軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

流通阻害無効化作戦 ④

レティアの町の南門と北門を繋ぐ大通りを、領主館を行き過ぎて少し行くと、大通りよりは狭いけど少し広めの横道と交差する。

この横道を少し奥へ進むと市場が開かれている。

レティアの町は大きな町ではあるけれど、町の大きさに較べて平時の人口は3万人と多くない。

今は農繁期の終わりで領内の各地から収穫物が多く持ち込まれていて、季節的に日中の人の数は多いらしい。

道幅100メートルも有る大通りの半分以下でも、市場が開かれている通りの道幅は40メートルぐらい有る。

買った物を詰め込んでいるので有ろう大きな麻袋を抱えて行き交う人々の数は、まあまあ多い。

人が多い時間帯は馬車の進入を規制しているのか歩行者の姿しか見当たらなくて、通勤時間帯の駅周辺のような「人混み」というほど混んではいないけど、「〇〇フェア」とか小さな催し物会場程度の人は来ているように見える。

こっちの世界の市場は建物内の常設店舗ではなく、運搬用の木箱を並べた上に日除けの天幕を張った露天店舗が基本らしい。

1店舗当たりの占有面積もそこそこ広くて、背後の住居建物の壁から3メートル程まで張り出した位置で店舗の軒先が揃っていて、間口は4メートルぐらい有る。

串焼きやスープを出す飲食系の店舗でも同じだけのスペースを取っているから、出店店舗の大きさに規定でも決められているのだろう。

ざっと眺めた感じ、一番多いのは作物系の食材を並べている店で、乾物の店も多い。

衣類や鍋釜の調理道具、武器防具を並べている店もある。

作物類は、麦類や豆類、芋類に根菜類が多いかな。

果物は林檎と葡萄が大半で、よく分からない品種がいくつか。

日本のように柑橘類や熱帯系南国フルーツは見当たらない。

林檎や葡萄は温帯気候までなら、結構、どこでも栽培できるからね。

ウォーレス領みたいに乾燥気味で温暖な気候だと問題無く育つはず。

ウォーレス家の紋章に林檎が描かれていたから予想はしていたけど、リンゴ果汁を発酵させたシードル酒やブドウ果汁を発酵させて作るワインはウォーレス領の特産品の一つらしい。

葉野菜類は特に分かりやすいけど、地球で一般的だった品種とは違った品種ばかりだね。

栽培用に品種改良されたものではなく野生種に近い品種なのでは無いだろうか。

目に付く店で興味が湧いたものを覗き込むと、気を利かせたオーリアちゃんが、「これは何?」、「どう使うの?」、「値段は幾ら?」と私が知りたい情報を先回りしてお店の人に質問してくれる。

よく出来たエエ子やぁ。

お母様たちの出兵時に小麦の相場価格を少しだけ聞いたけど、食品類の相場価格は日本の物価感覚よりも、かなり安目かな。

並べた木箱だけでなく天幕の支柱の間に張った紐に様々な乾物を吊しているお店の前で足を止める。

吊して水分を抜いただけの干し野菜が大半だけど、塩漬け肉のような半生の食材も吊されている。

食肉加工場で最初に見た、塊のまましっかりと塩に漬け込まれたブロック肉だ。

燻製されたベーコンのような肉塊もある。

今のところ、流通に問題が有るようには見えないね。

「・・・うーん」

「どうしたんだい? お嬢ちゃん」

お客さんらしいおばさんと世間話をしていたお店のおばさんが声を掛けてきたので、思い切って聞いてみるか。

「・・・最近で、何か困ったことって有る?」

「困ったことかい?」

おばさんたちが顔を見合わせる。

「・・・うん。何かが手に入らなくなったとか、値上がりしたとか」

「ああ。・・・そうだねえ。今は戦時だから全体的に値段は上がり気味だけどね。隣領では塩の値段が上がってる、とは聞いたね。ウチの領は領主様が塩を卸してくださっているから安定してるけど、他所は入荷しなくなってるみたいだよ。肉の値段は、誰かさんたちのお陰で平時と変っていないよ。後は、小麦が売れないって話さね」

おばさんたちはアリアナさんたちを見て、私たちが何者かを察したようだ。

一つ頷いて、私が聞きたかった広い意味での「市況」を教えてくれる。

「・・・隣領って、どっちの隣領?」

「西の方だね」

ウォーレス領の南側はカリーク公王国で、物流は有るけど、そんなに多くの流通は無い。

ウォーレス領の東側は“魔の森”だから、「隣領」と言えば西か北しか無いんだけどね。

「・・・北の方は?」

「特には何も聞かないね」

「・・・ふむふむ」

「小麦は現金収入になるから農家は売れないと困るんだけどねえ」

予想通り、西部国境地帯方面で流通を妨害されてるって感じかな?

取り立てて豊作だと聞いているわけでも無いのに輸出品の小麦が余っている市況が、それを示している。

お母様たちへの支援を急いだ方が良さそう。

「・・・お給金が貰える働き口が有ったら、働きたい人は居そう?」

「どうだろうねえ。農繁期が終われば農家は手が空くもんだけど、歳が行くと重労働は体が付いて行かないから」

「まだまだ元気な男らは採掘場や狩猟の仕事が増えたってんで景気が良いのが増えたけど、あたしらも荷運びはキツくなったからねえ」

自分の肩を揉みながら、おばさんたちはカラカラと笑う。

「・・・重労働じゃなければ、働きたい人は居るってこと?」

「そんな仕事が有るのかい?」

「・・・うん」

目を丸くしたおばさんたちが顔を見合わせる。

お? 食い付いたかな?

「どんな仕事だい?」

「・・・食肉加工場でお肉を小さく切ったり、塩をまぶしたり、樽に詰めたり。重い物を運んだりの重労働は、力持ちのおじさんたちにやって貰う」

「ふぅん? 子供でも出来そうな仕事だね」

「・・・お年寄りでも出来ると思うよ」

「良いね。ウチの婆さんでも働けるなら喜ぶよ」

「・・・働けそうかどうか、一度、加工場へ見学に行くと良いよ。加工場の親方さんには私から話しておく」

「あたしも知り合いに声を掛けてあげるよ」

「・・・お願い。困ったことが有ったら領主館に報せて」

「あいよ。任しときな」

気さくなおばさんたちに手を振って分かれる。

急ぎの大事なお仕事が出来ちゃったな。

やってやろうじゃないの、工場制手工業。

怪訝な目で見てくる案内役のオーリアちゃんを回れ右させて背中を押す。