軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

領有宣言 ⑮ ※セリーナ面

「どうだった?」

床机に腰掛けて現場の様子を眺めていたセリーナの下へシェリアが戻って来た。

王都騎士団の手前、説教はしたが、セリーナにフィオレを咎める意志は無い。

小さなミスぐらいでグダグダ言っていては、ウォーレス領では生きて行けない。

有用なものは挑戦から生まれるものだと理解しているし、“辺境”とは、そういう場所なのだ。

セリーナの考えを理解しているシェリアも、“過ぎたこと”には触れない。

「使えるわね。伐採ペースがかなり早いから、建設計画の段取りを組み直す必要が有るわ」

「具体的には?」

「伐採から製材までで1本当たり30分間ほど。交互に休憩を取りながらだと、一日中でも作業は可能だそうよ」

「1時間あたり2本? 交互に、ということは、二人一組で作業させるのね?」

「落とした枝葉が邪魔になるから、一組あたりに2~3人の人員を付けたいわね。恐らく、作業に慣れれば、まだペースは上がるわよ」

「例の術式を習得しているのはテレサの侍女まで含めて12人だったかしら」

「今のところはね。強い術式が使えるようになったのが嬉しいみたいで、文官のはずの侍女まで楽しそうに木を伐っていたわ」

「あらあら。この際、便利に使わせて貰いましょうか」

クスクスと苦笑が漏れる。

セリーナも通った道だから侍女の気持ちは理解できるが、荒事に慣れていない貴族令嬢までフィオレの勢いに染まるとは。

笑ってはいるが、セリーナの頭脳は使える駒を、どう動かすか、どう利用して影響を及ぼすかを測り始めている。

魔法術式の素養を持つ貴族令嬢を飾り立てるだけの花と見る社交界の風潮を理解していても、セリーナは否定的に考えている。

令嬢でも最前線で働く能力を持つ女性が居る現実をフレイアという実例が証明したが、セリーナ自身、身に覚えが在りすぎる不条理に、有用な人的資源を腐らせている王国の現状を苦々しく思ってきた。

強く、賢く、美しい女性像は、何も、ウォーレス領だけで成立するものではないのだ。

あの侍女はテレサの影響力を王都に広く及ぼす広告塔の一つに成り得る。

せいぜい、しっかりと鍛えて王都へ帰すとしよう。

テレサによる王国の安定統治はウォーレス領の繁栄にも繋がるのだ。

ドレスこそ着ていないが、かつては王国の社交界を魅了し、王国の統治を裏側から誘導してきた女帝の知謀は、今も失われていない。

続いてシェリアの口から出た報告に現実へと引き戻されてセリーナの笑みも消える。

「実働が6時間としても、1日の丸太材生産量は72本よ。建設作業を急がせないと丸太材で森が埋まっちゃうわ」

「伐採だけでなく、粗方の製材まで終わらせて10日で720本・・・? さすがに早すぎるわね」

ハインズたちの前でフィオレが試算したのは「伐採のみ」で、「製材まで」の作業時間で試算するなら、領軍に作業させれば2倍―――、いや、3倍の時間が必要だろうか。

「問題はね、殿下の護衛騎士まで伐採作業を手伝わせろと言ってきているのよ」

「驚いたわね。もうあの魔法を習得した騎士が居るの?」

「習得したと言えるかは、まだ微妙ね。勤務時間外の騎士にピーシーズが教えて欲しいとせがまれて、フィオレが許可したらしいわ」

セリーナは首を傾げた。

「ピーシス家として、良いの? それ」

「フレイアも了承しているわ。鉱床と同じで、どうせ情報は漏れるから、それなら殿下の味方が早く強くなる方が良い、だそうよ」

「割り切ってるわねえ。狩猟技術も積極的に広げているみたいだし、新しい術式を生み出した者としての独占欲は無いのね」

ウォーレス領軍内部で流れている噂から王都に情報が漏れるのが前提ではある。

しかし、有用な術式を生み出した魔法術師の名は歴史に刻まれて、語り継がれることも有るのだ。

栄誉と名声とは影響力そのもので有り、様々な場面で交渉を有利に運ぶための武器でもある。

社交界という戦場で戦っていたセリーナの視点では、得ようと思っても得られない強力な武器を自ら投げ棄てるようなものだ。

呆れた様子のセリーナの表情からその心理を読み取ったシェリアは目を細める。

「率先して殿下やピーシーズに指南しているぐらいだから、本心で言っているのよ。狩猟の方も、猟師たちが本格的に増員したいと言ってきたから許可したわ」

「そんなに色々と戦力の増強を急いで、あの子、何と戦うつもり?」

「フレイアの力になりたいみたいね。あとは、勇王じゃない? 殿下とルナリアと三人で倒そうって約束したようだし。レティアへ攻めてくる公王国も気に入らないみたいよ?」

「頼もしいことね。ルナリアとフレイアは、よくあんな子を捕まえてきたものだわ」

セリーナは首を振る。

敵対勢力に居れば真っ先に潰しておくべき危険人物だが、完全に取り込んでいるなら、これほど心強いものは無い。

王国とウォーレス領の未来を考えるならば、フィオレは決して手放してはならないカードだ。

つくづく、フレイアの眼力と英断に頭がさがる。

例の「口直し用」の酒気を飛ばしたワインをカップに注いだシェリアがセリーナに手渡してきた。

「派遣予定の建設部隊は中隊規模だったわよね?」

「工作兵2個小隊と輜重兵2個小隊で200人の予定だったはずだけれど」

「輜重を減らして、工作の比率を増やしましょうか」

「輜重兵を増やすのでは無く? 丸太材の供給が早いから運搬を急ぐのよね?」

首を傾げるセリーナにシェリアは首を振る。

「工作兵でも運搬ぐらい出来るでしょうに。工程を前倒しに出来るなら、した方が良いわ。上手く行けば、収穫期が終わる前に領有宣言まで持ち込めるかもしれないもの」

「半月で開拓を終えられるの?」

「突貫も突貫だけれどね。領軍は拠点建設に集中すれば可能じゃないかしら」

採掘場前の建設計画地を更地にしてしまえば、そこに子供たちが居る必要は無い。

伐採・製材作業と運搬・建設作業を完全に分業して、前者が突出している現状、後者を増員すれば大幅な工期短縮も不可能ではない。

「あの子たちを信じて居るのね」

「そりゃあね。子供たちが頑張っているのだから、大人が不甲斐なくては話にならないわ」

カップに口を付ける手前でセリーナはシェリアを見た。その目は怜悧な光を湛えている。

「勝負どころ、かしら?」

「私は、そう思うわ」

社交界で策謀を練るときに、何度も繰り返してきたシェリアとの遣り取り。

「そう。じゃあ、私ももう一踏ん張りしようかしらね」

今度こそカップに口を付けたセリーナの口角は楽しげに上がっていた。