作品タイトル不明
領有宣言 ⑭
上側の枝葉を落としきった巨木を坂道状に土魔法で持ち上げると、ゴロンと半回転して枝葉が残った面が上を向く。
「ふぅん・・・。枕木を噛ませるよりも早いわね。落とした枝を退ける人員を二人も付ければ20分間ぐらいで1本を丸太材に加工できそうだわ」
お婆様の目は、丸太材になって転がっている6本の巨木へと向いている。
昼食前に加工を終えていた丸太材は、最初の騒ぎになった1本を含めて私が3本とアリアナさんが2本。
お手本を見たアリアナさんは自分でもやってみて得た感覚と所見を私にフィードバックし、アリアナさんの意見を元に改善を試みた私も情報をフィードバックする。
何度か繰り返せば、それなりに注意点が洗い出されて安定して作業できるようになる。
これだけ試行錯誤すればアリアナさんの風ジェットカッター魔法も安定したもので、発動時間が私よりも少しだけ遅いぐらいで扱いが熟達してきている。
魔法も作業自体もお婆様が目にした時点でブラッシュアップされていたのだから物言いが付くことも無かった。
作業が終わったと見て取ったみんなが、ワッと集まって土魔法で持ち上がった斜面と丸太材を矯めつ眇めつし始めた。
新しく追加された 要素(ファクター) は土魔法の斜面だけで、難しい作業手順では無いからね。
みんな土魔法は使えるし、みんななら、すぐに導入できるはず。
「これって、一人当たりの作業時間は、どのぐらいのなのかしら? 休憩は取ってる?」
「交互に休憩を取っています。30分間、作業して、30分間、休憩する感じでしょうか」
「魔力消費は? これだけ一気に術式を使い続ければ疲れるのでは無くて?」
「魔石の魔力を掌握するだけなので、体内の魔力消費は大した量ではなく疲れません」
回答を聞いてお婆様は頷いているけれど、どこか目の焦点が茫洋としているように見えるので、頭の中では猛烈な勢いで何かを計算しているのでは無いだろうか。
「一日中の作業にも耐え得る、と?」
「頭初は精神的に疲れるでしょうが、慣れれば負担は減るはずです」
「そう・・・。段取りを変える必要が有るわね」
アリアナさんの説明に、顎先に指を添えたお婆様が思案している。
丸太材から飛び降りて近付くと、お婆様の呟きが私の耳にも届いた。
「・・・段取り?」
「ええ。私はセリーナと話してくるから、事故が無いように気を付けて進めなさいね」
「・・・はい」
私の頭をさらりと撫でたお婆様は、背を向けて行ってしまった。
アリアナさんと並んでお婆様の背中を見送る。
「問題なし、―――ということで良いのでしょうね」
「・・・たぶんね」
待ち構えているルナリアに頷くと、自分でもやってみたくてウズウズしていたらしいルナリアが元気に拳を突き上げた。
「じゃあ! 始めるわよ!」
「「「「「はい!」」」」」
ピーシーズの一部がルナリアを追って駆けていく。
ルナリアたちの背中を見送ったテレサが、振り返ってグッと拳を握る。
「わたくしたちも行きますわよ!」
「「「「「はい!」」」」」
数人のピーシーズだけでなく、テレサの号令でレーテさんや護衛の騎士様たちまで元気にお返事していたけれど、騎士様たちも作業に加わるんだろうか?
風ジェットカッター魔法を教えて欲しいと言ってくる騎士様が居るとは、何度か報告で聞いていたけど。
その後、どうなったのかまでは報告を聞いてなかったなあ。
「・・・私たちも始めようか」
「「「はい」」」
私のグループに残ったピーシーズは、アリアナさん、オーリアちゃん、ナンナちゃんの3人だね。
ナンナちゃんは午前中も私たちと一緒に居たけど、気配が薄いというか、年齢が近いオーリアちゃんとワンセットでアリアナさんの後ろに付いて来ていても、ナンナちゃんだけ見落としそうになる。
危なそうな気配を敏感に感じ取っている様子で、姿を見落としても、必ず安全圏に居るから安心。
私を心配してくれている様子のオーリアちゃんの方が、私と一緒に土塗れになったり、とばっちりを食らっている気がするので気を付けよう。
「・・・オーリアちゃんとナンナちゃんも、やってみようか」
私とアリアナさんは先行者なので、私とお目付役のオーリアちゃん、アリアナさんとピーシーズ最年少のナンナちゃんがペアになって、すぐ近くで作業に取り掛かる。
「先行者」と言っても人型二足歩行ロボットの中華キャノンじゃないよ。
同時に木を倒すと逃げ場が無くなって危険だから、二つのペアが交互に倒して、交互に転がす。
待ち時間の休憩が増えても作業グループが増えれば作業成果の増殖速度は早い、早い。
午後3時を示す「6の鐘」が鳴る時間帯になってお婆様のレフェリーストップが掛かる頃には、数十本もの丸太材が、あちこちに転がっている状態になっていた。
セリーナ様の指示で丸太材の数をカウントした兵士さんの報告によると、今日1日で私たちが切り倒した木は51本。
丸太材に変わった木は21本だったそうだ。
内訳はルナリアグループが21本の木を伐って6本を丸太材に。
テレサグループが20本の木を伐って5本を丸太材に。
私のグループが10本の木を伐って全部を丸太材に変えた。
この成果の差は風ジェットカッター魔法を使える人数によるものだろうね。
明日からの作業手順を統一すれば、一日にこなせる作業量が読める。
お婆様が説明を聞きながら頭の中で計算していたのは、たぶん、この作業量のことじゃないかな。
熱中してはダメだ、と、お婆様に叱られたけど、結局は撤収時間ギリギリまで熱中してしまったので、ルナリアに書かせるつもりだった報告書はレティアに帰ってからだなあ。
夕食を食べたらバタンキューで寝てしまうだろうから、夕食前に書かせよう。
お爺様たちへの報告は、お婆様たちからも上がるだろうけど、具体的な作業手順の理解を得ておいた方が良いだろうから、ルナリアたちが報告書を書いている間に領主執務室へお邪魔するかな。
報告が上がってバレてから叱られるよりも、「叱られました」と自己申告した方が叱責は和らぐだろう、などという読みが有ることは否定しない。
地声が大きいハインズ様に怒鳴られる事態は遠慮したい。
絶対に嫌だよ。怖いもん。
帰り道にはブービートラップも仕掛けないとなあ。
対人用のワナ技術を身に付けたい王都の騎士様たちからの圧が強いのも有るけど、オーリアちゃんがヤル気マンマンだから、オーリアちゃんの要望に応えてあげたい。
成果の把握を終えた私たちは、手早く撤収準備を整えて帰路に就いた。