどもが。
高が一地域の領主風情が欲に駆られて犯罪に手を染めたばかりか、民を苦しめた上に王国の存続を危うくするとは、まともな判断力を持っているとは言い難い。
これなら領地ごと王国から離反して他国の支配下に下った方が生き残れる可能性が有っただろうに、保身を考える知能すら持ち合わせていなかったらしい。
もっとも、フレイアたちが王国からの離反などを許すわけも無く、焼き尽くす結果に変わりは無いのだが。
“融和派”は端から潰す気だったが、裏で糸を引いている連中の野心を挫くところまで「凄惨な結末」を見せつける必要が有るか・・・。
暫し、目を伏せて考え込んでいたフレイアが、顔を上げて輜重兵を見た。
「調達できた小麦の量は、どの程度だ?」
「2週間分は有ります」
「まだ備蓄に余裕が有りそうなら、買えるだけ買い上げておけ」
輜重兵がハロルドを見る。
無いよりマシだが、小麦だけ有っても困る。
食事が野営地に設えた即席の竈で焼いた固いパンだけでは従軍している者たちから不平が出る。
それに、パンを焼くにもスープを作るにも塩は必要だ。
「良いのですか?」
「構わん」
女の勘は侮れない。
フレイアの覚悟を決めたような目が気にはなったが、ハロルドは迷わず頷いた。