軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

領有宣言 ⑪

「・・・あっ。アレが使えるかも」

昨日、初めて魔石使用と風ジェットの発動に、アリアナさんが成功したときの、アレ。

ストンと幹の上から飛び降りる。

“ブロワー”って名前だったかな。

地球の道具で強力なドライヤーみたいに強い風でゴミを吹き飛ばして集める電動工具が有ったはず。

アリアナさんのアレは失敗した結果だったけれど、効果としては、ブロワーの風をもっと強力にしたヤツだ。

目の前で見ていただけに、あのときのアリアナさんが、どういう状況だったのかは想像がつく。

剣術も身体強化も魔法技術も常に鍛錬を怠らないアリアナさんは、魔法のイメージ自体は出来ていても、自分の中に有った常識と懸け離れていたから、心が受け入れられなかっただけなのだ。

体内魔力保有量がそこそこ多いアリアナさんが、豊富な自分の魔力を、自分自身と同一視できない魔石にグイグイと押し込もうとして、心の防波堤が緩んで回路が繋がった瞬間、制御されていない強い魔力が魔法の形を得て暴発に至った。

アレを再現すれば、切り落とした枝ごと巨木を転がす程度は出来るのでは無いか。

手の中の魔石に「質」を似せていない自分の魔力を押し込む。

「・・・むむむ」

改めて、魔力の抵抗がすごい。「魔石の魔力は使えない」というのは、こういうことか。

魔力の質を似せないと、これほど抵抗が強いとは。

この抵抗をねじ伏せて魔石に自分の魔力を押し込むなんて、どれだけ馬鹿力なのか。

アリアナさんは、かなり魔力制御が上手いのでは無いのだろうか。

加減が分からないので暴発しても怖いし、無理しない範囲で発動してみようか。

魔力の圧力を保ったまま、魔法のイメージを固めて発動する。

ヒュゴオオオオオオオオオ! 暴風が噴き上げて、体重の軽い私の方が後ろへ転がりそうになる。

勢いに負けないように腰を落として踏ん張って、暴風を巨木に向けると、切り落とした枝が舞い上げられて、台風のテレビ中継を見ているように宙へ噴き飛んで行く。

「・・・むむむむむ!」

まだか? もっとか? 胸の中に有る熱の塊が温度を下げ始めているけど、粘る。

暴風をまともに受け止めている巨木が向こう側へグラリと揺れて、跳ね返された風が地面の土や枯れ葉を吹き上げて濛々と舞う。

何か凄いことになっている、と気付いたピーシーズが自分の作業を放っぽり出して駆け寄って来ている。

バキボキと枝がへし折れる音を響かせて、ゴロンと巨木が半回転した。

「・・・勝った!」

魔法を止めて、魔石を握った拳を高く掲げる。

風が消えて浮力を失った土や枝葉が頭上からバラバラと降り注いでくる。

「・・・うおっ!?」

おおっ、危ない。「ドサァッ!」と重い音を立てて、私の胴と同じぐらい太い枝が腕ギリギリを掠めて降ってきた。

よく飛んだな、こんなに太い枝。

「大丈夫ですか!?」

「何やってるんですか!!」

顔色を悪くしたピーシーズに取り囲まれて、アリアナさんとオーリアちゃんに私の肩や頭に乗っかった土や葉っぱをバシバシと叩き落とされ、めっちゃ怒られる。

近くで見ていた子たちが飛んできたらしい。

大きな声で怒鳴られるの苦手なんだよ、オーリアちゃん。

ほら、一緒に飛んできたアリアナさんもオーリアちゃんの剣幕に引いて黙っちゃったよ。

「・・・だだだ、だって、転がさないと、裏側の枝が落とせないし」

「だって、じゃ有りません!!」

「・・・あうう」

「ケガしたら、どうするんですか!!」

足元に落ちている、ぶっとい枝が目に入る。

直撃していたらケガでは済まなかったかも。

「・・・は、はい」

「もう・・・。痛いところはないですか?」

抵抗を諦めたらオーリアちゃんのお怒り圧力が消えた。

心配そうな目で全身を矯めつ眇めつされる。

ここは素直に謝っておいた方が良いんだろうな。

ルナリアたちやお婆様たちが居ても叱られたのは間違いなさそうだ。

「・・・無い。ごめんなさい」

「ま、まあまあ、オーリア。その辺で」

「分かってます!」

「・・・あっ。オーリアちゃん」

宥めに入ったアリアナさんから目を逸らして強く言い放つと、オーリアちゃんは背中を向けて行ってしまった。

見送ったアリアナさんが眉尻を下げている。

「どうか、ご容赦を。オーリアは施設育ちで、年下の面倒を見ることが多かったらしくて。当たりはキツくても面倒見は良い子なので・・・」

私が入れて貰おうと考えてた施設かな?

巡り合わせが少し違ったら、オーリアちゃんを「お姉ちゃん」と呼んでいた世界線も有り得たのかも。

「・・・私を心配して怒ってくれたのは分かってるから。アリアナさんも、ありがとう。みんなも、お騒がせしました」

「いいえ」

アリアナさんがニコリと微笑み、休憩中のアリアナさんを残して他のピーシーズたちは、それぞれの作業に戻って行く。

・・・何か、引っ掛かるなあ。

ワナへの食い付きが良かったオーリアちゃんと、さっきの、火が点いたように怒ったオーリアちゃん。

「・・・アリアナさん。オーリアちゃんは、何で施設に?」

「母親はオーリアが覚えていないぐらい幼い頃に病気で亡くなったそうで、唯一の肉親の父親は兵士だったのですが、5年ほど前に有ったカリークの侵攻で・・・」

「・・・そっか」

人間用のワナに興味が強かったのは、それでか。

・・・仇討ちかな。

オーリアちゃんは、アリアナさんたちの4歳下だから、今、9歳。

5年前ってことは、4歳の時にお父さんが戦死して、ピーシス領の施設に、ってことか。

4歳の頃のことなら、今でも当時のことを覚えているはずだ。

もし、万が一にも、お母様や大切なみんなの身に、「もしものこと」が有ったりしたら、私も同じようになるんだろう。

絶対に仇を許さないし、きっと、非力な自分でも仇を倒せる技術を得られる機会が有れば必死に学ぼうとする。

後で、オーリアちゃんとも、ちゃんと話そう。

作業の手を抜くつもりは、これっぽっちも無いけどね。

私は「もしものこと」を起こさせるつもりが、そもそも無い。

やらずに後悔するぐらいだったら、叱られても、やって後悔する方を選ぶ。

まあ、遣り方は、オーリアちゃんに叱られないように、もうちょっと考えよう。