作品タイトル不明
流通阻害無効化作戦 ⑮ ※アンサンブルキャスト面
「テレサと、ルナリアと、フィオレ。あの三人が揃えば、何かを成し遂げるだろうよ」
「今の“魔の森”には、その三人が揃っているのだったな」
「“ここ”を乗り切れば、王国は強くなるぞ」
王国貴族の数割を粛清しなくてはならない暗くなる話し合いの最中だが、新たな希望を感じさせる明るい情報に、オーグストの表情も幾らか和らぐ。
軽くなった空気にハウマンは乗っかった。
肩書きも家柄も王国最上位クラスのバルトロイが弄られている状況は、騎士団の一隊長に過ぎないハウマンには心臓に悪すぎる。
「“魔の森”の新規開拓成功など、何百年ぶりだ?」
「王国からカリークが分離する前だから1000年近くは昔だな」
ハウマンの心理を察していたらしいハロルドが話題変更を補強する。
このウォーレス家らしくない常識人には、ハロルドの騎士団時代にもハウマン「も」助けられていたものだ。
「領有宣言に失敗した奴等としては看過できぬか」
「面倒な連中よな。恥知らずにも程があるだろう」
「今さらだな」
「厚顔無恥でなければ、一公爵が王権の正統保有など主張するものか」
渋面になるオーグストとドネルクをフレイアがバッサリと切り棄て、ウォーレス家の常識人も辛辣に吐き捨てる。
数年に一度は侵攻を受け続けてきたウォーレス家当主として、忌々しいどころでは済まないだろうことは、ハウマンも理解できる。
「防衛しきれるのか?」
「“ウォーレス領内”だぞ?」
「ハインズ殿も健在となれば、愚問だったな」
自信満々なフレイアの応えに一同が納得顔で頷く。
「王国の盾」を標榜する南部国境の雄は鉄壁なのだ。
前・王都騎士団団長が備えているともなれば、破られることなど無かろう。
ドネルクの目がハウマンに向く。
「西方各国の動きは、どうなっている?」
「エクラーダ王国は、もう駄目だな」
「やはり、勇王国が?」
ハウマンはハロルドに頷いて返す。
「 彼方(あちら) も真の黒幕は神教会なのだろうが、すでに国内貴族の殆どが勇王国と内通しているようだ。王家が粘っても、あれでは持たん」
「明日は我が身、だな。神教会の要求に応じた王家の弱腰が、国内貴族の離反に繋がったのだろう」
「貴族領の“頭”を挿げ替えても、次々と籠絡されては抑えようが無いのだがなあ」
オーグストのぼやきにフレイアが首を傾げる。
「抵抗できる力を残さなければ良いだろうに」
「領民を皆殺しにでもするのか? そんなことを出来るものか」
「強制移住させても民に根深い反感が残ろうよ」
「それもそうだな」
ドネルクとオーグストの反論に、フレイアも直ぐに引いた。
「良い手が有ったら教えてくれ」
「分かった、分かった。私も言いすぎた」
ジト目で追撃してきたオーグストに、フレイアは苦笑する。
凡庸を演じ続けてきたオーグストの苦労はフレイアもよく理解しているのだ。
全員の視線がハロルドに集まる。
「で。どこから攻める?」
「決まってるだろう」
トン、と、地図の一点をハロルドは指先で叩いた。
「ロンドベール公爵領からか?」
「西部国境地域を攻めるのに、背後を扼されては敵わん」
「公爵が“黒”だという証拠は無かろう?」
「そんなものは、後で“融和派”のアホどもに歌わせれば良い」
応えたのはフレイアだった。溜息雑じりにバルトロイが首を振る。
「無茶苦茶だな」
「帳尻だけ合わせれば収まるものだ」
「帳尻とは? 何を考えている」
意図を感じ取ったらしいオーグストに、フレイアとハロルドが居住まいを糺す。
「この戦が終わったら、私は特務魔法術師の任を辞して家督をフィオレに譲る」
「私もルナリアに家督を譲る」
「・・・・・・・そこまでの覚悟か」
長い沈黙の後、オーグストは何とか言葉を絞り出した。
どこに「正義」が在ろうとも、逆恨みや恐怖など、人の心は理屈だけでは治められない。
ハロルドとフレイアは、「生き残った貴族家が抱く負の感情を全て背負って表舞台から去る」と言っているのだ。
後継に指名される者が5歳の子供でも、現・当主が早逝することも珍しくない国境地域や“魔の森”に隣接した領地では、無い話では無い。
王国を生かすための無私の献身。
オーグストの深い溜息の後をドネルクが引き継いだ。
「良かろう。ならば、俺も騎士団長の任を辞するとしよう」
「「閣下!」」
ハウマンと同時に声を上げたハロルドの肩をフレイアが抑える。
「お前たちが腹を切ってまで王国の病を払うのだ。お前たちだけに背負わせられるか」
「―――!」
真っ直ぐなドネルクの目差しにハロルドが言葉を失う。
義に篤く、戦士を強く引きつけるこの従兄弟は、こういう男なのだ。
戦意にギラギラと目を光らせたフレイアが、ニィッと口角を引き上げる。
「ならば、徹底的に、やるとしよう」
「オーグスト。全ての責は俺たちが負う。良いな?」
ドネルクの念押しに、固く目を瞑っていたオーグストがゆっくりと頷く。