軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

流通阻害無効化作戦 ②

「・・・何だコレ?」

「増えてるわね!」

「魔獣って懐かないのかしら」

テレサ、そうじゃない。

ツッコむべきか迷ったけど、王都の騎士様たちが護衛に付いているので、ツッコまずに置いておく。

馴れるなら乗ってみたくなる気持ちは分かるけどね。

ルナリアもテレサと同じように考えているのは、目を輝かせている様子から分かる。

「・・・夜の内に生んだ―――、って、わけじゃ無さそうだけど」

私たちは今、採掘拠点建設現場の外壁から内側へと突き出して建てられている「防衛施設の作りかけ」を、みんなで工事用の仮設足場の上から覗き込んでいる。

建築途中で出入口が塞がれていて囲いだけが出来上がっている状態の「柵」みたいになっているんだけど、その「柵」―――、というか、囲いの中に、居るんだよ。

シカが。

どこから、どうやって入り込んだのか分からないけど、立派な角を生やした牡ジカが「昨日は1頭だけ」居て、早くレティアの町へ帰らないと日が暮れそうな時間だったから処分を翌日に回して帰還したんだけど、今朝、来てみたら「2頭に増えて」いた。

しかも、仔ジカが。

腐っても魔獣で、雑食性らしいので、工作兵や輜重兵が討伐するには荷が重いそうで、狩猟慣れしている私たちに討伐処理の依頼が回って来た。

伐採作業の方は、慣れが手伝って快調に進み、予定よりも数日の繰り上げで持ち場の作業を終えられそうだよ。

「・・・シカって 牡(オス) でも仔を生むんだ?」

「生むのは雌でしょ!」

「・・・だよねえ」

一先ずの防壁が出来上がっている採掘場には、既に領軍の兵士が交代で常駐していて、一定間隔で夜間の見回りも行われていると聞いている。

この、バイコーンと呼ばれる魔獣は夜行性だと認識されているそうなのだけれど、私は日中の姿しか見たことが無いし、眠っている姿を見たことも無い。

今まで散々に獲ってきた獲物ではあるのだけれど、いつワナに掛かっているのかも知らない。

ただ、前日の日中に仕掛けたワナに翌朝掛かっているのだから「夜中の内に掛かっているのだろう」ぐらいにしか考えていなかったのだが、出入口も無い囲いの中に、いつの間にか降って湧いていたという。

この囲いはキャットウォーク的に防衛戦の高所足場にも使われる建物の一部になる予定の壁の一部らしくて、採掘場の外周をぐるりと囲む防御壁よりは僅かに背丈が低いものの、優に15メートルを超える高さがある。

囲いの広さはバレーボールやテニスのコートぐらいかな。

高さがあるから上から覘くと穴ぼこの底みたいに見える。

逃げられる出口もエサも無いのに興奮して暴れるわけでも無く、牡ジカは悠々と穴ぼこの底を徘徊している。

そういえば、このシカ、ワナに掛かっているときも暴れ回って居るのを見たことも無いね。

トドメを刺すのに攻撃したら暴れるけど、攻撃するまでは大人しいよね。

でも、夜の森で遭遇すると、しっかり攻撃してくるそうで、それなりに危険な魔獣だと教わっている。

「ジギル博士とハイド氏」みたいに昼と夜で別物に変貌するんだろうか?

お肉が美味しいから気にして居なかったけど魔獣の生態は本当によく分からん。

「処理しますか?」

「・・・あ。ちょっと待って」

思考の旅に出ていたらしい私が穴ぼこに落ちないように支えてくれていたらしいオーリアちゃんが、私の顔を覗き込み、弓が得意なナンナちゃんが、そわそわしつつ討伐指示を待っている。

一応、工事現場なので、現場監督らしい兵士さんが足場の上まで付き合ってくれているので、現場監督さんに聞いてみる。

「・・・この囲いって、何を建ててるの?」

「岩塩の仮置き倉庫ですよ。運搬用の木箱に詰める作業もする予定ですが。出入口も無いのに、どうやって入り込んだんですかねぇ」

「・・・跳んで来た、のかな?」

高さがある、とはいえ、天井が無い状態だから上から飛び込むなら入れるはず。

私自身がそんな仮説を信じて居ないし、現場監督さんも信じなかったらしく軽く流された。

「かも知れないですね。処理できそうですか?」

「・・・問題無いと思うけど、ちょっと勿体ないかな、って」

「勿体ない、ですか?」

首を傾げる現場監督さんに、穴ぼこの底を指す。

「・・・うん。試してみたいことがあって。あのシカ、どこかに暫く置いておける場所は無いかな」

「場所を移すんですか? 置いておくだけなら、あのままじゃ駄目なんですか?」

「・・・あのままで良いの?」

「まだ囲っただけですからね。場所も建材も余ってますから、仮置き倉庫は隣りに建て直しても構いませんよ」

「・・・ホント? じゃあ、お願い」

「了解しました」

ニコッと笑った現場監督さんは、仕事に戻るために足場を降りていった。

「どうするんですか?」

「・・・どこまで増えるのかな、って。獲っても獲っても減らないし」

「確かに、気になりますね」

「・・・そういうわけで、暫く放置する方向で」

弓で射たそうにしているナンナちゃんに念押ししたら、残念そうに弓を仕舞った。

「ねえ、フィオレ?」

「・・・何?」

掛けられた声に振り向くと、落ちないように乗馬パンツの腰をアリアナさんに掴まれているルナリアが、うずうずしているのが丸わかりな顔で鼻息を荒くしている。

「エサ、あげて良い?」

「餌付け! わたくしもしてみたいですわ!」

元気に手を挙げているテレサの腰には、おっかなびっくりで足場の上まで頑張って付いて来たレーテさんがしっかりと抱き付いて、転落防止用の重石の役目を果たしている。

「・・・良いけど、アレ、何を食べるんだろう?」

「知らないわ!」

「・・・だよね。一応、シカだし、切り落とした枝でも放り込んでみる?」

「そうしましょう!」

テンション、アゲアゲの二人との遣り取りで方針が決まったと見て取ったマーミナさんとマーリカさんが、スルスルと足場を降りていく。

身体強化に磨きが掛かった獣人族の二人の身体能力はピーシーズの中でも群を抜いている。

二人って犬―――、ゲフンゲフン、狼系だったよね?

猿系じゃなかったはず。

落とした枝葉の仮置き場から新しそうな葉が付いた枝を取ってきたマーミナさんとマーリカさんが、それぞれにテレサとルナリアに手渡している。

ポイポイと放り込まれた枝葉を牡ジカがバリバリと食い千切っている。

モシャモシャじゃないよ。

バリバリだよ。

「あ! 食べたわ!」

「本当! 食べていますわ!」

食うんかい! と、ツッコミそうになったけど、二人が喜んでるから良いか。

「・・・中に入っちゃ駄目だよ。シカに見えても魔獣だからね?」

「「はーい!」」

元気にお返事するテレサとルナリアに、ほっこりする。

翌朝、仔ジカが立派な雌ジカに育っていた上に、なぜかシカの数は6頭に増えていた。

魔獣の生態って謎だなあ。

「生態」と言って良いのか?

一応、お婆様には報告しておこう。