作品タイトル不明
流通阻害無効化作戦 ⑦ ※アンサンブルキャスト面
「ううむ・・・。危険は無いのか?」
「無さそうですよ。私も覘いてきましたが、誰も囲いの中に入って居ませんから」
「飼育しているなら、エサが必要なのでは無いのか?」
「水も与えていないようですね」
「エサも水も無しに飼えるものなのか?」
「・・・特にエサが必要なようには見えません。テレサとルナリアが懐かせられないかと、たまに囲いの上から伐った枝葉を放り込んでは居ますが、懐く様子も有りません」
ハインズは首を傾げた。
バイコーンとは、非常に動きが速くて捉えにくい魔獣なのだ。
風の術式を操るらしく、正騎士が数人掛かりで囲んでも反撃を受けることが有る。
いや、待て。
食肉の搬入量が増えているということは、収穫しているはずだ。
「フィオレよ。近付かずに、どうやって獲るのだ?」
「・・・囲いの上から縄を投げて、吊り上げた個体だけを弓で仕留めています」
なるほど、とハインズは頷く。
狭い範囲に閉じ込めてあれば動きの速さを発揮することは無いだろうし、宙に吊り上げてしまえば避けられることも無いから弓で仕留めるのも簡単だろう。
現場を見ていないハインズとマルキオでも、狩りの様子は容易に想像がついた。
興味本位で実験したつもりだったのだろうが、かつてフレイアがやらかした実験の数々に較べれば、かわいいものだ。
誰も近付かず安全性が考慮されているなら叱るほどのことではない。
「危険は無いのだな。今は手に入る兵站が多ければ多いほど良い。ただし、フレイアが帰ったら、しっかりと話し合いなさい」
「・・・はい」
「食肉加工場は気の早い領民が加工場の拡大と新規参入を始めていますから、加工能力にもまだまだ余裕が有りますよ。加工場の件もフィオレが相談に乗ったのだったわね」
「だ、そうよ?」
ハインズを見るセリーナがにんまりと笑っている。
シェリアの補足が入ってハインズに戻してきたのは、「この話を早く終わらせろ」という意味だろう。
魔獣の繁殖だけでも衝撃的だったが、これがセリーナの本題では無いらしい。
「良かろう。どのみち輜重部隊の追加は出す予定だったのだ。兵站の数が揃うなら出発を早めるとしよう」
「・・・ありがとうございます」
要望が通ってフィオレが深く頭を下げる。
笑みを浮かべたセリーナはフィオレを見据えたままだ。
「ねえ、フィオレ」
「・・・は、はい?」
セリーナの視線に気付いたフィオレが動揺を見せる。
まるで、猫に見つかった子ネズミのようだ、とハインズは気の毒になる。
「貴女、王都方面の戦況は、どう動くと見ているの?」
「・・・王都から来た騎士団を見る限り、王都周辺、並びに西部国境方面の戦力の質は、敵も味方もウォーレス領と較べるまでも無いと考えています。お母様たちが本気で掛かれば、“敵と、その後ろに居る連中”は慌てることでしょう。だとしたら、戦力で勝てないのなら送った戦力が丸ごと失われる危険を冒してまで直接的に送らず、搦め手で兵站の調達を阻害しに来るのは確実ではないかと」
ハインズが唸る。
「確実」と来たか。
以前、聞いたときと、フィオレの見解に変化が生じている。
王都騎士団の力量を実際に見て評価を引き下げたことから、フィオレは見解を修正したようだ。
セリーナはこの小さな変化に気付いて参戦してきたらしい。
近頃は何やら熱心に色々と動いていた様子だが、フィオレが魔獣の繁殖実験に手を出したのも、見解の変化から内心の焦りが表れたものだったか。
社交界で鳴らした女帝は人の心の機微を敏感に捉える。
この鋭敏な感受性こそがセリーナを女帝たらしめた。
「質、ね・・・。なかなかに辛辣な評価ねえ。陛下が聞いたら泣きそうだわ」
「いや。王都騎士団の質を基準に王国全体を見回すならば、フィオレの見立ては正しい。儂も、それは感じておった」
「エゼリアたちに、コテンパンにやられて居ったのだったな」
「・・・あの方々もそれを感じている様子で、ピーシーズに教えを請うぐらいですから」
フィオレは困り顔だ。
セリーナがコロコロと笑い、マルキオは溜息を吐く。
ハインズも肩を落とす。
王都騎士団から身を引く前に鍛え上げたのはハインズたちなのだ。
思えば、もう、あれから20年以上も経つ。
「南部地域以外では暫く大きな戦が無かったからな。世代が変われば兵の質も落ちるか。残念なことだ」
「・・・実戦経験ですか。近年にも小国家群での戦争に参加していたのでは?」
記憶を探る仕草を見せたフィオレが小さく首を傾げる。
「あの時の戦は、国境防衛で余裕が無い西部方面からでは無く、他の方面から抽出した戦力を王都が主体となって派遣したものでな。各国から領土的野心を警戒される危険を考えれば、他国への救援など、元から少数しか出せるものでは無いのだよ」
「勇王国の影が見え隠れしていたとは言え、小国連合諸国同士の争いなど、戦の規模も高が知れておるしな」
「・・・そうなのですね」
小さく頷いているフィオレは、ハインズとマルキオから得た情報を咀嚼しているようだ。
フィオレの様子をシェリアが微笑ましそうに見ている。
「王国全体で見ればウォーレス領が特殊なのですよ。カリーク公王国が定期的に攻めて来ましたからね」
ハインズとマルキオが嫌そうな顔をする。