軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

領有宣言 ⑫

「・・・アリアナさん。手伝ってくれる?」

「もちろんです」

にっこりと笑い返してくれたアリアナさんと相談しながら、「枝落とし」作業の問題点の解決策を考える。

「転がるのが問題―――、いいえ、逆ですか。下側の枝を払うのに転がしたい、と」

「・・・うん。安全に転がって欲しい。普通、どうするんだろう?」

「転がすのなら、フックで引っ掛けて大勢で転がす・・・はずです」

「・・・フック?」

「こう、鈎型の金具が付いた、長い棒ですね。転がす場合の枝を落とす手順は、フィオレ様のお考えで合っています」

手鉤の長いヤツ、ってことは、鳶口かな。

消防作業で燃えている木材を崩すのに使ったりする長柄の道具。

たぶん、私の想像は間違っていないだろう。

「・・・人力で転がすのかあ。転がさない場合は?」

「枕木を使います。地面との間に枕木を噛ませれば木材は宙に浮きますから、下側の処理も出来ます。この場合も、転がらないように両側からフックで支えて、枕木の上に落ちるように下側の枝を徐々に払っていくはずですが」

「・・・そっか」

切り倒した木は下側の枝が邪魔になって幹が宙に浮いている。

幹と交差するように枕木を下に差し込んだ状態で、幹が転がらないようにバランスを取りながら下側の枝を落として行けば、徐々に幹の高さが下がって最終的に枕木の上に着地する、と。

でも、枕木にする木材も重いよね?

恐らく、枕木も丸太サイズなのでは無いだろうか。

私が一人で丸太を担いで運んで来られるなんて思わないし、私一人の力で何とか全ての枝葉を落として幹を丸裸に出来ないだろうか。

一人で・・・?

やっぱり魔法かな。

剣と魔法の世界なのに土木工事だからって魔法を使わない手はないよね。

「・・・魔法で何とかする方法って無いかな? 人手を使わないで枝の処理をしたいんだけど、枕木を運ぶのにも人手は要るよね?」

「魔法術式でですか。建設作業では土の術式が得意な魔法術師が重宝されると聞きますが」

「・・・あっ。そうか、土魔法!」

ポン、と手を打つ。指を揃えた手を斜めに挙げて、アリアナさんに示す。

「・・・こう、さ。土魔法で下の地面を斜めに持ち上げれば、勝手に坂を転がるよね」

「ああ、確かに。それなら危険は少なそうです」

上側の枝を全部落とした後で転がせば、残っている枝が邪魔をして、それ以上は転がらないはずだ。

現にアリアナさんの暴風魔法で転がしても、枝を落とし終えた面が下になった状態以上には転がらなかった。

幹が転がる範囲だけを立ち入り禁止にすれば事故は起こらない。

丸太材に変わった幹の下に枕木を差し込む作業も、土魔法が得意な魔法術師が居れば枕木を運ぶ人手だけ居れば良いし、少ない人数で出来る。

ノイエラさんやお婆様の土魔法のイメージで攻撃に使うのがメインだと先入観を持っていたけど、日本人的な発想で考えれば、土魔法って土木作業でこそ輝く技術だよね。

「・・・やってみよう! あ。ちょっと待って。この木の処理を先に終わらせなきゃ」

「失礼します」

再び幹の上によじ登ろうとしたら、サッと両脇に手を差し込まれて、ヒョイと持ち上げられた。

「・・・ありがとう」

「いいえ」

登るのを手伝ってくれたアリアナさんにお礼を言うと、澄まし顔で首を振った。

ド根性で困難を乗り越えようとする脳筋体質を知らなければ、クールビューティーだと誤解してしまいそうだよ。

エゼリアさんたちみたいに騙される男性は多いんだろうなあ。

「フィオレ様は、術式の発動が早いですね」

「・・・慣れだよ。慣れ。誰でも慣れれば出来るようになるよ」

風ジェットカッター魔法を発動し直して、バッサバッサと枝を落として行く。

やりっ放しで放置するのは心苦しいけど、建設作業に従事する兵士さんたちの仕事を減らしているのだから、切り落とした枝葉の後片付けはお願いしよう。

丸太材になった巨木の幹からストンと飛び降りる。

「・・・この木材、どの程度の長さで先っぽを切り落とせば良いのか分からないね」

「建設作業の担当部隊が規格を決めて加工すれば良いことです」

「・・・そりゃ、そうだ。次に行こう」

アリアナさんと連れ立って2人で相談した土魔法方式を試す。

結果として、切り倒した巨木の枝を払って丸太材に加工する工程で土魔法は絶大な威力を発揮した。

幹を転がして半回転させるだけで安全だし、何より、叱られることが無い。

叱られないんだよ。

重要なことだから2回言った。

これ大事。

だって、大声嫌だし。

いつまでも苦手意識を持ってるのもなあ。私も苦手を克服して行かなきゃね。

お昼の時間を少しだけ回った頃に、街道敷設予定地の縄張り作業を視察しに行っていたお婆様たちが戻って来た。

お婆様たちは謝っていたけれど、自分一人の魔法で巨大な木をバッタバッタと倒せる万能感に酔ってハイになっていた私たちは、誰一人として昼食の時間になっていることに気付いて居らず、お婆様に作業の中断と集合を命じられて初めて時間に気付くような有り様だった。

そして、今、私はお婆様からお叱りを受けている。

「―――で。領軍が行う建設作業を手助けするつもりで製材作業にまで手を出して、どうすれば自分一人で丸太材に加工できるかを考えるのに夢中で意図的に術式を暴発させて、周囲を巻き込みかねない危険な実験をした、と?」

「・・・はい・・・」

枯れ葉が積もった地面に正座させられている私は項垂れる。

怒鳴られるのもキツいけど、淡々と詰められるのもキツい。