軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

流通阻害無効化作戦 ⑯ ※アンサンブルキャスト面

「・・・分かった。サリトガにも伝えて、戦後の“融和派”と“中立派”を抑えさせよう」

王国の武の象徴と、王国最強の武闘派貴族の象徴と、王国貴族の正義の象徴。

“保守派”トップ3人の失脚と引き換えなら、生き残った“融和派”と“中立派”も溜飲を下げよう。

どの派閥にも一人勝ちさせず、一人負けもさせない。

真に王国を想う者たちを叛逆者たちの返り血に塗れさせてしまっても、為政者として落としどころは必要なのだ。

だが、ドネルクの懸念は“融和派”だけでは無い。

「“保守派”領地はどうする?」

「大人しくは、して居られぬか」

頭痛を堪えるようなオーグストに、渋面のドネルクが首を振る。

「抑圧されていた月日が長すぎた。戦が始まったとなれば駆けつける者も居るだろう」

「北部や東部の連中は王都周辺を固めさせておけば良い。どうせ南部は動けなくなる」

何のことは無い、と、ハロルドは肩を竦めた。

オーグストとドネルクは顔を見合わせる。

「ふむ・・・。カリーク公王国か」

「“融和派”の背後に勇王国の影が有るとなれば、カリークと手を結ぶ恐れが有ると?」

「奴等と勇王国は交戦国同士だろう?」

「仇敵リテルダニアを崩せる好機となれば、共闘までは無くとも協調する可能性は有る」

直接の手は結ばなくとも、西部と南部で戦を起こすタイミングぐらいは合わせられる。

放って置いても岩塩鉱床でカリーク公王国は確実に釣り出されるのだ。

カリーク公王国が欲しているリテルダニア王国の領土は、敵国の勇王国から遠く“魔の森”に面した王国東南部、ウォーレス侯爵家が居座っている地域だ。

故に、ウォーレス家の始祖レティア卿は、庶子とは言え王家息女の身で有りながら、現在のウォーレス領に居を構えて彼の地を押さえた。

ナーガ川を隔ててカリーク公王国との国境を護っている“保守派”領地は、東の端とは言え国境を侵されたとなっては自領から動けなくなる。

ならば、オーグストは、ハロルドが言うように、北部や東部の挙兵した“保守派”に王都防衛を命じて引きつけておけば、王国全土に戦火が広がるのを防ぐことが出来る。

オーグストが頷く。

「なるほど。暴走する“保守派”が一部だけなら抑え込めよう」

決着が付いたと見て取ったフレイアが一同を見回す。

つっ、と、ロンドベール公爵領から犯罪ルートに沿って西部国境地帯の敵領地まで、地図上に指先を滑らせる。

南部方面の犯罪ルートの“中立派”領地は、西部の末路を見れば、戦うまでもなく降伏するだろう。

唆していたコーニッツが既に居なくなった以上、ウォーレス家に、況してや、王家に抵抗する度胸など有るわけが無い。

“中立派”に度胸が無いのは南部に限ったことではない。

「風見鶏を決め込むつもりだった“中立派”は有事に備えていない。鎧袖一触で落として西部へと攻め込むぞ」

「強引すぎはしないか?」

軍隊が他領を通行する場合、通常の手順を経るならば、通行する領地の了解を得て、必要以上に刺激しないように粛々と進軍するものだ。

当然、進軍速度は輜重部隊並みに落ち、通行を渋る領地が有れば足止めを食らう。

フレイアは手順も城壁も蹴り飛ばして一気に押し通ると言っているのだ。

隔絶した戦力を誇るウォーレス家ならば出来る。

出来てしまう。

「私は早くレティアへ帰りたいんだ。邪魔する奴は、まとめて消し飛ばす」

「何をそんなに急いでいる?」

鼻息が荒いフレイアに、ハウマンが首を傾げ、ドネルクが片眉を上げる。

「子供の成長は早いんだ。娘の可愛い時期を見逃したらどうしてくれる」

「そうだな。さっさと終わらせよう」

間髪入れず大きく頷いたのは、ウォーレス家の常識人だ。

「おい。ハロルド?」

「儂もテレサの成長を、早くこの目で確かめたいものよ」

オーグストまで大きく頷いて、怪訝な顔のドネルクがバルトロイを見る。

「そういうものか?」

「独身の私に聞かないでください」

「閣下も伴侶を娶られてはどうですか?」

乗っかってきたハウマンに、ドネルクは渋い顔を返す。

「俺が子を作ってはグラウスの迷惑になる」

「リヒテルダート公爵閣下なら、歓喜して自慢して回る姿しか想像できませんが」

「グラウスは良くても、周りが面倒なのだよ」

首を傾げていたハロルドが、思い当たったのか頷く。

「ああ。大叔母上か」

「爵位はもうグラウスに継がせたというのに、いつまでも、しつこい」

「新しい爵位など、どうとでも儂が用意すると言うに」

ドネルクの祖母はオーグストにとっても義理の祖母に当たる。

ハロルドから見れば母方の大叔母だ。

若い頃から戦場に立ち続けたドネルクの実家である公爵家は実弟のグラウスが継ぎ、公爵家が別に保有していた伯爵位は末弟レイノルドが継いだ。

文武に優れたドネルクを自慢にしていた祖母としては、ドネルクが実家を継がなかったことを受け入れても、平民に身分を落とすことが受け入れがたいのだろう。

困ったことに、ドネルクが継ぐべきだと渋りに渋ったグラウスが折れて公爵家を継いだのは、まだ最近のことで、公爵家に後嗣が生まれていない。

さっさと後嗣を生んでくれれば祖母も諦めが付くだろうに。

オーグストとしても護国の功労者で有るドネルクを粗略に扱うつもりなど毛頭ない。

更には、戦場に立つ限りは、と、頑なに伴侶を迎えなかったドネルクを結婚させる好機である。

オーグストの視線の意味を読み取ったらしいドネルクが両手を挙げた。

「国内が片付いたら考える。それで良かろう?」

「そうしてくれ。儂もお主の子を見たいのでな」

早くに崩御された先王に代わり、オーグストが王位に就いて、もう25年になる。

陰に日にオーグストを支えてくれた年上の親友が義兄になって10年以上。

オーグストが最も信頼する男と別々の道を歩む日が来たようだ。

死別するのでは無いのだから会えなくなるわけでは無い。

これより戦いに赴く者たちの前で、寂しくなる、などと女々しい泣き言は口が裂けても言えない。

胸中の想いを呑み込んだオーグストは、同席する皆の顔を見回した。

「では、大掃除を始めるとしよう」

「「「「「はっ」」」」」

席を立った武人たちは、それぞれの役目を果たすべく、御前を辞した。