軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

領有宣言 ⑩

10枚の見取り図に分散した地形情報をそれぞれ読み込む。

多少、地面の形状が凸凹しているようだけど、大きな岩とか障害になりそうな物は無さそうだね。

ルナリアには「1枚に情報をまとめる」と言ったけど、本当は、現場用と報告用の2枚作るつもり。

今日の私は肩掛けカバンを提げている。

カバンの中には報告書の書式と予備の白紙とインクとペンが入っている。

お婆様に持たせて貰ったインクとペンで、10枚の内の2枚に同じ情報を書き込んでいく。

管理者と現場が同じ基礎情報を持つことで齟齬を減らして間違いを減らす。

現場を頻繁に見に来られない管理者が誤判断を下す可能性を減らして不要な現場の混乱を抑止するためにも情報共有は必須だからだ。

文字情報だけで無く見取り図という視覚情報を添えることで理解の間違いも減らせるし、脳筋なウォーレス家なら視覚情報で直感的に把握する方が誤認と誤判断は減らせるはずだという読みも有る。

定期的に報告書へ見取り図を添えることで提出書類上の基準点を設ければ、時系列と進捗が把握しやすくて理解が早くなってトータルの仕事量も減るだろう。

仕事量が減って時間的に余裕が生まれれば、最終的にお爺様たちが缶詰になるような負担も減るはずだ。

領内の各所から領主執務室に集まる書類を何度か目にしたけど、アレはダメだ。

長々と作文が書いてあって、それを読み込んで何が起こって何が問題で、どうしたのか、どうして欲しいのか、読む側の読解力を要求される。

改善すべき余地を発見した―――、というか、見せつけられたので、書類形式の定型化を試みる。

箇条書きで、日時と議題と情報が端的に記してあれば、読み取る側も情報のポイントが絞られていて理解速度が上がる。

箇条書きだから複数の項目が1枚の書類に盛り込まれていても、チェックリストとして機能するだろう。

ゴチャ混ぜの情報を整理して上げれば、こちらも間違いを減らせて時間短縮に繋がるはずだ。

お爺様たちが書類形式で仕事の効率が段違いになることを理解して受け入れてくれれば、仕事が忙しくてハロルド様がルナリアを構う時間を作れず、寂しそうにすることも減らせるのでは無いだろうか。

ハロルド様とお母様に構って貰える時間が増えればルナリアも喜ぶ。

領主執務室へ提出する報告書はルナリアに書かせるつもりだけど、報告する項目と箇条書きの要点の押さえ方はピーシーズと意見を出し合わせてルナリアに決めさせる。

王都でプロの文官が書いた報告書を見慣れているであろうテレサはシード枠で、オブザーバー参加に留めるように言ってある。

定型書式のヒナ形は、昨夜の夕食後、お婆様が一般書類サイズの紙束を持ってきてくれたので、テレサとルナリアが寝入った後に起き出して、線引きを済ませてある。

定規が無いので机の引き出しの底を使ったから線を引きにくかったけど、会社員時代に使いやすかった形式を真似て作った。

こっちの世界には活版印刷っぽい印刷技術が有るみたいだから、定型書式が決まって、印刷所で大量生産して領内各所に配布すれば、事務仕事の遣り方が領内全体で統一されて、多少は効率化に貢献できると考えている。

書類って文官のような事務方専門だけの仕事じゃあ無いからね。

自分の目で現場を見ている人間しか生の情報は知らないし、管理業の文官は現場に貼り付いて見ているヒマは無いだろう。

この時点で齟齬が発生するから報告書類は現場の人間に書かせるしか無い。

現場の人間は現場の業務との兼任を強いられるから、書類仕事なんてものは簡単で早く終わればストレスを溜めずに済む。

負担が減れば、先ほどのピーシーズのような拒絶反応を起こす人も減るだろう。

記録と伝達のためだけに書類は存在するのだから、用途さえ果たせれば書類は簡単な方が良いのだ。

メールだってSNSだって、短文で要点がまとまっている方が読みやすいよね。

見取り図の情報をまとめている間にも「シャアアアアアアア」と風ジェットカッター魔法が木の幹を削る音が遠く聞こえてきていて、たった100メートルも音源から離れていないのに意外と小さな音に聞こえるものだと感じた。

300メートルも音源から離れれば聞こえなくなりそう。

ルナリアとの逃避行のときは警戒しすぎだったのかも?

いや、結局は捕捉されたし、獣人族だとか耳が良ければ、もっと離れていても聞こえるんだろうな。

そうこうしている内に「ザザザザアアアアアアン」と木が倒れたらしい音が聞こえてきたので、伐採作業は順調に進んでいるようだと安心する。

1本当たりの所要時間は4分―――、5分間ぐらいだろうか。

うちの子たちなら、加減とコツが分かってくれば半分以下まで短縮できるはずだ。

剣を振ったり体を動かしたりは私よりも得意だから、ラップタイムが私よりも早くなる可能性が高いんだよね。

簡単には追い抜かれないように私も精進しなきゃ。

見取り図のまとめ作業が終わったので伐採現場に戻る。

伐採の順番が終わって休憩中だったらしいアリアナさんが腰を上げて駆け寄ってくる。

「フィオレ様。書類は終わられたのですか?」

「・・・うん。見る?」

「なるほど・・・。こうやって全部の情報を合わせれば1枚の地図になるのですね」

「・・・範囲が限られていたし、みんなで手分けした方が早い簡単な内容だったからね。詳細な情報が必要な本物の地図だったら、こうは行かないよ」

アリアナさんが完成版の見取り図を私に示す。

「皆に見せても?」

「・・・良いよ。じゃあ、私も伐ってくるかな」

肩から提げていたカバンをアリアナさんに預けて、代わりに受け取った魔石だけをポケットに突っ込む。

現在進行形で伐採作業が進んでいる方向を避けると、比較的安全なのは伐採済みの方向かな。

切り倒しただけで転がっている巨木が、現時点では4本か・・・。

枝葉を落とさないと運搬も出来ないから、枝でも落としておくかな。

よっこらせ、と、横たわった幹の上へよじ登り、取り出した魔石を通して風ジェットカッター魔法を発動する。

私の足程度の太さの枝ならスパスパと切れる。

蝿でも追い払うように腕を左右に振って、目に付く枝の付け根を片っ端から切り飛ばして行く。

「・・・うーん。上側は良いけど、下側はどうしようかな」

木の上側は綺麗に丸坊主になったけど、木の自重で押し潰されている下側の枝が切れない。

側面の枝も安定して切れる範囲は切り終わったけど、下側の枝を下手に切って幹が転がると危険だから作業をストップした。

切り落とした枝も邪魔だなあ。