作品タイトル不明
流通阻害無効化作戦 ⑥ ※アンサンブルキャスト面
「フィオレが? 構わん。通せ」
老執事の報告にハインズは書類から目を上げた。
執務室へ招き入れられた小さな人影が一礼し、隣の執務机のマルキオが目を細める。
「・・・お忙しいときに、お邪魔して申しわけありません」
「必要が有ると判断した上でのことであろう?」
「・・・はい」
マルキオの取りなしにニコリと微笑むが、心なしかフィオレの顔には緊張の色が見える。
この少女は賢い娘だ。
そうするとルナリアと約束したためルナリアの前では砕けた話し方をするが、大人を相手にしたときは、しっかりと大人相手の話し方をする。
子供たちに任務を与えて、早、半月近く。
建設作業も含めて進捗は順調だと報告書が上げられていて、ハインズたちも目を通している。
何か新たな問題でも起こったかと身構える。
「で、どうした?」
「・・・あの。お願いがありまして」
「ふむ。言ってみなさい」
「・・・量産を開始した干し肉の完成品が納入され始めています。半分は領内に備蓄するとして、もう半分を岩塩と併せて前線のお母様たちに送りたいのです」
僅かな逡巡を見せた後、口にしたのは、母親への支援の要望だった。
マルキオは目尻を下げるが、ハインズは思い出す。
フィオレが自ら要望を申し出るときは、何らかの考えが有って行動を起こすことが多い。
そのつもりで問いを投げてみることにした。
「もう送るのか?」
「・・・輜重部隊の速度では王都に到着するまで10日近く掛かると聞きました。そのうち届く予定、ではなく、すでに手元に有れば、お母様たちの助けになると思うのです」
「ふむ・・・。最初の戦略から変わってくる、と?」
「安心材料は特に、明確にしておきたいもの、では有るな」
そう来たか、とハインズは唸る。
単なる支援ではなく、戦略カードとしての支援だろう。
ハロルドたちの出撃後に聞かされた塩と干し肉の話だ。
要点をまとめてハロルドたちにも手紙で報せてあるが、どう有ってもフィオレは敵方の兵站調達阻害を無効化したいらしい。
領内の全体像を取り纏めているシェリアへと目を移す。
「開拓計画の進捗は、どうだ?」
「防衛拠点自体は使用に耐えうる状況で、岩塩の採掘は順調に進んでいますよ」
「崖の下は、であろう? 崖の上の防衛施設はどうなっている?」
「・・・建設部隊の方の話では、崖上は防御壁の構築だけなので、あと数日で短期的使用には支障がない程度には出来るそうです」
順調以上の成果だ。
14日間の作戦計画に対して2日間の繰り上げで、12日間で最低限の防衛体制が完成するらしい。
マルキオが安堵の息を吐く。
突貫も突貫だが、実戦経験豊富なウォーレス領の工作兵が見積もりを誤るとは思えない。
ナーガ川河畔への防衛戦力の再配置も余裕を持って間に合わせられる。
「やれやれ。この息が詰まる状況も、終わりが見えてきたな」
「岩塩の採掘量は、どの程度を見込めそうだ?」
「例年の四半期分の輸入量に近いほど採れています。今までに蓄えていた備蓄分も有りますから、半分と言わず、採掘分を前線に送っても問題は無いと思いますよ」
「この短期間でか。かなり有望な鉱床だったようだな」
小さな功労者へ目を戻すと、ニコリと控え目な笑みを返してきた。
「・・・鉱山技師は、領内の需要を満たす程度なら数十年は採掘できそうだと」
「ほう。それは良い報せだ」
「干し肉の増産も可能なのよね?」
静観する構えだったセリーナが参戦してきた。
何か思うところが有ったようだ。
「・・・はい。明日には伐採作業が終わりますから、私たちは木の根の撤去作業の手伝いと並行してワナ猟の拡大が可能です。恐らくですが、ワナを増設するだけ獲れるかと」
バイコーンは魔獣だ。
野生動物よりも強いせいか魔獣は警戒心が薄い傾向がある。
北方で生態環境に変化が有ったのか、南方のウォーレスでも魔獣の南下傾向が見られていて、干し肉生産は魔獣被害の抑制を試みる個体数の間引きにも貢献している。
「そう言えば、フィオレ。貴女、採掘場でバイコーンを繁殖させていると聞いたわよ?」
「繁殖だと? 魔獣をか」
セリーナが投げ込んだ発言にフィオレは小さくなり、ハインズとマルキオは目を剥く。
「・・・あれは、迷い込んできた個体を放置してみただけで、繁殖させているわけでは」
「でも、増えているのでしょう?」
「・・・はい。囲ってあるだけで、特に何もしていないのに、勝手に増えています」
「それは不思議ねえ。道理で食肉の搬入量が、どんどん増えているわけだわ」
セリーナが上品に笑い、ハインズたちを見遣る。
採掘場で囲ってあるバイコーンは順調に増殖しているし、狩猟の成果も順調に増え続けていて、今日、食肉加工場へ搬入されたバイコーンの数は3桁に乗ったらしい。
結果だけ見れば、悪い状況では無い。
シェリアも知っていた様子でフィオレを咎める気は無いようだ。
マルキオが唸る。