軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

流通阻害無効化作戦 ③

「・・・人手が足りない?」

干し肉の量産状況はどうなっているのかと作業の帰りに食肉加工場へ視察に寄ってみたら、お母様たちと来たときに相手をしてくれた(仮称)親方さんが、あのときの言葉通り快く迎え入れてくれた。

私が教えた製法で加工中の干し肉は順調に仕上がって行っている様子で、早く乾いた物を試食してみると悪くない出来だった。

「親方」なんだからサッパリした性質の豪快な人だとばかり勝手に想像していたというか、決めつけていたんだけど、会話の中で言いにくそうに言い出したのが、人手―――、正確には「職人が足りない」だ。

「猟師と兼業していたヤツらは猟が忙しくなっちまって、職人を休業するしか無えってんで、その・・・、獲物の納入数自体が増えてますんで」

「・・・ここの他に加工場は無いの?」

「有りますぜ。そっちも手一杯でさぁ」

「・・・そうなんだ」

お前に出来ないなら他所に頼むぞ、と受け取られ兼ねない質問にも、誤解することなく意図を汲んでくれて、困った髭モジャの顔で眉尻を下げる。

声の大きそうな大男だから苦手かも、と、少し警戒していたんだけど、このオジサンは女の子の扱いに慣れているというか、下心なく本当に女の子の扱いに慣れているのではないだろうか。

娘さんでも居るのかな。

オジサンに関するどうでも良い観察よりも、大事なのは生産状況だ。

「新しい加工場を開こうってヤツらが何人か居て、ウチも加工場を拡張するんですが、とにかく職人が足りねぇんです」

「・・・新しい加工場にも職人を持って行かれるから、余計に人が足りない、と?」

「よくお分かりで。その通りでさぁ」

言い分を子供に理解して貰えるか? とか不安を抱いていたのか、少し先回りして見せたら、親方さんは安心したように頷いた。

「・・・そっか。ちょっと考えてみるよ」

「お願いしやす。―――おっと」

何か問題が有ったのか、向こうの方で作業していたオジサンが親方さんを呼んでいる。

どうやら、「仮称」ではなく本当に「親方」さんだったらしい。

晴れて「仮称」が取れたがチラリと私の顔色を見るので、親方さんに「行っていいよ」と意味を込めて頷く。

「・・・少し見学して行って良い? 邪魔にならないようにするから」

「どうぞ。構いやせんぜ」

行きかけた親方さんの背中に声を掛けると、親方さんはニッと笑って許可をくれた。

お言葉に甘えて、ピーシーズを引き連れた私は加工場内の作業をあちこち見て回る。

「・・・まとめて作業して、次の工程へ・・・か」

足りないのが「職人」って聞いたときに、そうじゃないかと思ってたけど、これは家内制手工業の延長線だ。

ここの加工場では、兼業猟師が搬入した獲物の皮剥ぎと内臓処理まで行って、枝肉状態で納品を受ける。

加工場の職人は、担当した枝肉に対して漬け込みまでの全ての加工工程を一人で通して行っているようだ。

漬け上がったお肉の塩を落として干す作業は、手が空いた職人さんたちがまとめて行っているらしい。

職人一人当たりが一度に担当する量が多くて、広い加工場で数十人が働いているけど、森で干し肉を作っていた私が数十人でバラバラに働いているのと変わらない。

身長の関係で作業場所が作業台か地べたかの違いは有るけど、作業そのものに大きな差違は見受けられない。

「・・・力仕事は多いけど、全部がそうではない、よね」

家内制手工業がどうとかって工業の発展形態を習ったのは小学校だっけ?

製造工程の分業・専業化が進んで問屋制手工業になるんだっけ。

問屋制でも分業した各工程の実態は専業加工場の中での家内制手工業で、手工業なのは変わらない。

加工品を次の工程の専業加工場へ移動・運搬する無駄を省くために、複数工程の専業加工場を一つの大きな箱の中に詰め込んだのが工場制手工業。

いわゆるマニファクチャーだ。

私が目指すのなら問屋制を素っ飛ばして、一気に工場制手工業だろうね。

どの手法が良い・悪いって話じゃなく、これは規模の問題。

大量生産に向いているのが、加工工程を複数に分業して単一工程に熟達した専業の「工員」から「工員」へと順に受け渡す、工場制手工業ってだけ。

問屋制手工業の時代に横行したという「加工ロス」という名目の着服・横領が防げて、運搬の労力や遅延ロスが大幅に省ける。

さらに、単一工程だから覚えることが少なくて、全くの素人でも一人前の「工員」に育つのが早いという利点が有る。

工場制に問題点が有るとすれば、「工員」が単一工程しか知らないから、どこかの工程で一つでも問題が起こって作業が止まれば、加工場の全てがストップしてしまうことだろうか。

大量生産には大量の人間が要る。

「・・・人手かぁ」

「職人」でも「工員」でも人は人。

どこかに余った人手は落ちて居ないものだろうか。

親方さんにお 暇(いとま) の挨拶をして、ついてだからと前から見てみたかった市場へ連れて行って貰う。

案内役は孤児院でお買い物のお手伝いを任されていた経験を持つオーリアちゃんだ。

テレサとルナリアも来たがったけど、王都の騎士様が付いて来たら、ありのままの市況なんて見られないし、護衛がピーシーズだけでは私たち3人を守るのが人数的に厳しいということで、護衛対象の人数を絞る意味で私たちの視察は順番に行かせて貰えることになった。

今の状況が続くなら、ピーシーズの増員を検討しなきゃいけないかも。

安全性を証明する意味の「鉱山のカナリア」として、視察のトップバッターは私。

私・ルナリア・テレサ、と、段階的に護衛対象の重要度を上げていくことでピーシーズの護衛経験値も引き上げていく。

ピーシーズの面々はピーシス領育ちばかりでレティアの町の地理に詳しいわけでは無いけれど、アリアナさんのように爵位持ちの家のお嬢様よりも市井の状況に詳しくて、一般領民とのコミュニケーションの取り方が一番上手いのは、猟師さんたちとの遣り取りを見ていて把握していた。

オーリアちゃんは大事なポイントをしっかり押さえた上で話すから、二度手間が無い感じかな。

何にでも興味を持つクラリカさんとメイリスさんも猟師さんとの遣り取りに首を突っ込んでいて、この2人は、結構、誰とでも直ぐに仲良くなる。

かわいい上に話し上手なものだから、オジサン猟師さんたちのウケは真面目なオーリアちゃんよりもクラリカさんたちの方が良かったようだ。