軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

西部国境地域討伐軍 ① ※アンサンブルキャスト面

日が暮れるには少し早い時間、ハロルドとフレイアは、王都第1街区の良い立地に建つ瀟洒な邸宅を 訪(おとな) っていた。

広い敷地に本館の他に大きな迎賓館と使用人用の宿舎を備え、王国式の立派なアプローチを構えた屋敷は、王宮貴族の中でも“保守派”の有力な文官、ファーレンガルド侯爵家の王都邸だ。

「お久しぶりです。叔母上様」

「お、おひさしぶりです」

「おう。アレース、アスクレー。元気にしていたか?」

膝を突いて目線に合わせたフレイアが、両手でワシャワシャと子供たちの頭を撫で回す。

しっかりとした言葉遣いが身に付いている長男と、気弱な性格が現れている次男。

気弱では有っても次男は学問を好むらしい。

それぞれの個性は等しく愛されるべきものだ。

「二人とも、ご挨拶なさい。こちらがウォーレス侯爵ハロルド様よ」

「「あ、はい」」

せっかく整えられていた髪をぐしゃぐしゃにされた子供たちが、慌てて髪を撫で付けて礼を取る。

「初めまして。アレース・ファーレンガルドです」

「は、はじめまして。アスクレー・ファーレンガルドです」

「そう緊張するな。親戚のオジサンぐらいに思っておけば良いぞ」

「「「・・・」」」

フレイアの紹介にハロルドが微妙な表情になり、子供たちは困惑した顔になる。

気にした様子も無いフレイアが立ち上がり、両手を差し出す。

「ミリア」

「ハイハイ。ほんと、せっかちねえ」

苦笑したミリアに、女中が慎重に毛布の塊を手渡す。

毛布の中身に軽くキスしたミリアがフレイアへと手渡す。

毛布から覘いているのは、小さな小さな寝顔だ。

「三男のアンリよ」

「よしよし、アンリ。私がお前の叔母上だぞ~」

普段の雑な手つきとは違うフレイアの姿に、ミリアは懐かしそうに目を細める。

ミリアの幼少期もフレイアに構い倒されていたものだ。

大人になっていく過程で時に面倒に感じることは有ったが、多くは救われていたことをミリアは正しく理解している。

少なくとも、戦場へ行ったまま暫く帰ってこない父様の不在や、王都とウォーレス領を頻繁に往復して多忙を極めた母様の不在で寂しさを覚えるようなことは一度も無かった。

世間では悪鬼のように恐れられているフレイアだが、姉の本質を知るミリアにしてみれば、そんな悪評は失笑ものだ。

「姉様も、そろそろ結婚すれば?」

「ヒマになったらな」

そんな日が来ないことを知っていながら姉は嘯く。

「婿を取れば?」と聞かなかったのはフレイアの心が誰に有るのかを知っているミリアの気遣いだ。

家族の遣り取りを見守っていた館の主が親友に笑い掛ける。

「よく来てくれた。ハロルド、フレイア」

「うむ。世話になる」

ハロルドも表情を緩めて笑みを返す。

この癖のある金髪を髪油で撫で付けた優男が、ファーレンガルド侯爵家、現・当主アレイオスだ。

ハロルドの二つ年下で王都騎士団時代に同じ釜の飯を食った後輩で有り、同格の家格を持つだけで無く、互いに力量を認め合った親友でもある。

アレイオスはハロルドが騎士団を辞してレティアの町へ帰ったのと日を置かず、実家の家督を継ぐために騎士団を辞して文官の道を歩むことになった。

隊長たちは戦力の低下を嘆いていたが、今では武官の事情と心情が分かる希有な文官として、それなり以上の影響力を持つようになっている。

何より、アレイオスの正妻は、王妃アマリリアの懐刀として社交界の主流を率いているミリアである。

ミリアはアマリリアの威光が無くとも“保守派”を代表する武門ウォーレス侯爵家家系・ピーシス子爵家の次女で、特務魔法術師フレイアの実妹だ。

後ろ盾で言えばアマリリアよりも実効力を伴う強力な面々が揃っているのだから、その夫が影響力を持たないわけが無い。

自らの後ろ盾が何かを正確に把握しているアレイオスにとっても、盟友ウォーレス家の安定は他人事では無い。

アレイオスは声を潜める。

「そろそろフレイアを後妻に迎える気は無いのかい?」

「色々と有るのさ。それに、後妻になどならなくともフレイアなら引く手数多だよ」

ハロルドの言わんとすることは分からなくも無い。

ただでさえ強すぎるウォーレス家が更に強くなるのを危険視する王宮貴族は多いし、他家の足を引っ張ることで利益を得ようとするのは貴族という生き物の本能のようなものだ。

だが、元々フレイアのピーシス家はウォーレス家の系譜なのだから、他家が騒いだところで今さらだ。

貴族社会のアレコレを差し置いても、アレイオス個人の心情として、親友のハロルドには幸せであって欲しい。

「ルナリア嬢にも、まだまだ母親が必要では無いかな」

「そう・・・なのだろうな」

レオノーラが存命であれば、ルナリアは心を壊しかけることなど無かっただろう。

鈍感な子供であれば連続した家族の喪失を何事もなく乗り越えられたかもしれないが、聡明で感受性が強いルナリアは、自身が強くなることで心の傷を乗り越えようとした。

塞ぎ込んでいたルナリアをハロルドたちでは元気付けられなかったし、虚勢を張るルナリアの姿は痛々しくて見ていられなかった。

ルナリアを変えたのは一つの出会いだった。

たった一つの出会いが人生を変えることは確かに有る。

フィオレとの出会いがルナリアの心を救ったのだ。

天真爛漫で甘えん坊な末娘が生来のまま居られる、得難い出会いに恵まれた幸運をハロルドは噛みしめる。

あまり追い詰めるのも良くないと、アレイオスが仕切り直す。

「いつまでも玄関口で立ち話も無いだろう。先ずは、さっぱりして来てくれ」

「気遣い、感謝する」

ハロルドの返答に合わせてフレイアはミリアの手に赤子を返す。