作品タイトル不明
流通阻害無効化作戦 ⑤
「何なんです? 今の話」
「・・・思い付いたから、加工場に戻るよ」
細けぇこたぁ気にすんな!
善は急げだよ!
帰ったと思ったら1時間もせずに戻って来た私に、今度は休憩中だったらしいオジサンたちが怪訝な目を向けてくる。代表して親方さんが声を掛けてきた。
「で。どうしたんですかい?」
「・・・人手の目処が立ったから、戻って来た」
「えっ? もう、ですかい?」
親方さんが目を丸くして、お仕事中で、さっきの話を聞いていなかった職人さんたちは話が見えなくて首を傾げる。
「・・・加工場の作業を分業制にして欲しいんだよ」
「分業? 工程で作業場を―――、いや、人を分けるって意味ですかい?」
さすが親方。
職人さんたちは首を傾げたままだけど、親方さんは普段から人の差配をしている経営者だけ有って理解が早い。
ピッと指す。
「・・・それ。枝肉から肉を切り出したり掃除したりの技術が必要な作業や、漬け込んだ重い樽を運んだりの重労働じゃなければ、誰でも出来る。・・・違う?」
「そりゃあ、まあ。そうですね」
ふむ? 返事を濁したか。
私がコツを教えるように言われたときみたいな産業スパイ的な心配、というよりも、リスクとメリットのバランスまで理解できていない感じかな?
「・・・人手が足りなくて滞ってる工程に、余裕が有る工程の人手を回せば、滞りも解消できるよね? 加工場全体の作業が止まらなくなるよ」
「「「「「―――!!」」」」」
困惑顔で互いに顔を見合わせていた親方と職人さんたちが、バッと一斉に私を見る。
もう一押しかな。
「・・・限られた範囲の仕事だから技術を盗まれることも無いし、限定的で単純な仕事なら、一人前に育つのも早い」
「「「「「―――!?」」」」」
「・・・どう?」
落ちたな、って手応えは有ったけど、小さく首を傾げて決断を要求する。
飛び付かなかったのは、徒弟制が一般的な産業構造だから弟子じゃない人間にコツを教えるのに抵抗が有ったか、目先の仕事に追われて人を育てる余裕も無かったかの、どちらかだな、これは。
「儂らは、どうすれば良いんですかい?」
「・・・自分でも働けそうか見学の人たちが来るから、上手く雇って働かせて。それと、他所の加工場の親方と付き合いが有るなら、この話を急ぎで伝えてあげて」
「承知しやした。任せて置いてくだせえ」
「・・・何か問題が有ったら、領主館へ報せてね」
「助かりやしたぜ。お嬢さん」
ニッと気さくな笑みを浮かべた親方さんが頭を下げる。
一仕事を終えた私はピーシーズを引き連れて領主館で待つみんなの下へ帰還した。
数日後、家事のプロフェッショナルなオバチャンたちを大勢捕獲した食肉加工場は、ボトルネックだった人手の解消を受けて生産性が飛躍的に向上し、快調に生産物を爆増させていると、干し肉の納品に来た親方さんからの報告を受けた。
この食肉加工場の人手不足解消が予想していなかった副次効果を生んで、後日、お母様たちの大きな助けになるとは、この時点の私は気付いていなかったのだけど、結果良ければ全てヨシだ。
獲っても獲っても食肉加工場が引き取ってくれると有って、新たに猟師になる人が増えているらしい。
成長期を過ぎても魔力量を増やせると聞いて、ワナ猟の教導を受けたがる領軍の騎士様や兵士さんが増えているらしいし、採掘場のシカも順調に増殖しているし、岩塩の採掘は予想量以上に採れている。
これで下準備は出来たかな。
要求を通すには、それなりの確実性か目に見える成果が無いとプレゼンテーションを打っても説得力が無いからね。
判断指標となる統計データが無いなら実績の積み上げ一択だ。
私が成果を焦っていた理由が、これ。
大切な人たちを守るためなら私は何だってやる。