作品タイトル不明
流通阻害無効化作戦 ⑱ ※アンサンブルキャスト面
「そう言ってやるな。日々を食い凌ぐだけで民は精一杯なのだ」
「しかし、バカみたいに誰もが小麦ばかり作っても、価格が下がって豊かになどなるわけが無かろうに」
原因など分かりきっている。
地域を統治する貴族がバカなのだ。
王家の干渉を嫌うくせに民を食わせる産業を生み出す知恵も無く、欲に目を眩ませては問題を起こす。
かつては功績を挙げた貴族家でも、代が変われば有能な統治者も失われて既得権益にしがみつくだけのゴミに成り下がる。
「ま。愚痴ばかり言っておっても何も変わらぬ」
「やれやれ。次の領主に誰を充てるか考えねばならんな」
サリトガとの付き合いが長いオーグストは、「私は知らぬ」と言ったサリトガを疑ってはいない。
本来、“中立派”だった、この男は、オーグストの片腕として有象無象が蠢く王国内を取り纏めるために“融和派”に近付いて、取り纏めているだけなのだ。
王国の中枢に居る者たちでも、このことを知る者は極めて少ない。
周囲が誤解してくれれば内側から誘導しやすいがために、色々と便宜を図って遣って“融和派”を掌握したが、この男の興味は、そんなところに無いことをオーグストは知っている。
サリトガが動きやすい環境を作るためにオーグストも凡庸を演じているのだから、オーグストと同じ穴の狢なのだ。
「全ての貴族家がウォーレス家のようなら、どれほど楽なことか」
「まったくな」
疲れが滲む言葉が交わされ、二人がグラスに口を付ける。
「それで。どこまで遣りそうだ?」
「ロンドベールが“黒”だと分かった」
サリトガの口から深い溜息が漏れる。
「“中立派”まで浸透されたか。かなり派手に引き締める必要が有りそうだな」
「フレイアは手始めにロンドベールを潰して西へ向かうと言っている」
「ふむ・・・。では、私は、此度の事件に関係していない“融和派”と“中立派”の両方を抑えれば良いのだな?」
オーグストは大きく頷く。10の内の10まで話さなくとも伝わるサリトガは、話が早い。
「代償は大きいが、何とか帳尻を合わせるしか有るまい」
「しかし、フレイアに、ドネルクに、ハロルド。この穴を、どう埋める?」
「ドネルクの代わりは何とかなろうよ。特務はバルトロイに押し付けるしか有るまい」
宙へ視線を泳がせたサリトガが人事の心当たりを探る。
「魔法術師団はアカデミーから誰か出させて体裁を整えるしか無いか」
「南部の守りも、フレイアたちが一線を退いても居なくなるわけでは無い」
「今ひとつ弱くは無いか? 次代はどうなっている」
フレイアとハロルドは南部の 重石(おもし) だ。
表から見えなくなるだけで、頭の弱いバカな連中が侮る恐れがある。
例えば、カリーク公王国のように。
ウォーレス家の存在で安定してた南部が揺らげば全体の算段が狂う。
「まだ幼いが、ハロルドの娘とフレイアの養女は見込みが有りそうだ」
「南部は大丈夫そうか。アリストテレジア殿下が育つまで耐えれば、何とかなりそうだな」
オーグストの言に、険しくなったサリトガの眉間が緩む。
「フレイアにも言われたわ。テレサが育つまで、儂が後10年がんばれとな」
「流石はマルキオ殿とシェリア殿の義娘だな。よく見ている」
くつくつと笑い声を漏らしたサリトガに、オーグストはジト目を投げた。
「カレリウスは、どうしている?」
「アレは駄目だ。どうにもならぬ」
心情を表して首を振るサリトガに釣られてオーグストも首を振る。
オーグストの脳裏に浮かぶのは、病で亡くなったサリトガの姪・サリエラの顔だ。
典型的な温室育ちの貴族令嬢だった前・第1王妃は、我が子に極めて甘かった。
末子の放蕩を唯の一度も叱ることが無かった結果、出来上がったのが第2王子のカレリウスだ。
「サリエラが甘やかすのを許した儂らの責任では有るな」
「サリエラも問題だったが、最後は本人の資質の問題だ。同じ環境で育っても、現に、アリストテレジア殿下は、アレのようには、なって居らぬ」
とはいえ、テレサは王女で、先王陛下のような武勇を望めず、サリトガたちのような腹黒さにも今ひとつ欠ける。
先王陛下のように自身が先陣を切る必要は無いが、それならば、代わりに戦場に立つ腹心が必要になる。
そう言った意味で武に重きを置く腹心を得やすい男児の方が王位継承に有利なのだ。
「テレサもアマリリアの影響で社交に偏りそうな気配が有ったが、ウォーレス行きは良い結果に繋がったようだぞ」
「ハインズ殿に当てられて剣術にでも目覚めたか?」
楽しげに目を細めるオーグストの言い草に、サリトガは片眉を上げる。
「いや、フレイアの義娘の方だ。ハロルドの娘と一緒になって、魔獣狩りに熱中しているらしい」
「“魔の森”でか? 驚いたな」
確か、凶悪な魔獣が跋扈する“魔の森”でハロルドの娘を助けたのが、フレイアの義娘だったか。
王女殿下が、どう変わったのか、自身の目で確かめるまで安堵は出来まいが、希望の芽が育ったのなら、これ以上、良い報せは無い。
「どこまで成長したか、帰還させる日が楽しみよな」
「ならば、後10年、何としても繋がねばなるまい」
悪い報せばかりでは無かったと安堵の息を吐きながらもサリトガは心を引き締めた。
「うむ。頼むぞ、サリトガ」
「お前もな」
こうして、王宮の一室で、余人の知らない謀が練られ、夜は更けて行った。