軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

流通阻害無効化作戦 ⑫ ※アンサンブルキャスト面

「はああ。肩が凝った」

「お前は変わらんな。フレイア」

「変わって堪るか」

爵位で言えば公爵家と子爵家だが、地位は同格の騎士団長と特務魔法術師である。

国王の面前だから他者の目に配慮しただけで、同席しているのが国王だけならば、フレイアは、いつも、こんな感じである。

「陛下。その後、妃殿下は?」

「以前よりは少し良くなったが、未だ伏せったままだ」

「そうですか」

ギリッと、ハロルドの奥歯が軋む。

「後で私が顔を見てこよう」

「そうしてやってくれるか。フレイアの顔を見ればアレも喜ぶだろう」

アマリリアの実兄であるドネルクが目元を緩めてフレイアに頭を下げる。

ハロルドにとって仲の良かった従姉弟アマリリアの暗殺未遂は、マークス、ルナリアと、暗殺と暗殺未遂が続いただけに許せないのだろう。

実の姉弟でもなく異性のハロルドでは、心配をすれども、アマリリアが復調してくれなければ顔を見ることさえ出来ない。

さらには、アマリリアは国王オーグストの第2王妃―――、第1王妃が病で崩御された今では正妻である。

夫のオーグストが見舞いを許したとしても王宮が許さず、王妃の醜聞はオーグストの足を引っ張ることになる。

身内の顔を見るのにも周囲の反応を見なければならないのが王宮なのだ。

固く目を瞑ったハロルドが首を振る。どうやら感情を飲み込めたようだ。

ハロルドは声を絞り出した。

「・・・フレイア。頼む」

「気にするな。私がそうしたいだけだ」

片眉を上げてドネルクにおどけた笑みを返し、ハロルドの脇腹を肘で小突く。

表情を緩めて見守っていたオーグストがフレイアを見る。

言動は非常にアレだが、いい女なのだ。

ハロルドの妻レオノーラが病で亡くなった今、後妻としてハロルドと夫婦になってくれれば南部方面は安泰なのだが、ミリアが嫁いで爵位を継がなかった以上はピーシス家の事情が許すまい。

意味の無い思考を頭の端へと追いやったオーグストは話題を変える。

「テレサは、どうしている?」

フレイアがニヤリと口角を引き上げる。

「なかなかのお転婆だぞ。ルナリアとフィオレと三人で、森で暴れ回っている」

「あのテレサが、か」

「森とは―――、まさか、“魔の森”か?」

「他に何が有る? 毎日のようにバイコーンを狩って来るぞ」

フレイアは平然と言い放ち、バルトロイに視線が集まるが、バルトロイは首を振った。

処置なし、と。

たった一言なのに情報が多い。

ハロルドの娘はテレサと同じ歳だったはずだ。

王宮でテレサに付けていた学友の数人とも同じ歳だ。

テレサは何をさせても優秀では有ったが、何をさせても、つまらなそうにしていた、

あの愛娘が、歴戦の騎士でも立ち入るのを尻込みする魔境で、同じ歳の娘たちと共に魔獣狩りに興じていると言う。

どうなっている?

問い詰めたいが衝撃的すぎて言葉が出て来ない。

真っ先に再起動を果たしたドネルクが咳払いをする。

一拍、遅れて、オーグストも再起動する。

今は、驚いている時では無かった。

「報告書は読んだぞ」

「わ、儂もな」

ハロルドとフレイアが静かに頷く。

「バルトロイ。その後、何か変化は?」

「有りません。咎人の追求は、後は王宮にお任せします」

「そうか」

ハウマンが羊皮紙を取り出してローテーブルに拡げる。

「王国の敵」として排除する貴族家を確認し、情報を共有するのだ。

王国全土の領地分けを示した地図の上に、ひとつ一つ、ボードゲームの駒を置く。

800年ほど昔に勇者の一人がもたらしたチェスという対戦ゲームの駒だ。

先ずは、西部国境地帯の主立った“融和派”の領地に駒が置かれる。

駒の数は三つ。

領地内に国境線を擁するアムシェリー侯爵領、ラムレース侯爵領、ポルロッカ伯爵領の3領だ。

古い貴族家では有るが、立地上、この3家には婚姻外交で西方諸国の血も入っていて、調略に落ちやすい下地が有った。

カリーク公王国の離反で大きく領土が失われたとは言え、リテルダニア王国は広大な領土を持つ国だ。

領土の広大さ、1000キロメテルを越える国境線の長さに較べて領地貴族の数が三つというのは、些か少ない。

それは、王家から直接、領地を下賜された貴族家は、王国貴族の実数の3分の1以下でしか無いからだ。

下賜を受けた貴族家も多くは広い領地を直接には統治しきれず、繋累や家臣を代官に置いて委託統治を行う。

その実例の一つがピーシス家で、王家から領地を下賜されたウォーレス家の領地の一部を委託されて、ピーシス家が統治している。

故に、主家・従家の関係が成立する。

主家の推奨を王宮が承認することで、本来の領地を持たない貴族家が生まれる。

主家から委託して貰える領地が無い貴族は、文官や武官として王宮に勤めて恩給を戴いたり、領地貴族に仕えて家禄で生計を立てる。

各領地貴族には王家から賜った領地を守り従家を養う義務が有る。

従家が犯した罪は主家も監督責任を逃れられない。

今回の事件で粛清される貴族家の代わりには、王家への忠誠心が固い貴族家の中から新たな領主が配置されることになるだろう。

ハウマンが王都にも駒を一つ置く。

この会議では参加者は同等に扱われ、相手の肩書きで言葉を飾る必要も無く、国王陛下の要請により本音の意見で遣り取りが行われる。

「王宮貴族では、ハートナー侯爵、ベンテッド伯爵、ポートベール子爵、だったな。後には?」

「西部国境地帯に領地を持つ“融和派”は、全て、奴等の何れかと縁戚関係にある」

「奴等の縁戚関係者は騎士団と近衛にも数人ずつ。その者たちの配下の衛兵が数十人」

「王宮内の文官はアレイオスが今も内偵を進めているが、奴等に便宜を図った痕跡がある者が他にも数人。―――王都周辺の浄化は騎士団で行おう」