作品タイトル不明
流通阻害無効化作戦 ⑬ ※アンサンブルキャスト面
「“融和派”と王宮貴族以外で奴隷売買に関わっていると見られるのは―――」
「ログワース男爵領、リンデル侯爵領、フィッツベルン子爵領、ヒルボート男爵、だな」
どれもコーニッツ領から王都までの間で隣接して連なっている“中立派”の領地だが、ウォーレス領を出て王都に到着するまでの9日間、ハロルドたちは見せつけるように進軍してきた。
この進軍ルートは、フレイアの、特務魔法術師としての任務の中で浮かび上がってきた領地で、わざわざ、そこを選んで通ってきた。
これはフレイアが叩きつけた強烈な「脅し」だ。
「領地返上を申し出て最低限の名誉を守るか、王国の敵として滅ぶかを選べ」と。
通行の拒否は事件との関与を認めるのと同義で各貴族家は拒めない。
フレイアが行軍に随伴している時点で、ウォーレス家の武力を背景に道中の領地を踏み潰して更地に変えながら通ったとしても、「王国の正義」はフレイアにある。
現に、道中の各家は挨拶に顔を見せるでも無く、通行を拒むでも無く、息を潜めていた。
大方、顔を真っ青にした領主は領主館に籠もって身の振り方を協議していたのだろう。
その程度で縮み上がる小者なら、王宮から処分を下すだけでカタがつく。
完全武装のウォーレス領軍が通過する旨の通達は道中の各貴族領へ伝えられており、王国最強の“保守派”が動いたという衝撃を伴う情報は、王国全土はおろか、間諜を潜ませている耳の良い国なら他国にまで聞こえているはずだ。
それは、敵が迎撃の準備を始め、背後で暗躍する他国の軍事支援が始まったことをも意味する。
王国を蝕む病巣が多数の貴族領にわたっている現状は把握しているが、どの領が敵で、どの領が味方、あるいは、中立を守るかは、戦略の根幹に関わる。
卓上から未配置の駒を摘まみ上げたフレイアが、地図上の1点に置く。
「ホフマン伯爵領、ゼルボー伯爵領、そして―――、ロンドベール公爵領もだ」
「「「―――!」」」
王都に居た3人が顔色を変えた。
ハロルドとバルトロイの2人とは情報を共有しているので、2人は静観している。
「ロンドベール公爵は“中立派”の首魁だぞ」
「地図をよく見ろ。“融和派”領地を結ぶ密輸・密売ルートの空白を埋めるには、どこからどう通っても公爵領を通る他に無い。公爵は“黒”だ」
ロンドベール公爵領は王都の西側を掠める位置に有る。
ホフマン伯爵領とゼルボー伯爵領が連なれば、フレイアが断言する通り、空白地が埋まって西部国境地帯からムーア領までのルートが完成する。
手引きする王宮官僚や騎士が居て、配下の衛兵が不正に見逃すのだから王都への出入りに障害は無い。
王都の北側には宰相の領地が有るが、南へ向かうのに北から回り込む意味は無いし、回り込んだところで王都の東側はクローゼリス公爵領と繋累の“保守派”領地が遮っていて南には向かえない。
西部から南部へ向かうのに「わざわざ王都を経由しなくとも」と考えるのが普通なのだが、運ぶ荷が「禁輸品」なのが問題で、南部国境のナーガ川沿岸はカリーク公王国と向き合っているガチガチの“保守派”領地とその繋累だらけで抱き込めないため、ロンドベール領を通って王都を経由する他にルートが作れなかったことは容易に想像できる。
王国の物流は領地の境界を越える度に関所で通行税を支払う必要が有る。
通行税は各領地の重要な収入であり、品物によって税率が変わるので必ず積み荷を確認される。
“中立派”領地と違って“保守派”領地は“融和派”領地を信用していないので、通関文書1枚で関所を素通りなどさせて貰えない。
抱き込めない“保守派”領地を通って積み荷をチェックされる度に「禁輸品」がバレる恐れが生じるのだ。
そんなリスクを何度も冒すぐらいなら、一度だけ関所を越えれば良いウォーレス領を通る方がマシだと判断したのだろう。
最も怖いウォーレス領とはいえ、その、すぐ向こう側が目的地だ。
ルート上の“中立派”領地を抱き込めていれば、リスクが有るのはウォーレス領へ入るときの一度きりで済む。
そのウォーレス領の関所を騙すために、もっともらしい通関文書を捏造する役目を担っていたのがムーア領で、王都から南側の“中立派”を抱き込んで密輸ルートを統括していたのがコーニッツ領というわけだ。
他にルートが作れない以上、ロンドベール公爵領が密輸・密売ルートに加担していたと断定できる。
「サリトガ宰相閣下の余裕は、コレか?」
「余裕―――、と言うのだろうか? サリトガのアレは。儂には達観のように見えるがな」
険しい顔のドネルクが目を細め、宰相との接触が最も多いオーグストは首を捻る。
当の宰相は、事件の発覚以来、「私は知らぬ」と言ったきり、何を語るでも無く、王城の一室で大人しく軟禁状態にあると言う。
「コーニッツ・ムーアの両名が吐かないのは、ロンドベールに繋がるのを恐れてか」
「今日まで“融和派”が排斥されずに勢力を保ってこられたのは、王国が割れるのを恐れた“中立派”が煮え切らなかったせいでもある。だが、“中立派”が犯罪に手を染めたロンドベールを首魁に担いだまま、中立で在り続ける保証は無いだろう。巻き添えを恐れた“中立派”が“保守派”に転べば、“融和派”は、早晩、決定的に追い込まれる」
「“保守派”側に転ばせないために公爵を巻き込んだ、とも考えられるな」
「ロンドベールは神教会に寛容だったな」
ヒト族至上主義を教義とする神教会と対立関係に有る王国内で、神教会が数少ない教会施設を置くことを許しているのがロンドベール領だ。
カリーク公王国の実例も有って神教会を警戒する王家に対する反抗と受け取る貴族家も多いが、彼の家には西方の血が入っており、西方文化に融和的な家柄も有って苦々しく思われながらも黙認されてきた。
王国へ浸透したい神教会にすれば東方進出の橋頭堡である。
公爵家とは臣籍降下した元・王族の家系であり、他国からの内紛工作の標的に使われやすい。
国内分裂で国力が下がればヨシ、王族に近い主要上級貴族家が失脚しても国内が荒れる。
その程度も理解できないお花畑だから王位に就けず臣籍降下したのだが、それが家風と強弁されれば、どこかで「始末」を付ける他ない。
西部方面の治安を預かるハウマンが顔を顰める。
「神教会の生臭坊主どもの考えそうな手だ」
「それはそうと、カレリウス殿下は何処に?」
他国の橋頭堡に使われそうな王族が居たな、と、口には出さずとも分かるタイミングでハロルドが訊いた。